【完結】私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末

コツメカワウソ

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 厄災の本体は北方だけに現れると考えられていた。
 しかし、今アルフォンスが見ているのは明らかに本体の一部だ。
 斬っても斬っても湧いてくるように現れる魔獣。
 騎士達がいくら斬り倒しても、アルフォンスの圧倒的な炎で焼き払っても、しばらくするとまた群れを成して現れる。

「いくら斬ってもすぐに湧いて来る!なんだよこれ!」

 肩で息をしながらキリルが叫ぶ。


 厄災を終わらせるためには、魔の森の奥にある瘴気の裂け目と言われる部分を塞がなければならない。
 瘴気の裂け目は毎回違う場所に出来るため、とにかく魔獣を倒しながらそこを目指すしかない。
 過去、瘴気の裂け目が出来始めた時に塞ぐ方法を探したが、何度厄災を繰り返しても、本体が現れた後でないと裂け目自体を見つけられなかった。
 北方騎士団の魔導騎士達は今頃、そこを目指している筈だ。
 ライオネルとヒューは転移が出来る。
 しかしこれほどの魔獣の真ん中に転移するのは、さすがに厳しいだろう。
 二十三年前、ライオネルが英雄と言われた理由は、圧倒的な魔力を持って瘴気の裂け目を見つけられたからだ。
 通常であれば大人数でひたすら進軍するしかない。隣国との戦争でそれすらも叶わない状況の中、ライオネルは数の不利を覆す活躍を見せた。しかしそれは、戦争が無ければ他のの騎士団からも援軍が送られた戦力を、ライオネルが補えたに過ぎない。
 実際、死者も負傷者も多く出たのだ。

 裂け目を塞ぐ事が出来れば、後は残った魔獣をひたすら倒すだけだ。北方騎士団が裂け目を塞ぐまで、とにかく時間を稼がなければならない。
 ライオネルはすでに一線を退き、息子のヒューはまだ正騎士になったばかり。
 厳しい状況には変わりない。
 しかも西方にまで本体は現れている。

「キリル!今のうちにポーション飲んでおけ。魔法、結構使っただろ」

 そう言ってアルフォンスは、キリルにポーションを渡す。

「助かる。俺の魔法でも少しは役に立ったかな」

「何言ってんだよ。当たり前だ」

「ありがとう、アルフォンス。お前が居なかったら今頃は全滅だったよ。普通の騎士にはこの状況じゃ他勢に無勢だ」

 流れる汗を拭いながらキリルはポーションを飲み干した。
 魔導騎士がいない部隊では押し寄せる魔獣にあっという間にやられていただろう。
 きっと先に進む事すらできない。

「そんな事はないさ。みんなが居てくれるから俺も死なずに済んでる。もうすぐ北方騎士団が裂け目を塞いでくれるさ」

「あぁ、そうだな」

「もう少ししたらまた湧いて来るだろう。少しでも休もう」

 キリルにそう言った時、アルフォンスの中で何かが壊れる音がした。

「!」

(何だ、今のはっ!)

 体に痛みは無い。

(これは…防御魔法?)

 それがしっくりくる。防御魔法が発動して壊された時の感覚だ。

(だとしたら何が発動したんだ。俺は今、防御魔法なんて掛けていない)

 自分が分かったのだから、アルフォンス自身が掛けたものだろう。
 しかし何も思い当たるものがない。

(だとしたら記憶にない時の俺が掛けた防御魔法か)

 アルフォンスの記憶が無いのはソフィアに関してだけだ。
 嫌な汗が流れる。

(ソフィに…何かあったのか…)

 今の状況では確かめようが無い。

(頼む…無事でいてくれっ…)

 祈る気持ちを込めて、やって来る魔獣を倒し続けるだけだ。



 どれほどそうして戦っていただろうか。
 向かって来る魔獣をひたすら斬り続ける。
 辺りは暗くなり始め、アルフォンスが放つ炎が時折森の中を照らし出す。

 同じ部隊の人間は既に数を減らしている。
 死者こそ出ていないが、傷を負った者は直ぐには戻れない。

 アルフォンスは既にボロボロだ。
 ポーションも残り少ない。
 見渡せばキリルも他の隊員も似たようなものだった。

「なぁキリル、何か変じゃないか」

「あぁ。本体は北にいるんだよな」

「そのはずなんだが…」

 さっきよりも魔獣が増えている気がする。

「それに戦っている音がどんどん近づいて来るようじゃないか」

 他の部隊が近くにいるのだろうか。
 砦を出る時、副団長の部隊も森に向かっているのは見た。
 他の魔導騎士の部隊もきっと来ている筈だ。

「随分奥まで来てる。近くに他の部隊もいるならば合流しよう」

 ここまで来ているならば魔導騎士がいる部隊だろう。
 合流出来ればありがたい。

 その時、一際大きな爆発音がした。
 凄まじい風が熱と共に吹きつけて来る。

「何だ!」

 アルフォンスが振り返ると、同じくボロボロの青年が飛び込んで来た。

「うわぁ!」

 転がるように飛び込んで来た青年は、ボロボロの騎士服に剣を持ち、驚いたようにアルフォンスを見た。

「え?騎士団の…人、ですか?」

 アルフォンスより随分幼く見える。
 騎士になったばかりだろうか。
 見ない騎士服だ。

「あ、あぁ。西方騎士団の者で…君は?」

「あ、俺はー」

「おいヒュー!お前勝手に進むな!親父さんはどうしたんだ!」

 自分よりも少し年上くらいだろうか。
 焦ってきたらしく、肩で息をしながら騎士が走って来た。

「あ、先輩!父さんなら置いて来ました」

「はぁ!?」

「こっちの方から魔獣が湧いて来てたんで。父さんが向こうにいた方が、他の騎士の被害が少ないと思うし」

「お前なぁ…」

 アルフォンスを置いてけぼりにして、二人は話し続ける。

「あ、あの!」

 アルフォンスの声に二人が同時に振り向いた。

「お二人は…?」

「あぁ申し訳ない。私は北方騎士団のセルブスと言います。こっちは同じくヒュー」

「セルブス殿とヒュー殿…」

 ヒュー?
 どこかで聞いた事がある名前だ。

「私は西方騎士団のアルフォンスです。なぜ北方の方が?」

「瘴気の裂け目を探して進んでいたらここに…ここは西方なのか?」

「はい」

「まさか瘴気の裂け目が魔の森の端に出来ているのか…?」

 セルブスと名乗った騎士は考え込む。

「西方騎士団のアルフォンス…アルフォンス…?あっ!!」

 ヒューと名乗った青年が突然大声を上げた。

「もしかして、ソフィアの?」

「彼女を知っているのか!?」

「あ、俺の姉です」

「はぁ!?」

 そう言えば、ソフィアの下の弟はヒューという名だった。
 聞き覚えがあるはずだ。

「ヒュー。知り合いか?」

「姉の恋人です」

「え?」

「先輩!このままいきましょう!この人がいるなら、父さんがいなくても瘴気の裂け目を塞げます!」

「おい!何を言ってー」

「この人、父さんと同じくらいの魔力があるはずです」

「親父さんと…同じ…?」

「ですよね、アルフォンスさん」

 ソフィアと同じ瞳がアルフォンスを見ている。しかし、笑っているのにその目からは温度を感じない。

「あ、あぁ」

「そんな話…聞いた事無いぞ。西方騎士団にそれほどの魔導騎士がいるなんて…」

「あ~~~。色々ありまして」

 ヘラっとヒューが笑った。
 彼は誓約下の人間か。
 そしてアルフォンスが魔力回路の治癒を受けた事を知っている。

「多分ここって魔の森の端っこですよね。それならもうすぐ裂け目のはずです。このまま行っちゃいましょう。西の皆さんと一緒に行けば、何とかなりますよ」

 アルフォンスの部隊はもう二十人足らず、他の部隊と合流出来るなら、その方がいい。しかしこのまま瘴気の裂け目に向かうとなれば話は別だ。魔獣が最も多い本丸に向かうのは余りにも危険な上に、ヒュー達の足手纏いになる可能性が高い。皆ボロボロで治癒師もいないのだ。

「出来るならそうしたい。だが治癒師もいない状況では、うちの部隊は持たない」

 悔しそうにアルフォンスが唇を噛んだ。
 ヒューは西方騎士団の隊員達を見回す。
 皆ボロボロで怪我をしている者ばかりだ。

「あ~…そっか…うん。いや…団長にバレるよなぁ…」

 ブツブツ言いながら何やら悩んでいるヒューは、しばらくすると大きくため息を付き、アルフォンスに近づくと小声で話しかけた。

「俺が治療するんで、どうですか?」

「…出来るのか?」

(ソフィの弟ならば、治癒師の修行もしていたと言うことか…)

「出来るんですけど、やりたくないというか…いやでも、そんな事言ってられないですからね」

(出来るのに、やりたくない?)

 アルフォンスは魔力を取り戻したが、治癒は使えない。
 戦う事は出来ても仲間を治す事はできないのだ。

「あの、うちの団長には俺が治癒を使えるって黙っててもらっていいですか?」

「団長?北方騎士団のか?」

「はい。そうじゃないとマーガレットに治してもらえなくなっちゃうので」

「マーガレット?」

「俺の恋人です」

 そう言ってヒューは、西方騎士団の団員達を治療していく。
 時折『うっ』と呻くような声が聞こえるのは、一気に治したことで一時的に負荷がかかったのだろう。
 一通り治療し終わると、アルフォンスの元にやって来て手を翳す。

「あなたも怪我してますから、治しときますね。絶対、絶対に内緒にしてくださいね!」

「わ、分かった」

 必死な顔で念を押すヒューに、思わず頷く。

「せんぱーい!いつでも行けますよー!」

 ヒューは大声でセルブスに声をかけた。
 二人を追って来たであろう北方騎士団の騎士達と共にやって来る。

「緊急事態だ。よろしく頼む、西方騎士団の皆様」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 アルフォンスは、ヒュー達と瘴気の裂け目を塞ぐため、魔の森の奥へ進んでいった。








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