夏の破片

関谷俊博

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佐々木のオフィスを出て、道玄坂を歩いていると突然、幻覚がやってきた。

だぶだぶの派手な衣装を身に纏った赤い髪の男が、僕の目の前に立っていた。目の周りと口元を白く塗りたくり、目の下には大きな涙マーク…ピエロか…。
「あなたは、どなたですか」
「どなた?」
赤や青、黄色や緑、原色を使った派手な衣装をはためかせて、男は宙返りした。
「名前は特にないな。道化とでも呼んでくれ」
「道化…さん…ですか」
「あんた、忘れ物をしたね」
道化は真顔で言った。真顔な道化というのも可笑しなものだが。
「あんたは彼女と離れるべきではなかったんだよ」
「彼女?」
「観月麻里のことさ」
「麻里さん…」
「彼女と離れたのは間違いだった。どこかで歯車が狂っちまったのさ」
道化は又宙返りを打った。
「あんたはアドレッセンスの夏を彷徨っているんだよ…閉じられた時空を行ったり来たり、行ったり来たり…。あんた、永遠にアドレッセンスの夏を彷徨う積りかい?」
堪えきれないというように、道化はゲラゲラと笑った。
「僕はどうしたらいい?」
「知らないね。自分の頭で考えな」
道化はそう言うと、すっと消えた。

我にかえると僕はまだ道玄坂の途中にいた。僕は現実に引き戻されたのだろうか…いや、道化は僕がアドレッセンスの夏を彷徨っていると言った。僕はまだそこにいるのだろうか…。

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