正義は社会の秩序なり〜裏組織は暗躍する〜

だいのすけ

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話し合い

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女遊びを一通り楽しんだジョンは宿泊しているホテル、スピーダに上機嫌で戻る。しかも女遊びだけではなく、ビジネスの話まで舞い込んできた。大きな取引であればボスの評価はさらに高まるだろう。なんとか上手く話をまとめたいものだ。期待に胸を膨らませながら部屋で待機する。

 こんこん、ドアをノックする音が聞こえる。ちょうど3時間だ。時間通りの真面目な男だな、ジョンはマイケルに対する評価を高め、ドアを開けた。そこにはマイケルと2人の女がいる。1人は綺麗系の、1人は可愛い系の美人である。女まで用意してくれたのだろうか? ジョンは口元が緩むのを抑えきれない。

「おお、時間通りだな。入れよ」
「時間を取らせてすまないな」
「良いってことよ。仕事の話なら歓迎だ」
 3人は部屋に入ると周りを見渡している。
「すごい部屋だろ? 組織が取ってくれたんだがあまりにも広いから寂しいくらいだよ」
「ああ、この階は貸切だったか?」
「そうだ。大声出しても苦情は来ないぜ?」
「それはありがたいな。リサ、任せた」
 ジョンが見たのはこちらに全速力で走ってくる可愛い系の美人だった。反応する前に意識がブラックアウトされる。
「さて、話を聞かせてもらうとするか」

 ジョンが目覚めると、床に転がされているようで見下ろす3人が見える。両手両足を縛られているようで、動くことができない。
「てめえ、なんのつもりだ?」
「お前に色々聞きたいことがあってな。危害を加えるつもりはない」
「はあ、お前らシンリーアをわかっていないのか? こんなことをしたら確実に死ぬことになるぞ?」
「御託はいい。こちらの質問に回答してくれ。まずお前の名前はジョン、シンリーアの組織の一員というところまではいいな?」
「言うまでもないだろ」
「組織ではどういう立ち場にいるんだ?」
「ただの冴えない中間管理職だよ。特に決まった役割はないな」

「嘘ですね」
「そうか……もう一度確認するぞ。お前の組織でどのような立ち場にいるんだ?」
「答えるつもりはないね。俺にもプライドっていうものがあるんでな」
「リサ、足の骨を折れ」
 次の瞬間、リサが全力でジョンの足を踏み抜く。ジョンの絶叫が響き渡る。

「正直に話さないなら骨を折っていくだけだ。ちゃんと話せば命は助けてやるよ。その後、組織に戻って泣き付けばいい。命は大事だろ?」
「……」
「10秒時間をやろう。答えないならもう一本の足の骨も折ってやる。帰り道が大変になるかもな。10、9、8、7」
「わかった!話すよ! これ以上は勘弁してくれ」
 その後のジョンは非常に素直だった。ジョンはシンリーアの幹部の1人で、交渉を得意としているらしい。お前らの目を見れば本気かどうかすぐわかったよ、とぼやきながら質問に答えていく。

「メンバーはもう1人、女がいるはずだ。女はどういう役割なんだ?」
「あいつは監視役だ。俺が疑われているわけではないが、1人だと逃走したりネコババするやつがいるから、俺の組織では必ず2人組で行動するようにしている」
「それならなぜ、女は今いないんだ?」
「仕事は明日だからだ。今日はオフ、お互いに好きなことをして過ごそうという話になっただけだよ。後どうも相性が悪くてな、会話するのも面倒なので単独行動をしているってことさ」
「今回の目的は貴族、アルとの取引だろ。アルとの取引時間と場所は?」
「そこまで知っているのかよ…… 明日13時にアルの屋敷だ。なあ、お前ら、アルとの取引は成立させた方がいいぞ。俺たちもアル達もメンツがかかった重要な取引なのはわかっているだろ? 間違っても失敗させようものなら地の果てまで追いかけられるぞ?」
 骨を折られても口は達者なジョンと会話しながら色々な情報を聞き出していく。幹部だけあって肝は据わっているようだ。時々嘘を混ぜて誤魔化そうとするが、ローラがそれを許さない。嘘をつくたびに指の骨を折ると、ジョンも抵抗は無駄だと悟ったのか正直に話すようになった。

途中からはローラが主体となり、出身地、年齢、組織構成、仕事内容、仲が良い組織のメンバー、好きな言葉、趣味…… 様々な情報を収集する。変装時に違和感を持たれるリスクを下げるためである。人格をコピーするためにジョンについてあらゆる角度から情報を収集する。
 ナオミはすっかりレストランで知らない女と話し込んでいた。お互いにあまり知らない風習や文化の話を交換し、盛り上がる。酒も進み、すっかり上機嫌なナオミだった。
「ありがとう。楽しかったわ。私は明日仕事あるからそろそろホテルに戻るわね」
 ナオミがいうと、女は時計で時間を確認し、笑顔で告げる。
「そうね、もういい時間だものね。ごめんなさい、話しすぎましたね」
「いえ、楽しかったから問題ないわ。せっかくの旅行、現地の人とお話しする機会は重要よ」
「そう言ってもらえてよかったです。ねえ、帰り道もご一緒させていただけますか?」
 ナオミは帰り道も一緒に帰りたい、という女に薄気味悪さを感じる。そこまで仲は接近していないはずだ……。もしかして女性が好きなタイプか?

「ごめんなさい、1人で夜風に当たりたいから。申し訳ないけど1人で帰らせて」
「そんなこと言わないでくださいよ、一緒に帰りましょ?」
 ドン、ナオミはテーブルから立ち上がるとお金を置いて女を突き放す。
「お話しは終わり、わかった?」
「冷たいですねえ。勝手についていきますよ?」
 ナオミは女が不気味に思えてくる。慌ててレストランを飛び出し、走ってホテルへ戻る。楽しく会話できたと思ったらとんでもない不審者だった。あまり勝手がわかっていない旅行者を捕まえるタイプなのかもしれない。トラブルに巻き込まれる前に部屋に戻ろう、そう考えながら走ってホテルの前に着くと…… 女がいた。赤いドレスが鮮やかで夜の薄暗い景色によく映える。
「走って逃げるなんてひどいですよ。先回りする羽目になってしまったじゃないですが」
「お前、何者だ?」
「大したものではないですよ。ナオミさんに用があるだけでして」
「ごめんなさい、女の人に興味はないの。他を当たってくれる?」
「そうですか、ただ私のやることは変わりません。貴方を確保して部屋へご案内する必要があります」
「そもそもなんで私の名前を知ってるの……?」
「答える義務はないですね」
 女は怪しく笑った。ナオミは逃走を選択する。ここにいてはまずい、そう勘が告げていた。
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