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アルフォンスはソフィアを探していた。
緊急討伐から帰ってすぐ、団長に呼び出された。
そして告げられたのはソフィアが取られた対価の事。
彼女が支払った対価はアルフォンスの記憶だという。
団長室を出て、壁にもたれ掛かる。
よりによってなぜ記憶なのか。
彼女の両親と全く同じだ。
とりあえずソフィアに会いたい。
会って話がしたい。
「ソフィアちゃんに治療してもらっちゃった~」
とダル絡みしてくるキリルを何とか撒くと、治癒室に向かう。
聞けば彼女は遅い昼食に行ったという。
(中庭を突っ切るか)
近道して食堂に向かおうとした時、ちょうどソフィアを見つけた。
「ソフィ!」
彼女の名を呼ぶと、驚いたようにこちらを見ている。
とにかく対価の事を聞きたい。
ソフィアの手を掴み、歩きながら話そうとするが言葉が出ない。
(誓約か!)
まだ聞こえる範囲に人がいるのだろう。
とにかく二人きりで話せる場所へ行かないと。
ボロボロのベンチしか無いが、裏庭なら人は来ない。
そう思い立ち、ソフィアを引っ張って裏庭に向かう。
「アルフォンスさんですか?」
ソフィアにそう言われて、強い衝撃を受ける。
(アルとは…呼ばないのか…)
記憶を取られたのだと改めて思い知らされた。
自分の事を忘れてしまったソフィアを見ると、何だか胸がズキズキとする。
思わず自分の胸に手をやる。
アルフォンスが記憶を失ってまだ半月も経っていない。
それなのに、自分を忘れられるというのはこんなにも苦しいことなのか。
(ソフィは、二年も一緒にいたはずの俺に忘れられて…どれほど辛かったのか…)
何とか自分を奮い立たせてソフィアと話をする。
魔力回路の治癒をして良かったと笑う彼女を見てクラクラする。
心臓を掴まれるような感覚。
騎士団を辞める理由が無いと言いながら、結婚などとソフィアは言う。
誰と?
自分が聞くのはおかしいと分かっていたが、なぜだか聞かずにはいられない。
彼女が他の誰かと?
考えるだけで胸が苦しくなる。
思わず『他の人と結婚するとかやめて』などと口走ってしまった。
(何を言ってるんだ、俺は)
おかしな事を言っている自覚はある。
アルフォンス自身も記憶を無くした後、恋人の話を聞かされてもピンと来なかった。
全く記憶にない相手に愛情も湧かない。
だから今のソフィアだって同じなのだ。
意味が分からずポカンとしている彼女に、周囲の人間には今まで通り恋人同士として振る舞おうと言い包め、アルフォンスはなんとか詰所に戻って来た。
報告書を書くために座った机に思わず突っ伏す。
「はぁぁぁぁ」
「でっかい溜息だな」
上から降って来た言葉に思わず相手を睨む。
「どうしたの?ソフィアちゃんとケンカ?」
「キリル…」
「さっきソフィアちゃんに、アルフォンスがめちゃくちゃ強くなったのって愛の力?っ聞いたら、割と冷たい感じで『さぁ?』って返されちゃった~」
「なに聞いてんだよ、お前」
よりによって今日の話か。
彼女もそんな事を質問されて困っただろう。
「だって気になるじゃん。お前、急に二属性同時に使えるようになっただろ」
「………」
「分かるよ、流石に。デモンズハーピーと戦って気を失った後から急に強くなったんだから。何かあったと思うだろ」
「それは…」
「ま、話したくないなら別に聞かないけどさ。話せる範囲でお前が楽になるなら言ってくれ」
キリルは優しい。
騎士学校の頃はほとんど話した事は無かった。
騎士学校では魔力のある者は魔導騎士を目指す。その中で篩にかけられ、一握りの者だけが魔導騎士になれる。
キリルの魔力量は魔導騎士として戦うには足りない。魔術師に転向することも出来ない。しかし戦いの中で使えない程少なくはない。
中途半端なのだ。
本人もその事は気にしていて、学生時代はアルフォンスと距離を置いていた。
西方騎士団に配属され仲良くなった。
同じ部隊で切磋琢磨してきた親友だ。
「あのさ、キリル」
「ん?話す気になった?」
「いや…女の子を見て、心臓が掴まれるような感じがしたり、笑顔を見てクラクラしたり、自分以外の男と結婚するかもって考えてモヤモヤするのってどんな感情?」
「は?恋だろ、それは。え?もしかしてソフィアちゃんじゃない女の子に?浮気?」
「…いや、ソフィの話」
「何だよ惚気か。俺がメルちゃんにデート六回も断られてるの知ってるのに」
六回も断られてるのか。
流石にそれは知らなかった。
「侯爵家は面倒そうで無理って、驚きの理由で六回だぞ。家の事がまさかのマイナスポイントだったわ」
「まあ、高位貴族は大変そうだよな。子爵ですら面倒な事多いのに」
「おかしいなぁ。俺そこそこモテると思ってたのに、メルちゃん全然興味持ってくれないんだよ」
ちゃんとしてるな、メル嬢。
確か男爵家だったか。
男爵令嬢が侯爵子息と付き合ってたら、外野がうるさそうだ。
「メル嬢のリスクヘッジ、素晴らしいな」
「アルフォンスまで酷い!別に結婚とかいきなりそういう話じゃなくて、俺の事を知ってもらいたいんだよなぁ。こんなに好きなのに」
「キリルは本気で好きだったのか」
「何言ってるの?本気だよ。それこそ心臓ガッチリ鷲掴みにされてるよ」
「そうか」
いつもヘラヘラしているキリルが意外だ。
「だけどさ、身分なんてもののせいで恋すらもままならない。確かにうちの実家は家柄とかうるさいから、メルちゃんからしたら嫌だよなって。たださ、俺次男だからうちが持ってる爵位貰ったら伯爵なんだよ。ねぇ、それならいけると思わない?」
「まぁ…難しい問題だな」
どちらにしろ高位貴族には変わりない気がするが。
爵位を下げたいとかあまり聞いた事がない。
「アルフォンスだって同じでしょ?ソフィアちゃんが貴族令嬢の文官とか貴族の騎士なんかに絡まれてるとこ、何度か見たよ」
キリルの言葉に、アルフォンスは思わず立ち上がる。
「そうなのか!?」
「うん。気分良くないから割って入ったけどね。お前の見合い話とかさ、平民なのにとか言ってたから」
団長室でソフィアと言い争いになった時、アルフォンスの見合い話を彼女は知っていた。
親切に教えてくれる人がいると言っていたが、そういう事だったのか。
「厄災が終わったらさ、ちゃんとした方がいいよ。あの子はいい子だよ。モタモタしてると他の奴に掻っ攫われるぞ。ソフィアちゃんモテるし」
「え?」
「北方出身の平民だからみんな表立っては言わないけどな。師匠付きの治癒師ってめちゃくちゃ優秀だし数も少ない。うちの実家も一時期探してたけど雇えなかったよ。仕事も出来るし治癒室でも可愛がられてる。その上ちっちゃくて可愛い。まぁ俺はメルちゃんがタイプだけど」
「…そうだな」
「まぁソフィアちゃんの家族が、貴族を嫌がるって可能性もあるけどな。ねぇ、彼女の実家って何してるお家なの?」
「父親と弟が魔導騎士、母親が師匠付きの治癒師、もう一人の弟は王宮魔術師って言ってたな」
キリルに聞かれるままに答えてしまったが、これは話して大丈夫な事だっただろうか。
「え?どうなってるのそれ。ソフィアちゃんって本当に平民?今時貴族でもそこまでの魔力一家はいないよ」
話したらダメなやつだったかもしれない。
キリルの家の力なら調べられてしまう。
「本人は言うつもりはないみたいだから家族の事は内緒にしてくれ。あと、ソフィ本人は平民だよ」
あくまで本人と母親だけだが。
「そっかぁ。北方ってすごいなぁ。北の英雄もいるし。ソフィアちゃん、会ったことあるのかな」
言えない。
彼女の父親だなんて。
「…さぁな。さて、俺は報告書を書くよ。聞いてくれてありがとな」
「あんまり考えすぎるなよ~」
ポンポンとアルフォンスの肩を叩いて、キリルは仕事に戻って行った。
一人になって報告書を見つめるが、頭が働かない。
さっきのキリルとの会話で、アルフォンスは気づいてしまった。
「俺…ソフィの事めちゃくちゃ好きじゃん…」
緊急討伐から帰ってすぐ、団長に呼び出された。
そして告げられたのはソフィアが取られた対価の事。
彼女が支払った対価はアルフォンスの記憶だという。
団長室を出て、壁にもたれ掛かる。
よりによってなぜ記憶なのか。
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会って話がしたい。
「ソフィアちゃんに治療してもらっちゃった~」
とダル絡みしてくるキリルを何とか撒くと、治癒室に向かう。
聞けば彼女は遅い昼食に行ったという。
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「ソフィ!」
彼女の名を呼ぶと、驚いたようにこちらを見ている。
とにかく対価の事を聞きたい。
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(誓約か!)
まだ聞こえる範囲に人がいるのだろう。
とにかく二人きりで話せる場所へ行かないと。
ボロボロのベンチしか無いが、裏庭なら人は来ない。
そう思い立ち、ソフィアを引っ張って裏庭に向かう。
「アルフォンスさんですか?」
ソフィアにそう言われて、強い衝撃を受ける。
(アルとは…呼ばないのか…)
記憶を取られたのだと改めて思い知らされた。
自分の事を忘れてしまったソフィアを見ると、何だか胸がズキズキとする。
思わず自分の胸に手をやる。
アルフォンスが記憶を失ってまだ半月も経っていない。
それなのに、自分を忘れられるというのはこんなにも苦しいことなのか。
(ソフィは、二年も一緒にいたはずの俺に忘れられて…どれほど辛かったのか…)
何とか自分を奮い立たせてソフィアと話をする。
魔力回路の治癒をして良かったと笑う彼女を見てクラクラする。
心臓を掴まれるような感覚。
騎士団を辞める理由が無いと言いながら、結婚などとソフィアは言う。
誰と?
自分が聞くのはおかしいと分かっていたが、なぜだか聞かずにはいられない。
彼女が他の誰かと?
考えるだけで胸が苦しくなる。
思わず『他の人と結婚するとかやめて』などと口走ってしまった。
(何を言ってるんだ、俺は)
おかしな事を言っている自覚はある。
アルフォンス自身も記憶を無くした後、恋人の話を聞かされてもピンと来なかった。
全く記憶にない相手に愛情も湧かない。
だから今のソフィアだって同じなのだ。
意味が分からずポカンとしている彼女に、周囲の人間には今まで通り恋人同士として振る舞おうと言い包め、アルフォンスはなんとか詰所に戻って来た。
報告書を書くために座った机に思わず突っ伏す。
「はぁぁぁぁ」
「でっかい溜息だな」
上から降って来た言葉に思わず相手を睨む。
「どうしたの?ソフィアちゃんとケンカ?」
「キリル…」
「さっきソフィアちゃんに、アルフォンスがめちゃくちゃ強くなったのって愛の力?っ聞いたら、割と冷たい感じで『さぁ?』って返されちゃった~」
「なに聞いてんだよ、お前」
よりによって今日の話か。
彼女もそんな事を質問されて困っただろう。
「だって気になるじゃん。お前、急に二属性同時に使えるようになっただろ」
「………」
「分かるよ、流石に。デモンズハーピーと戦って気を失った後から急に強くなったんだから。何かあったと思うだろ」
「それは…」
「ま、話したくないなら別に聞かないけどさ。話せる範囲でお前が楽になるなら言ってくれ」
キリルは優しい。
騎士学校の頃はほとんど話した事は無かった。
騎士学校では魔力のある者は魔導騎士を目指す。その中で篩にかけられ、一握りの者だけが魔導騎士になれる。
キリルの魔力量は魔導騎士として戦うには足りない。魔術師に転向することも出来ない。しかし戦いの中で使えない程少なくはない。
中途半端なのだ。
本人もその事は気にしていて、学生時代はアルフォンスと距離を置いていた。
西方騎士団に配属され仲良くなった。
同じ部隊で切磋琢磨してきた親友だ。
「あのさ、キリル」
「ん?話す気になった?」
「いや…女の子を見て、心臓が掴まれるような感じがしたり、笑顔を見てクラクラしたり、自分以外の男と結婚するかもって考えてモヤモヤするのってどんな感情?」
「は?恋だろ、それは。え?もしかしてソフィアちゃんじゃない女の子に?浮気?」
「…いや、ソフィの話」
「何だよ惚気か。俺がメルちゃんにデート六回も断られてるの知ってるのに」
六回も断られてるのか。
流石にそれは知らなかった。
「侯爵家は面倒そうで無理って、驚きの理由で六回だぞ。家の事がまさかのマイナスポイントだったわ」
「まあ、高位貴族は大変そうだよな。子爵ですら面倒な事多いのに」
「おかしいなぁ。俺そこそこモテると思ってたのに、メルちゃん全然興味持ってくれないんだよ」
ちゃんとしてるな、メル嬢。
確か男爵家だったか。
男爵令嬢が侯爵子息と付き合ってたら、外野がうるさそうだ。
「メル嬢のリスクヘッジ、素晴らしいな」
「アルフォンスまで酷い!別に結婚とかいきなりそういう話じゃなくて、俺の事を知ってもらいたいんだよなぁ。こんなに好きなのに」
「キリルは本気で好きだったのか」
「何言ってるの?本気だよ。それこそ心臓ガッチリ鷲掴みにされてるよ」
「そうか」
いつもヘラヘラしているキリルが意外だ。
「だけどさ、身分なんてもののせいで恋すらもままならない。確かにうちの実家は家柄とかうるさいから、メルちゃんからしたら嫌だよなって。たださ、俺次男だからうちが持ってる爵位貰ったら伯爵なんだよ。ねぇ、それならいけると思わない?」
「まぁ…難しい問題だな」
どちらにしろ高位貴族には変わりない気がするが。
爵位を下げたいとかあまり聞いた事がない。
「アルフォンスだって同じでしょ?ソフィアちゃんが貴族令嬢の文官とか貴族の騎士なんかに絡まれてるとこ、何度か見たよ」
キリルの言葉に、アルフォンスは思わず立ち上がる。
「そうなのか!?」
「うん。気分良くないから割って入ったけどね。お前の見合い話とかさ、平民なのにとか言ってたから」
団長室でソフィアと言い争いになった時、アルフォンスの見合い話を彼女は知っていた。
親切に教えてくれる人がいると言っていたが、そういう事だったのか。
「厄災が終わったらさ、ちゃんとした方がいいよ。あの子はいい子だよ。モタモタしてると他の奴に掻っ攫われるぞ。ソフィアちゃんモテるし」
「え?」
「北方出身の平民だからみんな表立っては言わないけどな。師匠付きの治癒師ってめちゃくちゃ優秀だし数も少ない。うちの実家も一時期探してたけど雇えなかったよ。仕事も出来るし治癒室でも可愛がられてる。その上ちっちゃくて可愛い。まぁ俺はメルちゃんがタイプだけど」
「…そうだな」
「まぁソフィアちゃんの家族が、貴族を嫌がるって可能性もあるけどな。ねぇ、彼女の実家って何してるお家なの?」
「父親と弟が魔導騎士、母親が師匠付きの治癒師、もう一人の弟は王宮魔術師って言ってたな」
キリルに聞かれるままに答えてしまったが、これは話して大丈夫な事だっただろうか。
「え?どうなってるのそれ。ソフィアちゃんって本当に平民?今時貴族でもそこまでの魔力一家はいないよ」
話したらダメなやつだったかもしれない。
キリルの家の力なら調べられてしまう。
「本人は言うつもりはないみたいだから家族の事は内緒にしてくれ。あと、ソフィ本人は平民だよ」
あくまで本人と母親だけだが。
「そっかぁ。北方ってすごいなぁ。北の英雄もいるし。ソフィアちゃん、会ったことあるのかな」
言えない。
彼女の父親だなんて。
「…さぁな。さて、俺は報告書を書くよ。聞いてくれてありがとな」
「あんまり考えすぎるなよ~」
ポンポンとアルフォンスの肩を叩いて、キリルは仕事に戻って行った。
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