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「行くのか、若威」
「ああ」
五日後、若威は、小萩の村にいた。
小萩の後を追って、やってきたのだ。
「我には、まだやらなければならないことがある。とりあえずは義倉から、米を放出し、人々が飢えることのないようにしよう」
「できるのか? それが」
「われが、将軍様に、この度の富士講の活躍も含め、進言する。すべきことは、まだある。扶持米を減らし、年貢を軽くする。われは、それが言える立場にあるのだ」
若威は、小萩が思っていたより、ずっと位の高い家臣だったらしい。恐らくは家老の一人、将軍様の側近として、仕える職にあるのだろう。
「小萩。おまえとの旅は短かったが、いろいろと教えられることが多かったようだ」
「そうか」
「太夫や犬神筋も、思えばかわいそうなことをした。呪詛の法を修したとはいえ、王道楽土を建設したいという願いは、切実だった」
「ああ」
「王道楽土は一夜にしては来ない。だが小萩。我らは歩を進めよう。誰も飢えることのない、誰も苦しむことのない、そんな世の中を共に目指そう」
小萩は、少しためらっていたが、思っていたことを口にした。
「若威。あの親子のこと覚えているか?」
「川岸にいたあの親子のことか?」
「うん」
「忘れるはずもない。あの親子はどうにかして助けたかった」
「あのとき、若威は言ったよな。もっと米を与えれば、あの親子は生きのびることができただろうかって」
「ああ」
「あのとき、あたいも言いかけたんだ。そうだな、そうしようって」
「そうか」
「今からでも遅くない。今ある米を全部あの親子にくれちまおうって」
ジさまならきっとそうした、と小萩は思った。人のためなら、命も惜しまないジさまなら。
「小萩。自分はまたこの村に戻ってくる」
「きっとだぞ」
「ああ、きっとだ」
若威は、そういい残し、ゆっくりと馬の歩を進め始めた。
「若威!」
小萩は手をふった。
若威が次第に遠ざかっていく。その行く手に、今日も富士が見えた。
「ああ」
五日後、若威は、小萩の村にいた。
小萩の後を追って、やってきたのだ。
「我には、まだやらなければならないことがある。とりあえずは義倉から、米を放出し、人々が飢えることのないようにしよう」
「できるのか? それが」
「われが、将軍様に、この度の富士講の活躍も含め、進言する。すべきことは、まだある。扶持米を減らし、年貢を軽くする。われは、それが言える立場にあるのだ」
若威は、小萩が思っていたより、ずっと位の高い家臣だったらしい。恐らくは家老の一人、将軍様の側近として、仕える職にあるのだろう。
「小萩。おまえとの旅は短かったが、いろいろと教えられることが多かったようだ」
「そうか」
「太夫や犬神筋も、思えばかわいそうなことをした。呪詛の法を修したとはいえ、王道楽土を建設したいという願いは、切実だった」
「ああ」
「王道楽土は一夜にしては来ない。だが小萩。我らは歩を進めよう。誰も飢えることのない、誰も苦しむことのない、そんな世の中を共に目指そう」
小萩は、少しためらっていたが、思っていたことを口にした。
「若威。あの親子のこと覚えているか?」
「川岸にいたあの親子のことか?」
「うん」
「忘れるはずもない。あの親子はどうにかして助けたかった」
「あのとき、若威は言ったよな。もっと米を与えれば、あの親子は生きのびることができただろうかって」
「ああ」
「あのとき、あたいも言いかけたんだ。そうだな、そうしようって」
「そうか」
「今からでも遅くない。今ある米を全部あの親子にくれちまおうって」
ジさまならきっとそうした、と小萩は思った。人のためなら、命も惜しまないジさまなら。
「小萩。自分はまたこの村に戻ってくる」
「きっとだぞ」
「ああ、きっとだ」
若威は、そういい残し、ゆっくりと馬の歩を進め始めた。
「若威!」
小萩は手をふった。
若威が次第に遠ざかっていく。その行く手に、今日も富士が見えた。
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