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62.目を背けた、後悔
しおりを挟む俺は、直ぐに炎竜を召喚しようとした。だが、申請しても、承認がされなかった。
それが何故なのか、思い至ったのは。黒の禁術機も、世界と同期をすることが出来る。だから、同期している炎竜に、何か干渉しているのかもしれない。
俺が、それを黒の禁術機に聞くと……――。
『世界と同期するのを、ずっと疎かにしてきた炎竜の精神を。そこの場所に押さえ込むなど、容易い』と、吐き捨てるかのようにして言われたのだ――。
△▼△▼△▼△▼
どうしよう、どうすれば……?
黒の禁術機の前であるが、恥も外聞も無く。レイドに口づけたり、一向に立たない陰茎を舐めたりもしたが――意味が無いことだと気が付いてしまった。
それは、濃厚接触だと時間がかかり過ぎる。
この、術の進行具合からすると……確実に間に合わない。
「あ~あ~。そんなことしていても、俺の術は絶対に解術出来ない。まあ、良い足掻きを見せてくれたからな――ほら、これをやるよ」
俺の前に、何かを投げ落とされた。
「え……。なんで?」
禁術機の本体が、地面に転がっている。
「ん? どうした……? 喜べよ! 俺を破壊することが出来るんだからさっ!!」
腹を抱えて笑っている、黒の禁術機の行動が信じられなくて。俺は、それを呆然と眺めてしまう。
「おい、おい、おい? 俺ばっかり見ててさ~。そいつ、良いのか? 死ぬぞ? 俺か、そいつ……どちらか一つだ。別に、迷うもんでもね~だろ?」
「――――ッ! く、そ……!!」
俺は――黒の禁術機を、手に強く握る。
「は、はははははっ!! そうだ! そうなんだよ!! それが、人間だっ!! 所詮、お前も元は人間だ。結局は、そういうもんなんだ……」
鋭い痛みを、手に感じるが……。それよりも、俺の手に持つ物がパキパキパキと壊れていくのを見ると。
灰の禁術機の時と同様、モヤモヤとしたものが胸に強く湧き上がってくる――。
「……っ、黒の禁術機、俺は――」
「それ以上言うな!! 偽善者がっ!! いいんだよ! どうせ、もう……これで終わりなんだ」
そうだ。結局は、俺も選んだ。
命の選別をした。
だから、何を言っても。自分を楽にするためだけの、自己満足でしかないだろう。
俺は、もう何も言えなくなり……。壊れゆくそれを、ただ見ていた。
――【パリンッ!!】
手の中にある禁術機が壊れた。
直ぐに、レイドを見るけれど……術の進行が止まっていない。
何故だと思い、黒の禁術機がいたところを見ると――――。
「消えて、ない……?」
「くく……っ! ははははっ!! お前、おつむが弱いな? 俺は言ったぞ? 残留思念が強い、とな。完全に消滅する3日までなら、力は弱くなるが術を使える。しかも、破壊される前にかけていた術に至っては、そのまま解けることも無いからな?」
なら、レイドは確実に――。
「更にもう一つ、残酷な真実を教えてやるよ。お前が使おうとしている核の力はな――その男がいないと使えない。だから、もう、全て終わりなんだ。終われば良い、こんな世界なんか……」
黒の禁術機は、笑いながらも辛そうに涙を流している。
同じだ……。灰の禁術機と――いや、きっと全ての禁術機も……そうだったんだろう。
――なんで、こんなことに……?
俺が、いけないのか?
ああ……。そう、そうだ……――俺は、自分自身のことから目を背けていた。
ずっと、ずっと、知らない振りをしてきた。
炎竜にだって、ちゃんと問い詰めれば良かったんだ。
特に、レイドは……もしかしたら、俺のことを知っているのかもしれない、とも思っていた。
懐かしそうな目を向けられた時だってあったし、俺に関する何かを隠しているようにも感じた。
そして、何よりも……――愛おしいという目で、ずっと、ずっと、俺を見ていて。いつも、大事にしてくれていた。
「……理由、聞くの……後回しにせず。直ぐに、聞けば良かった……」
ジワジワと視界が悪くなっていき、ボロボロと涙が溢れ出す。
本当に苦しくて……胸の辺りをギュウッと強く握り締めた。
そうか……。レイドは、俺が輝石になった時も、炎竜の傷を肩代わりした時も、こんな気持ちを味わっていたんだな。今さら、理解するなんて……――。
――ピピ。
【〖幸運に抱かれし者〗の強い苦痛を察知。
原因を取り除く為に、MAX幸運∞×10の使用を許可しました】
これは、まさか。
あの時の――。
〖確認〗を押す。
――ピピ。
【原因の排除をオート設定にしますか?】
〖YES〗を押す。
――ピピ。
【原因の排除=MAX幸運∞×10(残り1回)∶白を喚ぶのみ。
権限を使用しますか?】
〖YES〗を押す。
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