ちびりゅうや(ちびりゅう がいでん)

関谷俊博

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たまごがり

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ことしも「たまごがり」の きせつが やってきました。
ちびりゅうの たまごを とりに いくのは はるに なってからだ。 
はやたさんは せいねんに そう いいましたが それは うそ でした。
ほんとうは あきの おわりに ちびりゅうは たまごを うむのです。
ちびりゅうが たまごを うむのは めったに ひとも やってこない ふかい やまの なか でした。
おじさんは だれかに たずねられても けっして その ばしょを おしえませんでした(ですから なかまたちは ちびりゅうを てに いれる ためには はやたさんに たのんで わけてもらう しかありませんでした)。
たくさんの ひとが たまごを とりに きたら たちまち ちびりゅうは いなくなってしまう。
はやたさんは そう かんがえて いました。
はやたさんは ちびりゅうの たまごを とるのは いちねんに じゅっこ までと きめていたのです。

はやたさんが「たまごがり」に でたのは よく はれた ひの ごごでした。
そらには うろこぐもが わきだして キラキラと かがやいて いました。
はやたさんは けわしい やまみちを すすみました。
いま あるいて いるのは がけぞいの いっぽんみち です。あきの やまは あかや きいろに いろづいて いましたが けしきを たのしむ よゆうは もちろん ありません。
それでも はやたさんは くろうして ちびりゅうの すむ もりへと たどりつきました。

ちびりゅうの もりに たどりついた はやたさんでしたが たまごを てに いれるのは なかなか むずかしい ことでした。
ちびりゅうは とても たかい きの はっぱに たまごを うむのです。だけど はやたさんは きのぼりの めいじんでしたから これは あまり もんだいに なりませんでした。
もんだいは ちびりゅうの たまごが おこめの つぶ くらい ちいさい ことでした。
きのうの よる あめが ふった せいで もりの きは すべりやすく なっていました。
だけど はやたさんは きのぼり には ぜったいの じしんを もっていました。
こどもの ころから いえの にわに ある かきのきに のぼって あそんでいたのです。
はやたさんは なんぼんも きに のぼって このはを ひっくりかえしては ちびりゅうの たまごを さがしつづけました。
けれども ちびりゅうの たまごは なかなか みつかりません。
はやたさんが ようやく たまごを みつけたのは じゅうごほんめの きの はっぱの うらがわでした。
はやたさんは かたに かけた かばん から ちいさな ちいさな ガラスびんを とりだしました。
びんの そこには わたが しかれています。
はやたさんは びんに そっと たまごを いれると コルクで ふたを して また かばんに しまいました。
「よし」
はやたさんは いいました。

どうして はやたさんが そんなことを したのか わかりません。  
もしかしたら やっと ちびりゅうの たまごを てに いれた という ゆだんが あったのかも しれません。
とにかく はやたさんは そのき から おりるときに とても ほそい えだに あしを おろしたのです。
はやたさんが あしを かけた とき ボキッと おとを たてて きのえだが おれました。
はやたさんは あわてて べつの きのえだに てを のばしましたが おそすぎました。
はやたさんは いきおいよく じめんに おちました。
そして あおむけに じめんに ころがりました。
はやたさんは しばらく ぼんやりと あきの こもれびを ながめていました。
さいわい あたまは うっていません。
はやたさんは ためしに りょうてを うごかしてみました。だいじょうぶな ようです。
つぎに ひだりあし。こちらも だいじょうぶ。きちんと うごきます。
そこで たちあがろう とした はやたさん でしたが
「いたっ!」
とたんに みぎあしに ひどい いたみが はしりました。とても たてそうに ありません。
はやたさんは それでも りょうてと ひだりあしを つかって きの みきに もたれかかりました。
「おれたかな…ほねが…よわったな」
    
そのまま じかんは どんどん たって いきました。
はやたさんは からだを ブルっと ふるわせました。
もう ゆうぐれが ちかいのです。
ただでさえ あきの おわりの ひざしは よわいのに はやたさんが いるのは ふかい もりの なか です。 
あたりは しだいに くらく なっていきます。
なにかが ぱたぱたと とんできて はやたさんの めのまえの じめんに まいおりました。
はじめ はやたさんは ことり かと おもいました。
あたりが くらくて よく みえなかったのです。
だけど めを こらして よくよく ながめてみれば それは ちびりゅう でした。
「がお?」
はやたさんを みると ちびりゅうは くびを かしげました。
「この もりの ちびりゅうか…」
はやたさんは つぶやきました。
「わらえるだろう? わたしとしたことが…ヘマをしたもんだ…」
はやたさんは また ブルっと からだを ふるわせました。やまの よるは とても さむいのです。
すると ちびりゅうが はやたさんの コートの なかに もぐりこんで きました。
「おまえ…」
はやたさんは おどろきました。やせいの ちびりゅうが ひとに なつかないことを よく しっていたからです。
「そうか…わたしと いてくれるのか…いてくれると いうのか…」

そして あさに なりました。
そのよる ちびりゅうは ずっと はやたさんと いっしょに いました。
はやたさんは「ありがとう」と ちびりゅうに いいました。
「もう いきなさい。おまえが いてくれた おかげで とても あたたかかったよ」
すると ちびりゅうは パタパタと とびたちました。
はやたさんは ぼんやりした あたまで ちびりゅうを みおくりました。    

はやたさんが そのことに きが ついたのは ちびりゅうが さってから なんじかんか たった あと でした。
もりの きの あいまを なにかが ちらちら しています。
「おーい!」
はやたさんは さけびました。
「おーい!」
はやたさんは もう いちど さけびました。せいいっぱい こえを はりあげて。
「ここだ! ここだ!」
やがて もりの むこうから あらわれたのは ふたりの おとこの ひと でした。
ちびりゅうも いっしょです。
おとこの ひとは ふたりとも オレンジいろの ベストに ぼうしを かぶり てには じゅうを かまえています。
どうやら りょうしさんたちの ようです。
ちびりゅうは ふわりと はやたさんの かたに とまりました。
「どうしたんだ? あんた」 
せが たかい ほうの りょうしさんが はやたさんに たずねました。
「じつは き から おちてな。うごけないんだ」
「き?」
りょうしさんは ふしぎそうな かおを しました。
「どうして き なんかに のぼったんだ?」 
はやたさんは ことばに つまりました。
ほんとうの ことを いえば ちびりゅうの たまごの ありかが わかってしまいます。
「くま だよ」
はやたさんは いいました。
「くまが おそってきたから きに のぼったんだ」
「そうか…くまか…」
「とにかく たすかった。あしの ほねが おれてる みたいなんだ」
「そいつは さいなん だったな」
りょうしさんは うなずきました。
「だけど あんしんしろ。ここじゃ でんわも つかえないが おれがいって すぐに レスキューたいを よんでくるから」
「すまないが たのむ」
はやたさんの こころから ようやく ふあんが きえました。
「だけど あんたら よく ここが わかったな」
はやたさんは たずねました。
「この ちびだよ」
すると こんどは せがひくい りょうしさんが はやたさんの かたに とまっている ちびりゅうを ゆびさしました。
「この ちびが おれたちの まえから どこうと しないんだ。しかたないから ほうこうを かえて あるきはじめたら ちびは おれたちの まえを とびはじめた。ついてこいって いうようにな」
「そうか…そういうこと だったのか…」
「ああ。そのとおりに ついていったら あんたが ここに いたって わけだ」
そのとき ちびりゅうが はやたさんの かたから じめんに まいおりました。
そして はやたさんの かおを みると「がお」と ひとこえ なきました。
そして つばさを ひろげて もりの おくへと とんで いきました。
いちども うしろを ふりむかずに。

「ちびりゅうを たいせつに すれば ちびりゅうも きっと きみを たいせつに してくれる」
ちびりゅうを うるときに はやたさんが いうように なったのは それからのことです。
「きみだけの たいせつな ともだちだよ」
はやたさんは そう つけくわえる ことも わすれませんでした。
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