闇のなかのジプシー

関谷俊博

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翌日、柊は登校してきた。 
その日の授業がすべて終わると、僕は下駄箱の前にいる柊に声をかけた
「柊さん」
柊は黙ってふり返った。
「いっしょに帰らない? もちろん良かったらだけど」しばらく柊は考えていたが、やがて小さな声で、
「いいわ」と言った。
その日から、僕と柊は二人で帰るようになった。帰る方向が同じだったのは幸いだった。
「ききょう学園」まで五分。なにも話さないで、ただ二人で歩くこともあれば、ぽつりぽつりと話をしながら帰ることもあった。
「きみは本当の両親のことを覚えているの?」
そんなふうに、僕はたずねてみたことがある。
 
「父親のことは覚えていない。だけど母親と別れたときのことは、覚えているわ
僕は黙って柊の話に耳を傾けた。
「その日、母親は私に言ったの。公園に遊びに行きましょうって。そして私と母親は、電車を何度も何度も乗り継いで、知らない街へ出かけていった」
「それがこの街だったんだね」
「ええ。私を公園のブランコに座らせると、母は言ったわ」
「なんて?」
「買い物してくるから待っててって」
「知らない街の知らない公園で、私はいつまでも母を待った。だけど母は戻ってこなかった。本当にいつまでもいつまでも待ったのよ」

「悲しかっただろうね」
迂闊な質問だった。柊は答えた。
「いいえ…なにも感じなかった」
「そう…」
母親に捨てられたときから、もうすでに柊は感情を失くしていたのだ。あるいは学んでいなかったのだ。
「悲しいという気持ちも、私にはわからないの」
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