しき神つかい

関谷俊博

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茂さんに会ったことを、ぼくはサジに話した。得体の知れない影のことは、言っても信じてくれないような気がして、黙ってた。
「おまえ、賀茂とはあまりつきあわないほうがいいぜ」
ぼくの話を聞いたサジは言った。
「どうしてさ」
「どうしてもさ。とにかく忠告しとく。賀茂とはかかわるな」
サジは言い残して、さっさと教室を出ていってしまった。
「あれは、どういう意味なんだろ」
ぼくは前の席の伊藤くんにたずねてみた。伊藤くんは、ぼくに耳打ちした。
「賀茂さんのうちは、村八分になってるんだよ」
「村八分?」
ぼくも小声で言った。
「賀茂さんのうちは、この村の神社じゃないか。それが村八分って、おかしくない?」
「ぼくには良くわからないんだけど、賀茂さんちは、怨霊と関係があるんだって。大人たちが、そう言ってるんだよ」
「怨霊!」
「うん。夕方六時を過ぎたら外へ出るなって大人は言ってるでしょ? それは賀茂さんちの怨霊のせいだって言うんだよ」

夏休みに入ってすぐ、ぼくは村にひとつだけある図書館へ出かけた。
賀茂さんちは、怨霊と関係がある。この伊藤くんの言葉がとても気にかかって、この村について調べてみようと思ったんだ。
ぼくは郷土資料のたなで、一冊の本を見つけた。題名は『当麻村の伝承と伝説』。パラパラと本をめくっていると「当麻の里の怨霊」という話がのっていた。こんな話だ。

昔、須佐景晴という陰陽師が、当麻の里に流罪となった。
自分を流罪とした者への恨みから、死後に怨霊となった景晴は、たびたび都に現れては殺戮を繰り返していた。 
これに若い陰陽師が戦いを挑み、景晴の怨霊を倒すも、自分もまた傷つき倒れた。
景晴の復活を怖れた都の者は、当麻の里に賀茂神社と鬼塚を築いて、怨霊を封じ込めたと伝えられている。

ところどころ、わからない言葉もあったけど、若い陰陽師が、怨霊を倒す話であることはわかった。
そして、賀茂神社と鬼塚とかいう場所が、怨霊を封じこめていることも。
だけど、伊藤くんは怨霊は賀茂神社のせいだと言っていた。
これじゃ、話が逆じゃないか。
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