ダンジョンの核に転生したんだけど、この世界の人間性ってどうなってんの?

未知 道

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132.〖ロンウェル〗過去

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 ヤツィルダさんに牢屋から出してもらい、外に出てから俺は驚愕した。
 見張りをしていた兵士や他にもいた人たち全員が、地に伏すように気絶していたからだ。

 呆気に取られその場に佇んでいると、ヤツィルダさんは「ちと、やり過ぎちゃったかな」と言い、苦い顔をしていた。
 この人数を一人でどうやったのかと聞いたら、「攻撃系の極級魔術師なんだ」と言われ、更に驚いた。


 ヤツィルダさんが国に帰って来たのは、つい先程のようだ。
 それは、街の人達がヤツィルダさんへ伝書を何通も飛ばしたのだが、性能の低い伝書であるからか、届くことはなかった。
 だから、数人の市民が兵士の目を盗み、ヤツィルダさんのいる国へと向かい『国の皆を助けて欲しい』と、言いに行ったという。

 普通であれば、人ひとりが王に歯向かっても何かが出来るわけがない。そう言った者達も、ただ藁にも縋る思いでだったのだろう。

 ――だが、ヤツィルダさんは強い魔術師であり、それが十分に可能であるのだ。

 ヤツィルダさんが先程、国に戻った時にも。兵士達は、市民に酷い暴行をしていたようで……。ヤツィルダさんは、兵士達を全員ボコボコにし。そのまま兵士を脅して、手首バンドを全て渡してもらったようだ。

 そうしたのは、市民の首につけられている魔法具の外し方を、その兵士達にも分からないと言われ。性能も分からないのに、無理に破壊したら危ないかもしれない……と思ったらしい。

 ――その考えは正しかった。
 装着型の魔法具は、無理に壊してしまった場合。最悪、爆発をしてしまうこともあるからだ。
 ヤツィルダさんは魔法具に詳しいわけではなさそうなのに、瞬時にそう考えるのは流石だと感服する。状況把握が的確だ。
 だからこそ、ここまで人の心を動かし、人から慕われるのだろう。

 ヤツィルダさんが俺の元へ来たのも、街の人達から、俺が兵士に連れて行かれてしまったと伝えられ。
 地面に転がした兵士を、また脅し。俺のいる場所を聞き出して、牢屋まで来てくれたということだった。



 ********


「ロンウェル、休んでても良いんだぞ……?」

 ヤツィルダさんは、心配そうに俺の事を見ていた。
 傷の応急措置はしたが、この傷だらけの状態に加え、熱も出ている俺を心配しているのだろう。

「いえ……。私の知り合いが関わっている可能性が高いのです。だから、一緒に行かせて下さい」
「……そっか、分かった。じゃ、開けるな」

 王の居る仰々しい扉を、ヤツィルダさんが魔法で吹っ飛ばした。

 室内に足を踏み入れ、まず目に飛び込んで来たのは――防御壁に包まれている、王や側近だった。

 その防御壁を張っている人物は……。予想した通り、俺が知っている最級魔術師の力を持つ仲間であった。

 しかし、喜んで王に協力したわけではないとひと目で分かった。
 その姿が俺と同じく、身体中が傷だらけであり、酷く怯えた様子だったからだ。


「はーーーはっはっはっはっ!! これでは、この私に手も足もでまい? お前達の、横暴な振る舞いもここまでだぁあーー!! さんざん、私に酷いことをしおって!」

 横暴な振る舞い? 酷いこと? それは、お前達ではないのか……?

 あまりの言いぐさに、私だけでなくヤツィルダさんも唖然としている。

「さぁ! あの傲慢な者達を、早く殺せっ!!」

 王は、防御壁の外にいる兵士達に指示を出し。兵士達は、こちらへ大量な魔法を撃ってきた。

 慌てて防御壁を張ろうとしたが……――ヤツィルダさんが、向かってきた全ての魔法を撃ち落とした。

「へぁ……? な、なんだとっ!? そう、そうだ! まぐれ……まぐれだなっ!! さぁ、何をしている!? もう一度やれっ!!」

 王はそう言ったが、兵士達は、呆然とヤツィルダさんを見ていた。

 あれほどの大量な魔法を、一瞬のうちに撃ち落とされたなら驚くのも当然だ。

「あのさ~……。まだ、懲りてないの? あん時、あんたら……俺になにも出来ずにいたじゃんか。まさか、人間の皮を被ったニワトリかよ?」

 ヤツィルダさんは、王に会ったことがあるのか? と、苛立った様子のヤツィルダさんを横目で見る。

「そ、それは! 卑怯にも、貴様が急に来たからだっ!! そうだ、貴様のせいで……。下民共の税金を、引き下げなければならなくなったのだぞ!!」

 あ~、成る程……。ヤツィルダさんは、王を脅していたのか。

 このような自分勝手な王が、国民のためを思って税を引き下げる筈はないと、妙に思っていたから納得だ。

「だがっ!! これからは、今まで以上に税を課すぞ! 貴様でも、この中に入っている私には、何も出来……――なぁっ!?」

 王が、目を見開き驚いている――きっと、俺も同じ表情をしていることだろう。

 ヤツィルダさんが、ひとつ魔法を放ち。最級魔術師の張った防御壁を、いとも簡単に破壊したからだ。

 攻撃魔法を使う極級魔術師と関わり合いになったのは、ヤツィルダさんが初めてだった。だから、その能力がどの程度のものなのかは知らなかったのだ。

 確かに、防御系魔術師の最~極の能力差はだいぶ離れていて、極級の防御壁とは違い、最級のものはずっと攻撃を与え続ければ破壊出来るだろう。

 それでも、ヤツィルダさんがたったひとつの攻撃を撃ち込んだだけで、破壊出来るとは思ってはいなかった――。


「――で……? なんか言った?」

 ヤツィルダさんは、極級魔法をズラリと周囲に展開し、それを全て王に向けていた。

「ヒィッ! や、止め……! ――そっ、そうだ!! こいつに、私は脅されていたのだっ!! 全部の責任は、こいつにあるっ!」

 王は俺の仲間を、前に強く押し出した。
 仲間は身体中に傷を負い、満身創痍であったせいで地面に倒れ込んでしまう。

「さあっ!! こいつを殺してもいいから――……っ、びぃゃぁあっ!? ヒィイイーーーッッ!?」
「あんたさ、頭おかしいだろ? 俺がその言葉を信じるとか、本気で思ってんの?」

 無駄に豪勢な椅子に、鋭い氷柱が突き刺さる。その氷柱は、王の身体から1ミリもないくらいの距離だった。

「さ~て、どうしようかな……?」
「お前達、たっ、助けてくれ!! ――なぁっ!? 私を置いて逃げるなっ!!」

 恐怖に顔を引きつらせた王が、周囲を見渡し、助けを求めた瞬間。兵士たち全員がこの場から逃げていった。

「あ~あ~! 見捨てられちゃったな~?」
「こ、殺さないでくれぇえーーっ!! ヒィイ……っ!!」

 ヤツィルダさんが、首をコテンと傾げ。

「さっき、その人に対しては『殺してもいい』なんて言ってたくせに。自分の場合は『殺さないでくれ』って言うんだ? あんた本当に、自分さえよけりゃあ良いんだな……?」
「な、な、なんでもやるからっ!! 財宝が欲しいなら、いくらでもやるっ! この城にいる女だって、好きに扱ってくれて構わないから……!!」

 ヤツィルダさんは、大きなため息を吐き「やっぱり、頭おかしいわ……」と、うんざりした顔をして言った。

「ヤツィルダさん。良かったら、これを使って下さい……」

 俺は、懐に隠していた物をヤツィルダさんに渡す。

「ん~? ロンウェル……これ、なんだ?」

 ヤツィルダさんは、それを手に持ち。さっと目を通した後、パタパタと揺らした。

「それは……。そこに書かれている通り。己の欲の為に、横暴な政策を行った場合――不能になる……という契約書型の魔法具です」
「「ふ、不能……?」」

 ヤツィルダさんと王は、同じ言葉を同時に発し、ポカンとした表情を浮かべていて。見事なほどにシンクロしていた。

 いきなりぶっ飛んだことを言われたら、人は同じ反応をするのか……と。口を半開きにした2人を見て、笑いそうになるのを咳払いをして散らす。

「はい。これが発動すれば、王の血を引き継ぐことは不可能になります。それは非常に困りますよね? でも、横暴な政策さえしなければそうはなりませんので、問題はないはずです」

 これが、ここ2週間で製作していた魔法具だった。

 この王は、頭が足りないのにプライドだけは非常に高く。そして、先祖代々に血筋に拘っている。

 なので、この魔法具を使えば――王は、何が『横暴な政策』にあたるかさえも分からず、政策に口を出すことすらしなくなると思ったのだ。
 そうすれば自然な流れで、国の政策から王は退くことになるだろう。

 ただこれを、どのようにして王に了承させようか悩んでいたところ。このような事が起こり、絶好の機会だと思った。


「そんっ……! そんなこと、認めんっ!! 絶対に、認め――ひっ、ぅぎゃあっ!! まっ、待て! 待て!!」
「うん、じゃあ……。これに名を記入するか、いま死ぬか――どっちにする?」

 ヤツィルダさんが王の顔すれすれに鋭い氷柱を突き付けたことで、王は号泣し、震える手でそれにサインした。


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