私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末

コツメカワウソ

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 先見が出てから一か月。
 確実に魔獣が増え、街中でも目撃情報が確認され始めた。
 騎士団全体がピリピリしており、ソフィアもアルフォンスに全く会えていない。

(アル、元気にしてるかしら。こんなにも会えないのは流石にちょっと寂しいわね…)


 

 そんなある日、小型の魔獣の群れの目撃情報を調査しに行った部隊から負傷者が多く出ていると連絡が入った。


 次々と治癒室に運ばれる負傷者達、鋭い爪で切り裂かれたような傷。

「これはひどいっ…」

 辛うじて息をしている騎士もいる。ソフィアは急いで治癒を始めた。

「太い血管を裂かれてる…内臓は…」

 血管を繋ぎ傷ついた内臓を治して折れた骨を繋げていく。骨を繋げるのは魔力を多く消費する。
(とりあえずこの治療の後にポーション飲んでおこう。一気に魔力を持っていかれる)

 彼は重症だった。
 身体に負担が掛からないようにゆっくりと治療したいがどんどん魔力を持っていかれる感覚になる。
 頭の中でこれからの動きをシミュレーションする。一番重症なのは多分今治療しているこの騎士、であれば後は…。
 しばらくすると彼の呼吸が落ち着いてきた。失血のため青白い顔をしているが、山場は超えただろう。

「お願いだ!こいつを助けてくれ!俺を庇ってこんな事になって…っ!」

 突然声をかけられてソフィアはハッとして顔を上げた。
 返り血なのか本人のものなのか分からないほど血まみれになって泣きそうにしていたのは、以前ソフィアに文句を言ってきたあの騎士だった。

「とりあえず傷は塞がりましたが血を失い過ぎています。造血剤を使って様子をみるしかないですが呼吸は落ち着いてきたのでひとまず大丈夫だと思いますよ」

「ゔぅ…傷は塞がったのか……ありがとう…ビルを助けてくれて…」

 安心したのかポロポロと涙を流しながらその騎士は言った。
 ビルというのはケガをした人の名前なのだろう。

(そういえばこの人の名前知らないわ)

「ビルさんの呼吸は落ち着いてきたので今は出来ることはないですよ。ところであなたのお名前は?」

 ソフィアがそう言うと、血まみれの騎士は驚きながら顔を顰めた。

「…グレイだ」

「グレイさん、あなた怪我してますよね。ちょっと見せてください」

「いや、あのちょっ…」

 グレイを無視してソフィアは胸の辺りに手をかざす。

「肋骨折れてるじゃないですか。これじゃ呼吸も苦しかったでしょう」

「いや…ビルが死んじまうんじゃないかって心配で…」

「はいはい。とりあえずグレイさんの怪我も治しますから、動けそうならその血を綺麗にしてきてくださいね」

(嫌な奴だと思っていたけど、意外と仲間思いな人だったわ)

 ゆっくりと骨を繋げながらソフィアは思う。

「ありがとうソフィア嬢。あんな態度をとったのに…」

 気まずそうにグレイが言う。顔色が良くなってきたから大丈夫そうだ。

「仕事ですからお気になさらず。でもこんなにひどい怪我人が出るなんて、どんな魔獣と戦ったんですか?」

「俺も初めて見たんだが、確かデモンズハーピー?とか言ってたな」

「デモンズハーピー!?」

 突然大声を上げたソフィアに治癒室にいる人達が振り返る。

「あなたの所属部隊で魔力が高い騎士は誰!?」

「あ、あぁ。多分ランセル部隊長かな。魔術師は同行してなかったから。治癒出来る奴もいるけど治癒師ほどは使えないし」

「ランセル卿は!彼は大丈夫なんですか!」

「お、おいどうしたんだよ。あ、部隊長の彼女だもんな、心配するよなそりゃ。ただ俺も部隊長達がどうしてるのか分からないんだ。デモンズハーピーと一緒にきた魔獣にビルが襲われて、あいつを抱えて隊舎に向かったから」
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