ちびりゅうや(ちびりゅう がいでん)

関谷俊博

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ちびりゅうや

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「おい。ちびりゅうや。ちびりゅう を わけてくれ」
あいさつも そこそこに せいねんは いいました。
「いるんだろ? ちびりゅう」
この せいねんは さきほど おじさんを たずねてきたのです。おじさんは せいねんと あうのは はじめて。すこし ずるそうな かおを した せいねん でした。
「あいにくだったな」
おじさんは かたを すくめました。
「みっかまえ さいごの いっぴきを うっちまったよ」
しつれいな やつだ。おじさんは おもいましたが くちには だしませんでした。
「ことしは もう おわりだ」
ほんとうは まだ にひき いたのですが みずしらずの にんげんに ちびりゅうを ゆずる きは おじさんには ありません。
「あんた どうして そんなに ちびりゅうが ほしいんだ」
おじさんは せいねんに そう たずねました。
「だって たかく うれるそうじゃないか」 
せいねんは こたえました。
たしかに ちびりゅうは にんきが ありました。
ウーパールーパーや カメレオンや ゴライアスオオカブトも おじさんは うりものとして かっていましたが なんといっても いちばんの にんきは ちびりゅう でした。  
「じゃあ たまごだ。ちびりゅうの たまごだったら あるだろう?」    
あきらめきれない かおで せいねんは いいました。
おじさんは ちびりゅうを たまごから そだてていました。けれども それには わけが ありました。
やせいの ちびりゅうは けっして ひとに なつかないのです。
やせいの ちびりゅうを かっても たいていは ひを ふくか たつまきを おこして どこかへ とんでいってしまいます。
「ざんねんだったな。ちびりゅうの たまごを とりに いくのは はるに なってからだ。いまは いっこもない」
おじさんが そう いうと せいねんは かたを おとして かえって いきました。

うりものの ペットを そだてる ひとの ことを ブリーダーと よびますが おじさんには たくさんの ブリーダーなかまが いました。
けれども ちびりゅうの ブリーダーは おじさん ひとり でした。
おじさんの なまえは「はやたさん」と いいましたが なかまたちは はやたさんの ことを「ちびりゅうや」と よんでいました。
なぜなら ひとに なつく ちびりゅうは はやたさんにしか そだてられなかった からです。
はやたさんから たまごを もらって ちびりゅうを そだてた ひとも いましたが やせいの ちびりゅうと おなじで すこしも ひとに なつきませんでした(それを しらない あの せいねんのような ひとが はやたさんを たずねてくる ことも ありましたが)。
このことを なかまたちは とても ふしぎがりました。
だけど はやたさんには わかっていました。
ちびりゅうは ひとの きもちが わかる。じぶんの こどもを そだてるように たいせつに たいせつに そだてないと ひとに なつかないって ことを。 

せいねんが かえって しまうと はやたさんは にわの こや へと むかいました。
こやの なかには いくつもの たなが あって そこには たくさんの すいそうが おかれています。
はやたさんは そこで うりものの カメレオンや ゴライアスオオカブトを そだてていました。
もちろん ちびりゅうも です。
にひきの ちびりゅうは はやたさんの かおを みた とたんに なきはじめました。
「がお! がお!」
「がお! がお!」
いちばん てまえの たなに おかれた すいそうの なかからです。
「ああ。すこし まちな。すぐ あさごはんに するからよ」
はやたさんは いいました。

はやたさんは ちびりゅうに あえて なまえを つけませんでした。
なまえを つければ きっと はなれがたくなる。
そう おもったからです。
だけど はやたさんは たくさんの ちびりゅうを きちんと みわけることが できました。
ほんとうのところ はやたさんは たくさんの ちびりゅうたちの せいかくの ちがいまで わかっていたのです。
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