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挨拶の一撃

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翌日21時。ランス、シェリー、ローラ、リサ、エフレンが拠点に集合する。
「ランス様、ハンググライダーと火薬です」
「ありがとう」
「皆様、作戦については昨日お話しした通りです。繰り返しになりますが、リサとエフレンは必ず1人は生かすようにしてくださいね」
「大丈夫よ、問題ないわ」
 全員、準備された黒い服を着て顔をマスクで覆う。任務実行時に必ず着替える制服だ。23時の開始時間までは各々で瞑想したり、会話をしたりして待機する。ランスは目を瞑り、作戦のシュミレーションを1人で繰り返すことをルーティンとしている。

「準備はいいか? 行くぞ」


23時。イザードの邸宅にはいつも通り警備を行う私兵が4人門の前に立っている。前の道は少し明かりが灯っているが、暗く人通りは少ない。
「最近夜に動くこともないから暇だよな」
「ああ、まあ出来れば巻き込まれたくないから俺は歓迎だけどな」
「確かにね。俺達まで逮捕されたら洒落にならないからな。そろそろ殺人趣味は辞めて欲しいんだが…… そうはいかないんだろうな」
「まあ、自制できるような人ならそんなことしないだろう。出来れば毎日やりたいと思ってるんじゃないか?」
「だよなあ」
 兵士たちは各々で話しながら時間を潰している。大きな声を出すと怒られる可能性があるのでひそひそ声だ。本当は無言でいるように言われているが、雑談と見回り以外に時間の潰し方がない。

「あのー。ちょっといいですか?」
 声がする方を兵士が見ると、そこには若い女が立っている。こちらに向けて話しかけているようだ。身長は低く、可愛らしい目をしている。直ぐに夜中に1人で歩くのは危険だと思ってしまうほどであった。ただ、真っ黒の服装にマスクをしており、明らかに不審人物である。
「ん? どうした?」
「ここってイザードのお家ですか?」
「イザード様、だ。そうだが何か用か? こんな時間に来てもイザード様は寝ているぞ」
「ありがとうございます。前に間違えて別の家に行っちゃったことがあって…… おっちょこちょいなんですよ、私」

「聞いているか? こんな時間に来ても無駄だ。朝になってから出直してくれ」
「皆様は、私兵ですよね? 警察や軍じゃないですよね?」
 女はニコニコとしながら、兵士の警告を無視し、話続ける。何かがおかしい、そう考えた兵士は臨戦体制をとる。

「おい、今すぐにここから立ち去るんだ。さもなくば、女性といえど強制的に排除することになるぞ」
「こんなか弱い女の子を強制的に排除するなんてセンスがないですよ。優しくエスコートしてくださらないの? そもそも私はご挨拶に来たんですよ」
「全員、排除準備!」
「挨拶くらいさせてよ、もう……、まあ言葉の挨拶よりこっちの方が私は好きだから…… ねっ!」
 そういうと女は急スピードで兵士の1人に接近、右フックで顔面を殴り飛ばす。

「な…… 総員、剣を準備! 敵と判断、殺して構わない! ジャックは応援兵も呼んでこい!」
「指示を出している貴方が…… 偉い人ね。じゃあそれ以外全員殺せばいいか。」
 剣を出して構える兵士たちを恐れる様子もなく拳を構える女。拳についた血を舐めながら笑う。
「総員突撃!」
 剣を持った兵士が殺到する。女は全てを華麗に交わしながら蹴りやパンチを加えていく。まるで剣先の動きを全て予測しているかのようにギリギリで回避している。凄まじい身体能力だ。ただ、一撃一撃の攻撃はそれほど強くないようで、ダウンしている兵士はいない。

「よし、このまま押し切るぞ! それほどパワーはなさそうだ、数で押し切れ!」
 隊長の指示に応え、殺到する兵士達。応援兵も駆けつけ、10人で女1人と対峙する形になる。正面からの攻撃を躱わす女を後ろから切りつけようとする兵士。その時、突然その兵士は倒れる。足に何か当たったようで、悶絶している。
「遠距離攻撃か! 仲間がいるぞ! 一度離れて体制を整えろ!」

「さて、兵士はこれで全員かな? そろそろいっか」
 女は呟くと、腰からナイフを取り出す。
「このレベルなら私1人でも問題なかった気がするけど…… シェリーは心配屋だからなあ。まあ仕方ないか。さて、では全員あの世でまた会いましょうね」
 そこからの女の攻撃は凄まじい、の一言だった。兵士たちの急所を的確に狙い切り裂き続ける。兵士の攻撃は躱されるかナイフで受け止められる。あまりの戦闘力の差に生き残っている兵士たちも戦う気力を失いつつある。

だが、イザードとの契約があるためこの場から逃げることは許されない。私兵にとって契約は絶対であり、契約違反をした兵士に未来はない。よってここでの選択肢は時間稼ぎをして、騒ぎを聞いた警察が来るのを待つことである。兵士は武器を捨て、詰め所に置いてあった盾を手にする。

「命が惜しければ投降しろ! そのナイフでこの防御を突破することは出来まい。潰されて死ぬのがオチだぞ!」
「はあ、面倒だね。じゃあ私も本気を見せるかっと!」
 女はそういうと小さなナイフ一本で盾を持つ兵士に向かっていく。盾は金属製。ナイフではどうにもならないはずだが…… 女がナイフを振り下ろすと盾ごと兵士は切り裂かれ真っ二つになる。

「な…… なんというパワーだ……」
「さて、これからどうやって時間を稼ぐのかな? 楽しみだねっ」 
 何気ない日常を過ごしていた兵士達にとって悪夢のような存在がそこには存在した。
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