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アルとの接触 前編
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取引の日、ランスは変装道具である特殊な材質で出来た顔のマスクを被り、ジョンになりすます。ジョン本人は縛られて気を失ったままである。昼頃にはホテルの清掃員が来て助けてくれるだろう。
取引場所はアルの邸宅。貴族街の中心にある大きな家だ。ランスは家の前でナオミと集合し、最後の打ち合わせを行う。
「約束通り来たんだな」
「ローラさんにしっかり見張られてたからね。まあそれは冗談。ちゃんとお金を貰ってるからそれだけの仕事はしますよ」
「打ち合わせの合言葉は特にないんだよな?」
「ええ、聞いてないわ。行けばわかる、とだけ」
約束の時間は13時、昼間だ。薬を運ぶ側としては昼間に行動するのはリスクがあるが、そこまでしてエックスが欲しいのか、と試されているのだろう、ランスはそう考える。
「アルと約束がある。ジョンとナオミだ」
ランスは屈強な門番に話しかける。門番は「ランス」と呼び捨てにされたことに眉を顰めたが、無言で家の中に入る。お互いに平等な関係である、というスタンスの方が違和感がない、それがジョンから情報を聞き出した際の結論だった。
「ついてこい」
門番に連れてこられた部屋は大きいリビングだ。アルが1人で食事をしている。周りには無言で佇む大男が3人。ボディーガードが多い。ランスは素早く薬物を飲み物に投入するタイミングを検討する。お金の受け渡しの際がいいだろう、その時なら皆がお金に注目しているはずだ。
「やあ、遠いところからわざわざすまないね。私がアルだ。どうぞ座ってくれ」
「こちらこそ、貴重な機会に感謝している。ジョンとナオミだ」
ランスとナオミは椅子に座る。ふわふわの座り心地が良い椅子だ。明らかに高級品で特注の椅子だ。部屋全体が高級家具とインテリアで飾られている。
「さて、早速だが、自己紹介をしようか。まず私から話そう。私はフールー家というこの国1番の貴族の長男だ。父は経済大臣を10年勤めている。私はフールー家が保有する企業をいくつか経営しながら、主に裏側の仕事を担当しているというわけだ。フールー家が担当する悪事は大体私が絡んでいると思ってもらって結構だ。相当汚いことはしてきたが、しっかり稼がせてもらったので感謝しているよ。さて君達の話も聞かせてくれるか?」
「まずは俺から話そう。俺はシンリーアで主に他組織との交渉を担当している。元々は別のギャングにいたんだが、色々あってそのギャングがシンリーアに吸収されてな。その時からお世話になってもう8年だ。今ではすっかり古参だよ」
「ほう、交渉担当か。なぜその役割につくことになったんだ?」
「一つは口が達者なこと、もう一つは強いことだな。何かトラブっても自力で帰ってこれるだろう、というボスの安易な発想だよ」
「なるほど。君は強いんだな。そうなると、うちのジェイクと戦ってみて欲しいね。ジェイクは護衛で1番強いんだが、この国で1番強い、という説もあってな。君となら釣り合うかもな」
「おいおい、良してくれよ。そこまで俺は強くないぞ。国1番なんて出てきたら勝てっこないさ」
「そうか、それは残念だ。ジェイクは強い奴と戦ってみたいよな?」
「ええ…… 訓練ばかりの生活も良いですが血が沸る戦いも素晴らしいものです。久しぶりに殺し合いがしたいですね……」
「俺はやらねーぞ。長生きしたいんでな」
「はは、冗談だ。じゃあ次はお嬢さんの話も聞かせてくれないか?」
「私はこの取引が無事に完了するのを見届ける役割で派遣しました。完了次第組織に連絡をする役割です。まだまだ下っ端なのであまり語ることはないのですが、どうぞよろしくお願いします」
「監視役か。やはりどこの組織でもいるもんだね。どんだけ信頼できる者でも大金を前にすると別人になってしまう、よくある話だ。全くもって嘆かわしいが」
「ええ、ジョンが怪しいというわけでは決してないのですが、どうしても大きな取引になるので」
「ああ、わかった。2人ともありがとう。さて、本題と行きたいところだが……」
「どうされました?」
「さっきからなんとなく違和感を感じるんだよ。何か危険が迫っている、そういう時に首が
ヒリヒリするのだが…… 今もヒリヒリするんだ」
「俺達のせいか? 気のせいだと思うんだが…… 俺達が何かここでしでかす風に見えるか?」
「確かにそうだが…… 私は色々な恨みを買っていてね、何回も殺されそうになってるんだ。今のところは全て返り討ちにできているが、それはこの直感のおかげでね。今回もそれを感じるんだ。そうだな…… 君達が偽物である可能性。それを忘れていたな。確認させてくれ」
まずい流れだ。ランスは動揺する心を意志で押さえつける。しっかりとジョンの情報は収集している、問題はないはずだ……
「私は君達のボスと昔からの知り合いでね。家族とも会ったことがあるんだ。ジョン君、娘の名前はわかるかい?」
まずい、完全に想定外の質問だ。ランスは落ち着いた様子でナオミを確認する。ナオミは小さく首を振っている。ナオミも知らないようだ。これはフェイクの質問か?
「ボスに娘なんていましたっけ?」
ランスがそういった瞬間、アルの目つきが変わる。
「こいつは偽物だ。取り押さえろ」
取引場所はアルの邸宅。貴族街の中心にある大きな家だ。ランスは家の前でナオミと集合し、最後の打ち合わせを行う。
「約束通り来たんだな」
「ローラさんにしっかり見張られてたからね。まあそれは冗談。ちゃんとお金を貰ってるからそれだけの仕事はしますよ」
「打ち合わせの合言葉は特にないんだよな?」
「ええ、聞いてないわ。行けばわかる、とだけ」
約束の時間は13時、昼間だ。薬を運ぶ側としては昼間に行動するのはリスクがあるが、そこまでしてエックスが欲しいのか、と試されているのだろう、ランスはそう考える。
「アルと約束がある。ジョンとナオミだ」
ランスは屈強な門番に話しかける。門番は「ランス」と呼び捨てにされたことに眉を顰めたが、無言で家の中に入る。お互いに平等な関係である、というスタンスの方が違和感がない、それがジョンから情報を聞き出した際の結論だった。
「ついてこい」
門番に連れてこられた部屋は大きいリビングだ。アルが1人で食事をしている。周りには無言で佇む大男が3人。ボディーガードが多い。ランスは素早く薬物を飲み物に投入するタイミングを検討する。お金の受け渡しの際がいいだろう、その時なら皆がお金に注目しているはずだ。
「やあ、遠いところからわざわざすまないね。私がアルだ。どうぞ座ってくれ」
「こちらこそ、貴重な機会に感謝している。ジョンとナオミだ」
ランスとナオミは椅子に座る。ふわふわの座り心地が良い椅子だ。明らかに高級品で特注の椅子だ。部屋全体が高級家具とインテリアで飾られている。
「さて、早速だが、自己紹介をしようか。まず私から話そう。私はフールー家というこの国1番の貴族の長男だ。父は経済大臣を10年勤めている。私はフールー家が保有する企業をいくつか経営しながら、主に裏側の仕事を担当しているというわけだ。フールー家が担当する悪事は大体私が絡んでいると思ってもらって結構だ。相当汚いことはしてきたが、しっかり稼がせてもらったので感謝しているよ。さて君達の話も聞かせてくれるか?」
「まずは俺から話そう。俺はシンリーアで主に他組織との交渉を担当している。元々は別のギャングにいたんだが、色々あってそのギャングがシンリーアに吸収されてな。その時からお世話になってもう8年だ。今ではすっかり古参だよ」
「ほう、交渉担当か。なぜその役割につくことになったんだ?」
「一つは口が達者なこと、もう一つは強いことだな。何かトラブっても自力で帰ってこれるだろう、というボスの安易な発想だよ」
「なるほど。君は強いんだな。そうなると、うちのジェイクと戦ってみて欲しいね。ジェイクは護衛で1番強いんだが、この国で1番強い、という説もあってな。君となら釣り合うかもな」
「おいおい、良してくれよ。そこまで俺は強くないぞ。国1番なんて出てきたら勝てっこないさ」
「そうか、それは残念だ。ジェイクは強い奴と戦ってみたいよな?」
「ええ…… 訓練ばかりの生活も良いですが血が沸る戦いも素晴らしいものです。久しぶりに殺し合いがしたいですね……」
「俺はやらねーぞ。長生きしたいんでな」
「はは、冗談だ。じゃあ次はお嬢さんの話も聞かせてくれないか?」
「私はこの取引が無事に完了するのを見届ける役割で派遣しました。完了次第組織に連絡をする役割です。まだまだ下っ端なのであまり語ることはないのですが、どうぞよろしくお願いします」
「監視役か。やはりどこの組織でもいるもんだね。どんだけ信頼できる者でも大金を前にすると別人になってしまう、よくある話だ。全くもって嘆かわしいが」
「ええ、ジョンが怪しいというわけでは決してないのですが、どうしても大きな取引になるので」
「ああ、わかった。2人ともありがとう。さて、本題と行きたいところだが……」
「どうされました?」
「さっきからなんとなく違和感を感じるんだよ。何か危険が迫っている、そういう時に首が
ヒリヒリするのだが…… 今もヒリヒリするんだ」
「俺達のせいか? 気のせいだと思うんだが…… 俺達が何かここでしでかす風に見えるか?」
「確かにそうだが…… 私は色々な恨みを買っていてね、何回も殺されそうになってるんだ。今のところは全て返り討ちにできているが、それはこの直感のおかげでね。今回もそれを感じるんだ。そうだな…… 君達が偽物である可能性。それを忘れていたな。確認させてくれ」
まずい流れだ。ランスは動揺する心を意志で押さえつける。しっかりとジョンの情報は収集している、問題はないはずだ……
「私は君達のボスと昔からの知り合いでね。家族とも会ったことがあるんだ。ジョン君、娘の名前はわかるかい?」
まずい、完全に想定外の質問だ。ランスは落ち着いた様子でナオミを確認する。ナオミは小さく首を振っている。ナオミも知らないようだ。これはフェイクの質問か?
「ボスに娘なんていましたっけ?」
ランスがそういった瞬間、アルの目つきが変わる。
「こいつは偽物だ。取り押さえろ」
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