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第一章
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ブレイン35 第一章 石枝隆美
***可愛い。今日から私の子よ。よろしくね。***
一
35歳、独身、高校の美術教師、彼氏あり。
私は市内の公立高校の美術教師だ。この学校に赴任して来て2年が経つ。生徒たちには美術の美人教師として慕われ、高校2年生の担任も受け持っている。同僚である歴史の野中先生とは付き合って半年になる。なんの不自由なく暮らしていた私の日々が一変するとは…私はなんとのほほんと暮らしていたことか。
いつものように美術の授業で使う用具を片付けていると、二人の男子生徒が美術室の扉を開けて入って来て私に話しかけた。
「先生こいつ先生のこと好きみたいださ、ちょとデートしてやってよ。」
もう一人の男子生徒は恥ずかしそうにして「やめろよ~。」と顔を赤らめている。
「あら~先生はお金持ちが好きなのよ。大きくなってお金持ちになったら誘って頂戴。」いつもの殺し文句だ。美人はこれだから困る。生徒と交際の噂が立って学校に知れ渡ったら大変だし、そんな面倒なことに関わる気はない。
それに私は野中先生という同じ学年の歴史の先生と付き合っている。野中先生とは美術に関係する歴史を教わっているうちに意気投合し、休日に美術館に行き、絵画や彫刻、工芸品を一緒に見る仲になった。今週の土曜日、市外の美術館に行き、レストランでディナーをする予定だ。
授業で使う材料の手配やプリントの印刷などの事前準備などをこなしていると、あることに気づいた。さっきの生徒は進路指導でどこにも就職する気はなく、実家の小料理屋を継ぐと言っていた子だ。実家を継ぐのは問題ないのだが、親御さんによると、小料理屋は経営状態が赤字続きらしく、とても後継者を育てる余裕はないとのことだった。そのため、普通の企業に就職するよう説得したのだが、本人が断固拒否していた。私は今日のホームルームの後、彼に居残ってもらい、話を再度聞くことにした。
二
私が教室に行くと彼が待っていた。
「あっさっきのはこの前先生に言われてたこと考えてて、先生のことじっと見てたら、あいつが勝手に勘違いして」
「そう。それはそうと、浜田くんは就職のこと、まだ気が変わらない?やっぱり実家のお店を継ぎたいと思ってる?」
「俺だって実家の店が経営ヤバいの知ってるかけど、でも小さい頃から父さんと母さんが守ってきたお店を俺も一緒に守りたいって思うんだ。俺も頑張るからそれでだめだったら諦めるよ。でもそれまではなんとか立て直したいんだ。」
「ご両親のことは説得できる?」
「安定した企業で働いた方がいいって言われてるけど、なんとか時間かけて説得してみるよ。」
「わかったわ。浜田くんがそこまで言うなら、どうなるかはわからないけど、良い方向に進めばいいわね。」
「うん。」
私は進路指導が終わったので、顧問をしている美術部の教室に向かった。
部員たちは文化祭に出す作品の製作に取り掛かっており、私が教室に入ってもしばらく気づかなかった。
「あっ先生。この作品どう思いますか?テーマは50年後の未来なんですけど。」
「んーこの配色はちょっと…ここの色とこの色が被ってるから、変えた方がいいかもね。」
「ここに描かれてる未来は何を強調したいの?」
「えっと荒廃しているビルに草木が生い茂って自然が蘇っているっていう絵なんで、自然を強調したいです。」
「じゃあ自然をもう少し前面に出す感じで、光を当てたりなんかしたらどうかしら?」
「あっそれいいですね。」
「希望を持たせる感じなら、背景をもっと明るくした方がいいかもね。」
「なるほど。」
窓際にいた生徒が「先生、赤と青の水彩絵の具が足りないです。補充してもらえますか。」と言った。
「あら、そう。わかったわ。手配しとくね。」それから、他の生徒も一人ずつアドバイスして回った。
学校が終わり、家に帰ると、お母さんからメールがきていたことに気づいた。メールには『最近、学校の方はどう?うまくやってる?めぐちゃんのことだから大丈夫だと思うけど、体にだけは気をつけてね。今日、過労死のニュースがやってたから、心配になってメールしました。』と書いてあった。
私は疲れていたので、面倒くさいなと思いながら『大丈夫。私のことは心配しないで。』とだけ送った。
三
美術館に勉強も兼ねて、野中先生とデートに出かけた。野中先生に運転してもらい、野中先生が疲れたら、私が運転する。市外に行くことが多いので、いつも交代で運転するのがお決まりだ。野中先生は私より3つ年上で自分を持っていて、人に流されない人だ。一人旅が好きで、長期休みが取れると、海外に旅行行く。ヨーロッパやアメリカ、韓国、オーストリアと色々な地域を放浪し、世界遺産や美術品、歴史を学んで歩く。私はそんな彼の話を聞くのが好きだ。こちらまでワクワクしてしまう。
美術館に着くと、辺りはキレイな湖とカラマツの木に囲まれていて、景色がすごく綺麗なところだった。野中先生はカメラを片手に機嫌よくシャッターを切っている。私は空気が澄んでいたので、ご飯が美味しく食べれると思い、作って来たお弁当を野中先生と一緒に食べることにした。ちょうどいいところにベンチもあったので野中先生と二人で並んで座った。
「今日は良いところに来れて良かったですね。」
「そうだね、日常を忘れそうだよ。僕の両親も連れて来たかったな。」
「先生の御両親も教師だったんですよね?」
「あぁ、厳格な父だね、口数も少なくて、あまり遊ばない人なんだ。母さんをもっと色々なところに連れて行ってやればいいんだけどな。」
「そうなんですか、私はたくさん色んな所に行きたいな。」
「僕も…」
その時、湖でかもめが羽ばたいた。
せっかくいいところだったのに…私はがっかりした。
美術館で印象派のフランス近代美術や人気作家の作品を鑑賞した。私は作品を通して感じ取ったものを文章に書き起こした。
「あっ南部先生!」
私はハッとして見ると、私が受け持つクラスの生徒だった。私はまずいっと思いながら苦笑いで手を振った。
「あっ野中先生もいる!」
私はもう隠しきれないと思った。休み明けの学校ではこの噂で持ちきりだろう。
「先生たちなんで一緒にいるの?…もしかしてデートとか?」
「そうよ、先生たち美術品を見に来たの。」
私は開き直った。
「マジ⁉︎俺、見ちゃいけないもの見ちゃった。先生内緒にしとくよ。デート楽しんで。」
そうは言っているが、信用はしていない。人の口に戸は立てられないものだ。
私は次の日の朝目覚めると、鏡に映った自分に仰天した。
「何これ⁉︎」
***可愛い。今日から私の子よ。よろしくね。***
一
35歳、独身、高校の美術教師、彼氏あり。
私は市内の公立高校の美術教師だ。この学校に赴任して来て2年が経つ。生徒たちには美術の美人教師として慕われ、高校2年生の担任も受け持っている。同僚である歴史の野中先生とは付き合って半年になる。なんの不自由なく暮らしていた私の日々が一変するとは…私はなんとのほほんと暮らしていたことか。
いつものように美術の授業で使う用具を片付けていると、二人の男子生徒が美術室の扉を開けて入って来て私に話しかけた。
「先生こいつ先生のこと好きみたいださ、ちょとデートしてやってよ。」
もう一人の男子生徒は恥ずかしそうにして「やめろよ~。」と顔を赤らめている。
「あら~先生はお金持ちが好きなのよ。大きくなってお金持ちになったら誘って頂戴。」いつもの殺し文句だ。美人はこれだから困る。生徒と交際の噂が立って学校に知れ渡ったら大変だし、そんな面倒なことに関わる気はない。
それに私は野中先生という同じ学年の歴史の先生と付き合っている。野中先生とは美術に関係する歴史を教わっているうちに意気投合し、休日に美術館に行き、絵画や彫刻、工芸品を一緒に見る仲になった。今週の土曜日、市外の美術館に行き、レストランでディナーをする予定だ。
授業で使う材料の手配やプリントの印刷などの事前準備などをこなしていると、あることに気づいた。さっきの生徒は進路指導でどこにも就職する気はなく、実家の小料理屋を継ぐと言っていた子だ。実家を継ぐのは問題ないのだが、親御さんによると、小料理屋は経営状態が赤字続きらしく、とても後継者を育てる余裕はないとのことだった。そのため、普通の企業に就職するよう説得したのだが、本人が断固拒否していた。私は今日のホームルームの後、彼に居残ってもらい、話を再度聞くことにした。
二
私が教室に行くと彼が待っていた。
「あっさっきのはこの前先生に言われてたこと考えてて、先生のことじっと見てたら、あいつが勝手に勘違いして」
「そう。それはそうと、浜田くんは就職のこと、まだ気が変わらない?やっぱり実家のお店を継ぎたいと思ってる?」
「俺だって実家の店が経営ヤバいの知ってるかけど、でも小さい頃から父さんと母さんが守ってきたお店を俺も一緒に守りたいって思うんだ。俺も頑張るからそれでだめだったら諦めるよ。でもそれまではなんとか立て直したいんだ。」
「ご両親のことは説得できる?」
「安定した企業で働いた方がいいって言われてるけど、なんとか時間かけて説得してみるよ。」
「わかったわ。浜田くんがそこまで言うなら、どうなるかはわからないけど、良い方向に進めばいいわね。」
「うん。」
私は進路指導が終わったので、顧問をしている美術部の教室に向かった。
部員たちは文化祭に出す作品の製作に取り掛かっており、私が教室に入ってもしばらく気づかなかった。
「あっ先生。この作品どう思いますか?テーマは50年後の未来なんですけど。」
「んーこの配色はちょっと…ここの色とこの色が被ってるから、変えた方がいいかもね。」
「ここに描かれてる未来は何を強調したいの?」
「えっと荒廃しているビルに草木が生い茂って自然が蘇っているっていう絵なんで、自然を強調したいです。」
「じゃあ自然をもう少し前面に出す感じで、光を当てたりなんかしたらどうかしら?」
「あっそれいいですね。」
「希望を持たせる感じなら、背景をもっと明るくした方がいいかもね。」
「なるほど。」
窓際にいた生徒が「先生、赤と青の水彩絵の具が足りないです。補充してもらえますか。」と言った。
「あら、そう。わかったわ。手配しとくね。」それから、他の生徒も一人ずつアドバイスして回った。
学校が終わり、家に帰ると、お母さんからメールがきていたことに気づいた。メールには『最近、学校の方はどう?うまくやってる?めぐちゃんのことだから大丈夫だと思うけど、体にだけは気をつけてね。今日、過労死のニュースがやってたから、心配になってメールしました。』と書いてあった。
私は疲れていたので、面倒くさいなと思いながら『大丈夫。私のことは心配しないで。』とだけ送った。
三
美術館に勉強も兼ねて、野中先生とデートに出かけた。野中先生に運転してもらい、野中先生が疲れたら、私が運転する。市外に行くことが多いので、いつも交代で運転するのがお決まりだ。野中先生は私より3つ年上で自分を持っていて、人に流されない人だ。一人旅が好きで、長期休みが取れると、海外に旅行行く。ヨーロッパやアメリカ、韓国、オーストリアと色々な地域を放浪し、世界遺産や美術品、歴史を学んで歩く。私はそんな彼の話を聞くのが好きだ。こちらまでワクワクしてしまう。
美術館に着くと、辺りはキレイな湖とカラマツの木に囲まれていて、景色がすごく綺麗なところだった。野中先生はカメラを片手に機嫌よくシャッターを切っている。私は空気が澄んでいたので、ご飯が美味しく食べれると思い、作って来たお弁当を野中先生と一緒に食べることにした。ちょうどいいところにベンチもあったので野中先生と二人で並んで座った。
「今日は良いところに来れて良かったですね。」
「そうだね、日常を忘れそうだよ。僕の両親も連れて来たかったな。」
「先生の御両親も教師だったんですよね?」
「あぁ、厳格な父だね、口数も少なくて、あまり遊ばない人なんだ。母さんをもっと色々なところに連れて行ってやればいいんだけどな。」
「そうなんですか、私はたくさん色んな所に行きたいな。」
「僕も…」
その時、湖でかもめが羽ばたいた。
せっかくいいところだったのに…私はがっかりした。
美術館で印象派のフランス近代美術や人気作家の作品を鑑賞した。私は作品を通して感じ取ったものを文章に書き起こした。
「あっ南部先生!」
私はハッとして見ると、私が受け持つクラスの生徒だった。私はまずいっと思いながら苦笑いで手を振った。
「あっ野中先生もいる!」
私はもう隠しきれないと思った。休み明けの学校ではこの噂で持ちきりだろう。
「先生たちなんで一緒にいるの?…もしかしてデートとか?」
「そうよ、先生たち美術品を見に来たの。」
私は開き直った。
「マジ⁉︎俺、見ちゃいけないもの見ちゃった。先生内緒にしとくよ。デート楽しんで。」
そうは言っているが、信用はしていない。人の口に戸は立てられないものだ。
私は次の日の朝目覚めると、鏡に映った自分に仰天した。
「何これ⁉︎」
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