【完結】私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末

コツメカワウソ

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 ソフィアが砦から戻ってきたのは、瘴気の裂け目が塞がってから数日ほど経った後だった。
 無事に厄災が終わった事を皆で喜び、その後始末に終われ、気づけばアルフォンスとは全く会っていない。
 お互いに忙しい身、しかもアルフォンスは厄災を終わらせた立役者だ。
 彼は砦に帰ってきてからも慌ただしく、その後すぐに王都に行ってしまった。
 ジョシュアからの手紙では、王宮治癒師団がアルフォンスの魔力について調べたいとの事だった。
 ソフィアは父も厄災後に王都へ呼ばれ、なかなか北方に戻れなかったと聞いた事を思い出した。その間に母に逃げられるという事態になったあれだ。

 ようやく落ち着いて通常業務に戻った頃、ソフィアは知らない職員に絡まれる事が多くなった。
 案の定、アルフォンスが瘴気の裂け目を塞いだ事を知った家から縁談がひっきりなしに届いているらしい。
 きっと貴族令嬢なのだろう職員達は、アルフォンスへ縁談を申し込んだだの平民とは別れるべきだの、以前にも増してわざわざ言いにきてくれる。
 面倒な事この上ない。
 ソフィアが一人でいるとやってくるため、なるべくエリーやメルといるように気をつけていた。





「ソフィア、あなた随分面倒な事になってるわねぇ」

 フェイが差し入れてくれたマカロンをつまみながら、エリーは言った。 
 食堂に行く事も面倒になり、最近は専ら治癒室の休憩室で昼食だ。

「何というか、暇なんでしょうか彼女達は」

 緑色のマカロンを手に取って眺めながらソフィアはため息を付く。

「ランセル卿が随分と有名人になっちゃって、あなたも大変ね」

「なんかもう、逃げ出した母の気持ちがよく分かります」

 大体、形式上は恋人同士のままだが、二人の関係は保留状態。
 たまにアルフォンスからは魔法紙が届くけれど、それだって短いものだ。
 それでも必ず“大好き”“会いたい”と書いてある。
 嬉しい気持ちもあるけれど、関係を深める前にこの状況だ。
 
「ソフィア…騎士団辞めないわよね?」

「今のところ辞めるつもりはないですけどね。もう、私が何をしたっていうんですかね」

 はぁぁぁ、とソフィアは本日二度目のため息を吐いた。

「ランセル卿とはどうなってるの?」

「ん~、手紙はたまに届きますけど、砦で会ったのが最後ですね」

「ランセル卿とソフィアの弟さんが瘴気の裂け目を塞いだんでしょう?王都で色々やる事があるんだろうけど、大変ね。そういえばソフィアの弟さんにも縁談が届いてるんじゃないの?」

「あ、ヒューは全く問題無いです」

「そうなの?」

 意外そうなエリーに、ソフィアはヒューについて語った。

「それはまた…すごいわね」

「あの子はマーガレット以外見てないので、全く心配してないです。というか、マーガレットから引き離されたら何をするか分かりません」

「まぁ。重い愛ねぇ」

「六歳のころからマーガレット一筋ですから」

 割と飽きっぽいヒューが飽きない唯一、それがマーガレット。
 早く二人は幸せになって欲しい、セルブスの平穏のためにも。

「あなたはどうするの?」

「どうしたらいいんでしょうかねぇ…」

 あれほど愛を伝えられて、嬉しいと思った。
 好きになってしまいそうだとも。
 ただ、忙しく過ぎる日々と面倒な人達の事で、気持ちがスッと冷静になったのも事実だ。

「私は平和に暮らしたいだけなのに」

「早く戻って来るといいわね、ランセル卿」

 テーブルに突っ伏したソフィアの頭をエリーが撫でる。
 母のような温もりを感じて少しだけ北方が恋しくなった。



 面倒な日々を過ごすこと一ヶ月程。
 ようやくアルフォンスが王都から戻ってきた。
 通常業務に戻っても相変わらず忙しそうだ。

(帰ってきても結局会えないのよねぇ)

 自分から声を掛けようかとも思ったが、この一ヶ月間の事を考えると目立つ行動は避けたい。
 結果悶々としている。
 アルフォンスの事が好きかどうか分からないと言いながら、結局は彼の事を考えてしまう。
 何とも形容し難い胸の内は、誰にも話す事は出来ない。

「仕事しよ」

 薬草を運ばなければ。
 今日の仕事が進まなくなってしまう。

 ソフィアが倉庫から荷物を持って隊舎の入り口近くに来た時、何やら人が多く集まっていた。
 何かあったのだろうか。

 人を避けながら治癒室に戻ろうとした時、誰かがやってきたようだった。

「ん?」

 見ると団長達が勢揃いしている。

「お偉いさんでも来るのかな」

 それならソフィアには関係のない事だ。
 重い荷物を持ち直し、通り過ぎようとした時だった。

「お待ちしておりました」

 レオナールの声が聞こえる。

「この度厄災を乗り越えられたのは西方騎士団の協力があったからこそ。我が北方騎士団一同、感謝申し上げる」

 聞き覚えのある声だ。

「我が北方騎士団?」

 なぜ北方騎士団?
 声の主を見ようとソフィアは背伸びをした。
 そしてバッチリ、声の主と目が合った。

(何でここに!)

 ソフィアは焦って隠れたが、向こうは気付いたようだ。

「あぁ、レオナール殿、ちょっと宜しいか」

 コツコツとブーツの足音が近づく。

(マズイ!バレてる!)

 急いで逃げようとしたが、人に押されて逃げられない。

「あれ?ソフィアちゃん。挙動不審だけど」

 知らぬ間に隣にいたらしいキリルが声をかける。

「キリルさん!名前呼ばないで!」

 小声で言うが間に合わなかった。

「ソフィア!!」

「ひっ!」

 ギギギと音がしそうな挙動でソフィアが振り返る。

「えっと~…お久しぶりです、ゼルク様…」

 そこに居たのはゼルク・フォーセライド。
 北方公爵家当主で北方騎士団団長。
 セルブスの父親だった。

「ああ、随分と久しぶりだな。マーガレットとは会っているようだが」

「あ~、そうですね…」

 何事か分からない西方騎士団員達は、二人の顔を見比べている。

「ゼルク様、今日はなぜ西方に?」

「厄災の事で挨拶に伺った。ついでにお前にも話があったからな。おい!」

 ゼルクが大声で声をかける。

 ガンガンと言うのが合っているほどの足音が近づいて来る。

「え!?何で!」

「この馬鹿娘が!!!」

 そこに居たのは父ライオネルだった。

「何の相談も無しに!どれほど心配したと思ってるんだ!」

 ソフィアの肩をガクガクと揺さぶりながらライオネルは言う。

「ジョシュアから話を聞いてどれほど驚いたか分かるか!」

「ちょっ…他の人もいるから!」

「ライオネル落ち着け」

 流石に見かねたらしいゼルクが声をかけてくれた。

「ああ。申し訳ありません、団長。ジョシュアから話を聞いた時の怒りを思い出してしまいました。西方騎士団の皆様の前でしたね」

 ようやくソフィアから手を離したライオネルが言う。

 その光景を見て、レオナールとカイルは顔を見合わせて思う。

 ーーー既視感。

 これは師匠譲りでは無く、バードナー家譲りか。

「あ、あのゼルク殿、ライオネル殿、そのくらいで…」

「申し訳ない、レオナール殿」

 ゼルクがライオネルの肩に手を置く。
 他の騎士団で騒ぎを起こすなと怒っていたセルブスを思い出し、父も弟も同じような事をしているとソフィアは思う。
 
 今のうちにそっと後ろに下がってしまおうとしたソフィアの肩を、ライオネルはガシッと掴んだ。

「ソフィア、後で父さんと話をしよう。分かったな」

 なんと余計な事を言うのか!

「「父さん!?」」

 その場にいた団員達が一斉にソフィアを見る。

「ソフィアちゃんって、北の英雄の…娘?」

 ソフィアの隣で固まっていたキリルが呟いた。

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