ウェントス

関谷俊博

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俺は勾留中の杉浦と面会した。
「すみません、荻さん」
杉浦は目に涙を溜めていた。
「全米ツアーの最中に、ジェフから勧められたんです。ミュージシャンなら体験しとくべきだって」
杉浦は俺に何度も頭を下げた。
「ジェフは言ってました。殆どの州でマリファナは合法だから、ダイジョブ、ダイジョブって」
確かにアメリカでもコロラド州では、マリファナは合法とされている。所持も使用も売買も自由だ。だがカリフォルニア州法には、大麻所持に関する罰則規定があった。
「自分はそれを鵜呑みにしてしまったんです。興味本位に手を出しました」

だが結末は呆気なかった。罰金百ドル。それが杉浦に下された刑罰だった。日本に比較して余りにも軽い刑罰だが、カリフォルニア州法には大麻所持に関する罰則はあったが、大麻使用に関する罰則はなかったのだ。程なくして杉浦は釈放され、E&Mからジョクラトルに復帰することも認められた。

杉浦は単独で謝罪の記者会見に臨んだ。
「関係者の皆様、そしてファンの皆様に、深くお詫び申し上げます」
杉浦はこう述べて、深々と頭を下げた。
ところがアメリカには。ミュージシャンが薬物を使用しても、さほど珍しくないといった雰囲気があった。ヘロインやコカインといったハードドラッグですら、そうなのだから、ゴシップネタの欲しかった記者たちは、なんだ、マリファナかあ、位の反応だった。
いずれにせよ、杉浦の謝罪会見は、好意的に受け止められた。日本だったら、こうは行かなかっただろう。

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