【完結】私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末

コツメカワウソ

文字の大きさ
56 / 69

56

しおりを挟む
 北方騎士団の騎士達に重症者はいなかった。
 それでも四十人近い騎士の治療を一人でするのはきつい。ポーションを貰ってこようかと考えていると、

「ヒューにも手伝わせるから安心しろ」

 とセルブスが言った。

「ヒューに?でもあの子、治癒なんて…」

「出来るんだよ、あいつ。マーガレットに治してもらう為に隠してやがった。さっきアルフォンス殿の部隊を治してまわってた」

 何と言う事だ。
 今までソフィアも知らなかった。
 ジョシュアは知っているのだろうか。

「本当にヒューは…セルブス様、申し訳ありません」

 セルブスを治し終えるとソフィアは頭を下げる。

「いや、あいつには驚かされてばかりだからな。もう慣れた」

 何故だろう。
 厄災が終わったというのに、セルブスの顔には疲労の色が見える。

「ソフィア、アルフォンス殿の事なんだが…」

「え?」

「瘴気の裂け目を塞いだのはヒューとアルフォンス殿だ。ヒューの奴が親父さんを置き去りにして一人で裂け目を目指して突っ込んで、その時にアルフォンス殿達と会ったんだ」

「そうだったんですか」

「ヒューはアルフォンス殿が親父さんと同じくらいの魔力量だと知っていた。でも俺は、西方騎士団にそんな魔導騎士がいるなんて父上からも聞いた事はない」

「………」

「もしかして、ジュリアさんと同じ事を?」

「…はい」

「治癒師は?」

「…私です」

 誓約に引っかからないギリギリの言い回しだった。
 セルブスはきっと、ヒューの話を聞いた時から確信していたのだろう。

「ちょっと来い!」

 セルブスはソフィアを引っ張って人のいない場所まで連れて行った。

「何を取られた?」

「…記憶、です。彼の」

 ソフィアの言葉にセルブスは天を仰いだ。

「母娘揃って…」

「すみません…」

 沢山の人に心配掛けてしまった。
 それでも、ソフィアは後悔はしていない。

「厄災が迫っている中で、他の選択肢が見つけられませんでした。それに私は、後悔はしていないんですよ。治療したから、彼はヒューと一緒に瘴気の裂け目を塞いでくれた。本当に、良かったと思ってるんです」

 ニッコリと笑うソフィアを見て、セルブスは溜息を付いた。

「…分かった。多分お祖母様は、すぐにこの事を知るだろうな。いや、もう知っているかもしれない」

「ええ」

「…ソフィア、お前幸せか?」

「もちろん」

「そうか…」

 セルブスはソフィアが生まれた時からずっと見守ってきた。
 子供の頃には何故妹ではない赤ん坊が家にいるのか理解出来なかったが、後継者教育の中で誓約の事を教えられた。成人してからはソフィア達の家族の事情も。
 マーガレットといつも二人でいる姿は、妹がもう一人増えたような気持ちだった。
 だから自称兄として、ソフィアには幸せになって欲しかった。

「それならば、もう何も言わん。とにかく落ち着いたら一度くらい帰省しろ。その頃にはうちにも二人目が生まれているはずだから、顔ぐらい見ていけ」

「わぁ楽しみです!ミシェル様にもお会いしたいですし」

「それにヒューのやつ、今回の事で功績を上げて例のイベントやろうとしてるぞ。ソフィアも観にくればいい。俺も参戦してやろうと思っているからな」

「それは…修練場が無事だといいですね…」

 ソフィアが遠い目をした。
 魔導騎士三人が本気で戦ったら隊舎が危ない。

「ああ!二人でコソコソ何してるの!」

 呑気な声が聞こえて来た。

「ヒュー…」

「先輩ダメですよ~、既婚者なんだからソフィアを口説いちゃ。ミシェル様に言っちゃいますよ」

「口説いてないわ!主にお前の話だ!」

 セルブスの苦労が偲ばれる。
 手のかかる部下が居て大変だろう。

「ヒュー、あなた治癒が使えたのね?」

「うん」

「全く。そんな大事な事を隠しておくなんて。北方騎士の人達、一緒に治療するわよ」

「え~」

 悪びれる様子もなくヒューが唇を尖らせる。

「え~じゃない!早く!」

 ブツブツと文句を言うヒューと一緒に治療をしていく。
 ヒューの治癒能力は高く、あっという間に治療を終えた。

「それじゃあ俺達は北方に戻る。西方騎士団の方々によろしく伝えてくれ」

「はい。お気をつけて」

「あ、先輩!すぐに追いかけるので先に行ってもらって良いですか?」

 出立を前にヒューが言った。

「…自由過ぎるだろ、お前」

「それが俺の長所なんで!」

 不機嫌になりながらもセルブス達は出立して行った。

「ヒュー、何か忘れ物でもあった?」

「ん~、忘れ物といえばそうかも。アルフォンスさんに会ってから帰ろうかなって」

「あぁ、そうなのね」

「一緒に探して、姉さん」

「…こんな時ばっかり姉さんって」

 ヒューはいつも、ソフィアに頼み事をする時だけ『姉さん』と言っていた事を思い出す。

 連れ立って砦の中を歩いているとキリルを見つけた。

「あ!キリルさん!」

「ソフィアちゃんの弟君じゃないか。あれ?もう帰ったんじゃないの?」

「アルフォンスさんに会ってから帰りたくて」

「そうなんだ。アルフォンスならさっき詰所に居たから呼んできてあげるよ」

 そう言うとキリルは小走りに詰所に向かった。
 ヒューに流されてついて来てしまったが、アルフォンスに会うのだと思うとソフィアはなんだか緊張してきた。

(無事なら良かったんだけど、あれ?何話せばいいのかしら)

 悩んでる間に二人の元にアルフォンスがやって来る。

「アルフォンスさん!」

「ヒュー殿と、ソフィ?」

「あの、ヒューがあなたに会ってから帰りたいって言うから」

「そっか。ヒュー殿、今回は本当にありがとう。君も色々大変そうだけど、応援してるよ」

「ありがとうございます!アルフォンスさんも頑張ってくださいね。俺はあなたの事も“義兄上”って呼びたいので!」

「は!?」
「え!?」

 ヒューがとんでもない事を言い出した。

「ソフィアも自分の幸せを一番に考えるんだよ。アルフォンスさん、ソフィアの事よろしくお願いしますね~。じゃあまた!」

 そう言うとヒューは強い光を放って転移していった。
 ヒューがいなくなると、なんとも気まずい。
 気まずさに耐えきれず、ソフィアが口を開いた。

「あの!ヒューと一緒に瘴気の裂け目を塞いだって聞いたの。厄災を終わらせてくれて本当にありがとう」

「いや、俺達はヒュー殿に助けられてばかりだったから。ソフィの弟は何と言うか、自由ですごいな」

「あ~うん、自由ね、確かに」

「もちろん能力も高い。あれは天才だな」

 アルフォンスはヒューの行動を思い出す。圧倒的な魔力量で他を圧倒し、転移も治癒も難なく熟す。まごう事なき天才だ。

「全ての行動原理が恋人の為っていうのも、真っ直ぐさが眩しかった。あんな風に生きられるのは本当に格好いいと思う。セルブス殿は苦労してそうだが、同時に愛情も感じるしな。仲が良さそうだ」

 多分ヒューがセルブスを“義兄上”と呼ぶ日は近いだろう。

「そういえば、ソフィに聞きたい事があったんだ。ちょっと時間ある?」

「え?うん。今は治療も終わったから平気よ」

「じゃあちょっと二人で話そう」

 そう言うとアルフォンスは、ソフィアを砦の裏へ連れて行った。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています

瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
恋愛
【第一部完結】  婚約者を邪険に思う王太子が、婚約者の功績も知らずに婚約破棄を告げ、記憶も魔力も全て奪って捨て去って――。  ハイスぺのワケあり王子が、何も知らずに片想いの相手を拾ってきたのに、彼女の正体に気づかずに――。 ▲以上、短いあらすじです。以下、長いあらすじ▼  膨大な魔力と光魔法の加護を持つルダイラ王国の公爵家令嬢ジュディット。彼女には、婚約者であるフィリベールと妹のリナがいる。  妹のリナが王太子と父親を唆し、ジュディットは王太子から婚約破棄を告げられた。  しかし、王太子の婚約は、陛下がまとめた縁談である。  ジュディットをそのまま捨てるだけでは都合が悪い。そこで、王族だけに受け継がれる闇魔法でジュディットの記憶と魔力を封印し、捨てることを思いつく――。  山道に捨てられ、自分に関する記憶も、魔力も、お金も、荷物も持たない、【ないない尽くしのジュディット】が出会ったのは、【ワケありな事情を抱えるアンドレ】だ。  ジュディットは持っていたハンカチの刺繍を元に『ジュディ』と名乗りアンドレと新たな生活を始める。  一方のアンドレは、ジュディのことを自分を害する暗殺者だと信じ込み、彼女に冷たい態度を取ってしまう。  だが、何故か最後まで冷たく仕切れない。  ジュディは送り込まれた刺客だと理解したうえでも彼女に惹かれ、不器用なアプローチをかける。  そんなジュディとアンドレの関係に少しづつ変化が見えてきた矢先。  全てを奪ってから捨てた元婚約者の功績に気づき、焦る王太子がジュディットを連れ戻そうと押しかけてきて――。  ワケあり王子が、叶わない恋と諦めていた【幻の聖女】その正体は、まさかのジュディだったのだ!  ジュディは自分を害する刺客ではないと気づいたアンフレッド殿下の溺愛が止まらない――。 「王太子殿下との婚約が白紙になって目の前に現れたんですから……縛り付けてでも僕のものにして逃がしませんよ」  嫉妬心剥き出しの、逆シンデレラストーリー開幕! 本作は、小説家になろう様とカクヨム様にて先行投稿を行っています。

雪とともに消えた記憶~冬に起きた奇跡~

梅雨の人
恋愛
記憶が戻らないままだったら…そうつぶやく私にあなたは 「忘れるだけ忘れてしまったままでいい。君は私の指のごつごつした指の感触だけは思い出してくれた。それがすべてだ。」 そういって抱きしめてくれた暖かなあなたのぬくもりが好きよ。 雪と共に、私の夫だった人の記憶も、全て溶けて消えてしまった私はあなたと共に生きていく。

私の願いは貴方の幸せです

mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」 滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。 私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

サバ読み令嬢の厄介な婚約〜それでも学園生活を謳歌します!〜

本見りん
恋愛
療養中の体の弱い伯爵令嬢と、4つ年上の庶子の姉。 シルビア マイザー伯爵令嬢は生まれつき体が弱かった。そんな彼女には婚約者がおり、もうすぐ学園にも通う予定だったが……まさかの駆け落ち。 侯爵家との政略結婚を断れない伯爵家。それまで病弱で顔の知られていなかった妹の代わりに隠された庶子の姉フィーネがその身代わりになり学園に通うことに……。 まさかの4歳もサバを読んで。 ───王立学園での昼下がり、昼食の後お喋りに花を咲かせる令嬢たち。 「───シルビア様は、本当に大人びて……いえ、……落ち着いていらっしゃるわねぇ」 「ま、まあ……。そうですかしら? うふふ?」  ……そりゃ、そうですわよね。  だって本当は私、貴女方より4歳も年上なんですもの……!  今日もフィーネは儚げな笑顔(演技)で疑惑を躱しつつ、学園生活を楽しむ。しかしそんな彼女の婚約者は……。  サバ読み令嬢の、厄介な婚約の物語

処理中です...