生克五霊獣

鞍馬 榊音(くらま しおん)

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70話

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 むーん、と皆が考え込んだ。結局は、最終的には葛葉と蜃に頼るしかないのだ。

「私達だけで解決するのは無理だわ」

 竜子の言葉に麒麟以外が頷いた。

「麒麟よ、諦めろ」

 黄龍が呆れて言った。

「けど、けどさ、とりあえず五霊獣の封印だけはやってみよう! 言い訳も出来るし、な?」

 皆に同意を求めるが、皆は返事をしなかった。

「諦めなよ」

 朱雀の言葉に皆が頷く。

「冷たいな」

「ま、怒られるの俺達じゃねえし」

 青龍がサラッと言うので、麒麟が彼をキッと睨みつけた。

「では、多数決! 近日中に麒麟、青龍、朱雀で葛葉様の所へ参れ。外の小競り合いの件もあるでな、その件に関しては後程私から伝える。残ったものは、それぞれ里を守ること。以上」

 五霊獣会議は解散したが、麒麟だけは納得いかないと言ったふうに口を尖らせ、そっぽ向いたままだった。

 まあまあ夜も更けたので、今夜は寝ようと各自部屋へ戻った。

 寝間着に着替えて布団に入ろうとした麒麟の元に、黄龍が入ってきた。

「どうした?」

「いや、少し心配だったのでな」

 と、黄龍はそっと襖を閉めた。

「青龍の話ではないが、お前は少々責任が大きいのは分かっておるつもりだよ? けれど、事が大きくなればなるほど、取り返しがつかなくなる事が心配なのだ。私達は、もう子供ではないのだ。領主なのだから」

 麒麟が少し困ったような顔で頭をかいた。

「まあな、俺だってそれくらいの事は充分承知しておるつもりだ。せめて、兄上に……いや、なんでもない」

 黄龍は小首を傾げたが、それ以上追求はしなかった。

「それより、黄龍。小競り合いの件だ。何か考えがあるのか?」

「あ、ああ。少しばかりな。明日早朝にでも、詳しい状況が分かるはずだ。探りにやっている里の者が帰ってくるはずだから。そしたら、里の手前辺りから近辺の国衆共に護らせようかと思ってな」

「ほう」

「私達が人質になる。と言っても、本当になる訳では無いぞ。そこへ行くのは影(式神)じゃ。お前達は術を見せてこい。少々死人が出る程度で丁度よかろう。力で威圧して、そこより里側には踏み入れさせんよう交渉するのだ。ここの護りを怠れば祟があるとかなんとか言ってな」

「ほう。では影を人質に信用を植え付け 、力で脅す訳だな。護る代わりに、万が一にでも呪いが振りかからんようにさせると。向こうの人質は人質ならぬ国質か……代償がでかいなあ、ははっ」

「まあ、そんなところだ。しかし、人質がいる事で何かとやりようがある」

「あい、わかった。早朝の報告を待って、皆に伝えよう」

「それから」

「まだ何かあるのか」

 黄龍は伏せ気味に頷いた。

「泰親の連れていた子のことだ。哀れで惨めでならん。1日でも早く助けてやりたい。きっとまたここに攻めてくる。もしくは、何処かで会うだろう。強制的ではあるが、あの子を無理矢理にでも保護し、先ずはイタチの呪いを解いてやりたいのだ」

「ああ、あれは俺達の失態のせいでもあるしな。否、それは言い過ぎか……」

「ああ、管理不足の責任問題だ」

 麒麟にとったら、青龍との話だった。けれど、黄龍は分かってそれを転換した。

「管理……か……」

「では、おやすみ」

 その日はそれで眠りについた。

 翌朝、黄龍が言う通り里の者からの報告があり、麒麟、青龍、朱雀は昼前に里を出た。残った者達は、それぞれの里へと帰宅した。


「おい」

 先ずは、葛葉の屋敷へ。向かっていたが、麒麟の足取りはどうしても重い。のんびりのんびり歩くので、堪らず青龍が声を上げた。

「麒麟、もっとさっさと歩けって」

 手でも引きたくなる。

「もう決めたことなんだから、覚悟しなって」

 朱雀が呆れて、後ろから声を掛けた。

『くれぐれも、くれぐれも、麒麟が逃げぬように頼んだぞ!』

 と、青龍と朱雀に笑顔で告げた黄龍の手には短刀が握られていた。

『黄龍、わかったから、それしまおうか。ぶっそうな、それ』

『くれぐれも、くれぐれも頼む』

 麒麟が逃げたら命がない。そう確信して2人は、麒麟がどうゆっくり歩こうが用を足そうと茂みに入ろうが挟むようにしてこうして歩きを続けている。そのため、ダラダラ歩かれると正直イライラもする。いつもならもう半分は来ている道取りが、今日は3分の1くらいしか進めていない。

「野宿でもする気か。いい加減にしねえとまじで怒るぞ」

 自分が怒られる訳じゃない等と思い込んでいる余裕の青龍は、態度がでかい。麒麟は恨めしそうな顔で見た。

「怒られるの方の身にもなれ」

 冷静に考えれば、浮気して、里を不在にして祠を壊されたのだから、怒られない筈がないのだが……青龍はあまり深く考えるタイブでもないので、勝手に怒られないと思い込んでいるだけである。

「まあ、怒られる時は一緒だろ。今回はさあ」

 青龍に比べて、朱雀は大人だ。そこは覚悟していた。

「なんで?」

 と驚いたように首を傾げる青龍。

「聞くのか、それを?」

 逆に驚いて聞き返した朱雀ではあるが、説明しようとしてやめた。なぜなら、青龍も麒麟と一緒に逃げそうだったから。そうすれば、怒られるのは自ずと朱雀だ。しかも、葛葉だけでなく黄龍や下手したら竜子にまで。

「そういう覚悟でおるってことだ」

 有耶無耶に誤魔化してみた。

 葛葉の家に着いたのは、日が暮れた後のこと。

「おお、遅かったな。飯の支度をしてあるが、思ったより遅いので冷めてしまったでは無いか」

 葛葉も母親だ。やはり、久しぶりに息子同様育てた子供に会えるとなれば、嬉しかった。母親なりの手料理も用意していた。

「急ぎか? そうでなければ、話は明日にしようか」

 急ぎと言えば急ぎであり、黄龍がもしいれば急ぎだと申し出たろう。けれど、麒麟は黄龍と違う。

「母上、お元気そうでなにより。急ぎでは無いので、食事と話は明日に致しましょう。今日は少々疲れた」

「そ、そうか」

 それをきいて、朱雀が思わず麒麟の脇腹を肘で小突いた。それを麒麟は、軽く振り払った。

 途中で出てきた蜃がたまたまそれを目撃したのだが、敢えてその場では見ないふりをした。

「久しぶりだな。元気だったか?」

 へらへら笑っていた麒麟の顔が、ぴくりと険しい顔に変わった。

「お久しぶりです。兄上こそ、お元気そうで」

「相変わらずだな、麒麟は」

「どいう意味ですか?」

 蜃は、鼻でわらった。

 足を洗ってから屋敷内に上がると、綺麗に掃除された室内はがらんと狭い。2人で住むには十分ではあるが、本家の屋敷と到底言えるような立派なものではなく、少し立派な農民の家と変わりない。

「何も無いところで、すまんな」

「うん」

 それぞれ里を受け持つようになってから、滅多に来たことがない屋敷。育った本家は縮小され改装され、今は麒麟が住んでいる。

「母上、ここで不自由はないのですか?」

 毎度の事ながら、何度も繰り返した質問だった。

「前々から言っておろう。蜃もおるし、何より留守にすることも多い。十分な屋敷じゃよ」

 葛葉は度々、蜃と湯治場巡りに出掛けている。趣味だという。

「湯治場巡りですか?」

「ああ、生き返るよ」

 麒麟と会話しながら、葛葉は食事の準備をした。会話しながら出来るような広さだ。麒麟達の屋敷では、無理なこと。

「山菜と茸に魚と……ああ、酒もまだあったかな?」

 食事を出すのに忙しい葛葉の代わりに、蜃が酒を皆に振舞った。

「俺がやりますから!」

 と、恐縮しながら申し出る朱雀を断り、蜃はまず麒麟に渡した枡に酒をとくとくと注いだ。

 そして、耳打ちにも似た小さな声でぽつりと問うた。

「で、お前は何を隠しておる?」

 思わず、枡を落としそうになった。

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