【完結】私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末

コツメカワウソ

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 騎士や他の非戦闘員の団員と共に、西方の砦に来たソフィアは日々多くなる怪我人達をひたすら治療していた。
 大型の魔獣の出現が増え、皆疲弊していた。
 師匠付きのソフィアは重症者を担当する事が多い。
 骨を繋ぎ内臓を治す。その度に魔力をゴッソリ持っていかれる。そしてポーションを飲み、また治療する。

 北方に厄災の本体が現れるのは時間の問題だと聞いた。
 父と弟は魔導騎士だ。きっと最前線にいるだろう。
 母の避難している場所には魔獣は現れないだろうか。もしかしたら怪我人の治療に追われているかもしれない。
 不安だけが募っていく。

 ふらつく体に鞭を打ち、ポーションを飲み干す。
 ようやく患者の波が収まり、一息付いた時だった。
 バタバタと廊下を走る大勢の足音。

「何かあったの?」

 嫌な予感がする。

「ソフィア!厄災の本体が北方に現れた!後方部隊も出るぞ!」

 同僚の治癒師に声を掛けられ、弾けるように立ち上がった。

「厄災の本体…」

 ついに始まったのか。
 急いで荷物を纏めてローブを羽織る。
 意味もなく胸元の指輪を服の上から握る。
 アルフォンスから貰ったであろう指輪。
 何故だか外しがたくてそのまま身につけている。

 裏庭で話した後、アルフォンスはすぐにこちらの砦に行く事になった。
 治癒師も交代で同行するが、ソフィアは数日前に来たばかりだ。
 前線にいる彼とは会っていない。
 そもそも怪我が無ければ顔を合わせる機会は無い。
 無事に過ごしているという事だろう。
 話し合いとは言い難い、何だか丸め込まれた感も否めなかったが、それでも一応恋人同士。ということになってはいる。
 対価を払ってまで魔力を取り戻して欲しいと望んだ相手、気にならないと言えば嘘だ。

 騎士達が進んだ後、戦いに巻き込まれない位置にソフィア達は待機する。
 魔術師になる程の才は無かったが、攻撃魔法が使えない訳ではない。圧倒的に治癒の方が得意だっただけだ。
 念の為、とこちらに来る前に師匠からは魔導書が届いた。
 最低限自分の身を守り、魔獣から逃げ出す隙を作る。それが出来れば護衛の騎士達が対応してくれるだろう。
 防御の魔法は苦手だが、怪我人がいればやるしかない。
 魔術師は一人付いてくれている。
 それでも全てを防ぎ切る事は難しいだろう。

「遠くで戦っている音がする…」

 人の声、魔獣の咆哮、何かがぶつかりあい、時折叫び声のようなものも聞こえる。

 そうしていると怪我人が運ばれてきた。
 脇腹を深く抉られ、出血も酷い。

「こちらに寝かせて!」

 急いで治療をしていく。
 酷い顔色で呼吸も浅い。
 急激に魔力を流すのは患者の負担になるが、迷っている暇はなさそうだ。

(お願い!間に合って…!)

 どんどん魔力が吸い取られていくようだ。
 視界がブレる。

 失った血は戻らないが、呼吸が落ち着いてきた。
 効果は薄いが増血を促すように追加で魔力を流す。

「ソフィア!こっちもいけるか!」

 クリオが遠くから叫んでいる。

「今行きます!」

 ソフィアが立ちあがろうとした時、後ろの茂みがガサガサと音を立て、振り返ると魔獣が飛び出して来た。

「ソフィア!!」

 クリオの叫び声がする。

(間に合わないっ!)

 防御魔法を詠唱し始めたが、魔獣の走る速度が速い。
 熊のような魔獣が振り上げた大きな爪が、自分に向かって下ろされるのがスローモーションのように見えた。

(もうダメっ!)

 ソフィアが死を覚悟した時、バチンと大きな音がした。
 自分の周りが一瞬真っ白になり、次の瞬間には魔獣が後ろに吹き飛ばされて黒いモヤとなって消えた。

「何…が、起きた、の?」

 突然の事に理解が追いつかない。
 防御の魔法は間に合わなかった。
 それなのに、ソフィアは無傷で魔獣は消えてしまった。
 突然の事に周囲にいた騎士達も一瞬動きを止めた。しかしバラバラと襲って来る魔獣を見て動き始める。
 彼らが助けてくれたのだろうか。

「熱っ!」

 突然胸元に熱を感じた。
 探ってみると、アルフォンスがくれた指輪が熱を放っている。

「これって…」

 チェーンを手繰って指輪を確認する。

「模様…変わってる…」

 表面に植物が彫ってあった筈だ。今は何もない。つるんとしている。

「もしかして、指輪が守ってくれたの?」

 アルフォンスが防御の魔法を込めていてくれたのだろうか。

「ソフィア!大丈夫か!何かすごい光ってたけど」

 クリオが走って来た。

「大丈夫です。多分、指輪が守ってくれたんで」

「指輪?」

 クリオがソフィアが胸元で持っている指輪を見る。

「はい」

「良かったよ、無事で。応急処置だけした怪我人がいる。頼めるか」

「はい、すぐ行きます」

 クリオの後を付いていきながら、ふとソフィアは思う。

「指輪の事、聞くの忘れてた」

 アルフォンスはどんな気持ちでこの指輪をくれたのだろうか。

「アル…」

 彼に会いたい、とソフィアは思った。






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