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侵入

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王都の少し外れにある崖の上、ランスは1人立っていた。イザードの家は遠く、詳細は確認できないが、時々火花が散るのは確認できる。戦闘が行われているのだろう。リサとエフレンが戦っている様子が想像された。

「さて、そろそろ行くか。天候、風は問題なし。この距離なら問題なく届くだろう」
 ランスは勢いよく崖から飛び降り、ハンググライダーを起動させる。折りたたみ式のハングライダーが勢いよく開く。チームメンバーのポーラ特製で、隠密行動用に用意されたものだ。真っ黒な機体は夜でも目立たず、静かに空を移動できることから大変重宝されている。

 王都の夜をゆっくりとハンググライダーが進んでいく。イザードの家まで一直線、ランスは巧みにコントロールし、高度を調整しながら進んでいった。
 
 イザードの邸宅を通ると兵士とリサが戦う姿が目に入る。兵士はリサの対処に精一杯で上空を見上げる様子もない。ランスは問題なく、2階の大きなベランダに着地することができた。ハングライダーを離し、脱出用にベランダに置いておくと、窓に向かう。
「音を出来るだけ立てないように、だったな」
 ランスは剣を生み出すと窓に差し込み、くり抜いていく。ごとっ。人1人が入れるスペースを作り出しと剣をしまい、中を確認する。中は真っ暗で誰もいないようだ。リビングか何かだろうか? キッチンやソファが目に入る。夜なので家族は全員寝ているのだろう。ランスは静かに窓から侵入した。

「敵襲です! イザード様は部屋から絶対に出ないでください。警察が来るまでの時間を稼ぎます!」
「敵の数は!」
「1人です! ただ遠距離攻撃で支援をする者もいる模様!」
 ドアの向こうでバタバタと走る音と話し声が聞こえる。貴族の家を守る者は大きく2種類に分かれている。門番や見回りをする私兵と、貴族の身を守る護衛である。私兵は強くないが数が多く、護衛は数は少ないが強い傾向にある。どれだけの数の私兵を雇っているか、どれだけ強い護衛を雇っているかは貴族のステータスだと聞く。ただしあまりにも目立つ行為をすると反乱を企んでいるのでは、と政府から目をつけられるらしい。その辺りの塩梅を考え、周りと比較しながら備えるのはまさに貴族の腕の一つなのだろう。

 話し声がしなくなったタイミングで、ランスは扉を少し開け、廊下の様子を見る。1番奥の部屋の前に護衛と思われる屈強な男が2人。そこがイザードの部屋だろう。ランスは勢いよく廊下に飛び出した。
「な……」
 驚く護衛達。ただ敵もさる者、すぐに態勢を整えこちらに向かってくる。廊下は狭く剣やナイフを振るうのは難しい広さしかない。敵襲に備えてそのような形状になっている家が貴族では一般的である。ここから先は腕力による勝負になる。

 通常であれば。

 ランスは護衛の男の攻撃をかわすと手を急所に伸ばす。するとその先には剣が。急所に剣が刺さり、護衛は倒れた。
「どういうことだ……? 剣が生まれた……?」
 ランスが持つ特殊能力。それは「武器や防具を自由に生み出す」能力である。飛び道具の様にナイフを投げることもできれば、即座に盾を生み出し爆発を防ぐこともできる。この能力を持ってしてランス、そしてヨスバは裏社会でも注意される存在になりあがってきた。ランスが理解できているもの、そして簡単な仕組みのものしか生み出せないが、戦闘においてその優位性は恐ろしいレベルにある。

動揺する護衛の男。どの様にすれば自分が助かるかを考えているようだ。
「そこのドアの開け方を教えてくれれば命は助けてやっても良い」
「内側からしか開かないドアだ! 金属製で剣でも壊せないドアだぞ! イザード様が出てこない限り開くことはない!」
「そうか…… ならしばし開け方を考えるか」
 ランスは槍を生み出し、護衛の男に投げつける。頭に直撃し、即死する男。護衛の死体を乗り越え、ドアを確認しにいくと、確かに金属製のドアとなっており開けることができる様子はない。取手を引っ張るがしっかり鍵がかかっている上に力ずくでの破壊は難しそうだ。

仕方がない。ランスは隣の部屋を見る。そこは普通の木のドアのため蹴破って侵入することができた。
「キャー」
そこはイザードの妻か恋人の部屋の様だ。すっかり青ざめた様子の女にランスは話しかける。
「静かにしろ、邪魔しなければ命は奪わない」
 女は無言で頷きながらベットに顔を隠した。突然黒ずくめの男が部屋に侵入してくるのは恐怖だろう。普通は絶叫するだろうに、胆力のある女だ。
 ランスは感心しながらも、能力を使用し、巨大なハンマーを生み出す。そして力一杯壁を殴りつけた。
 1回、2回、3回。徐々にボロボロになる壁。
「な、何をしているんですか?」
「イザードに用事があってな。出てきてくれないからこっちから行くしかない」
4回目で壁は破壊された。ハンマーを投げ捨てるとランスはイザードの部屋に入る。そこには怯えた様子で剣を持つイザードの姿があった。

「な、何者だ……! 護衛はどうした?」
「名乗ると思うか? あのレベルの護衛しか雇えないのでは、程度が伺えるよ、イザード」
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