夏の破片

２２

佐々木から電話が掛かってきたのは、その浮気調査がひと段落しかけた頃だった。
「よう、生きてるか」
受話器の向こうから嘲るような佐々木の声が聞こえてきた。
「なんとかな」
僕は答えた。
「麻里の戸籍を調べてみた。適当に委任状を偽造してな」
佐々木は続けた。
「だがな、麻里に妹なんていなかったぜ」

「おまえが言った麻里の住所にも行ってみた」
佐々木は言った。僕は又佐々木のオフィスに来ている。
「どうだった？」
「父親がまだ健在だった。父親は言ったぜ。麻里は一人娘だとさ」
「そうか…」
僕と佐々木は暫く黙りここんだ。
「俺は俺でもう少し調べてみるがな」
「頼む…だが黙示録の子羊は何処へ消えてしまったのだろう」
佐々木は腕組みをして考えていたが、やがて口を開いた。
「こうは考えられないか。目的を達したから黙示録の子羊は解散したと」
「目的って何だ？」
「まあ、そんなものが本当にあるとしての話だが…」
佐々木は一呼吸おいて言った。
「解脱だよ」