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【試し読み】特装版 絆鬼(つなぐおに)
辰
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部屋に畳は無く、使い古された筵が敷いてあるだけである。
その上に、筵に包まりながらぼんやり座る男と、無事に届けられた妓の遺体が横たわっていた。妓には、男が着ていたであろう着物が着せてある。
「巫女の口利き致しませぬか」
お海に気付いた男が、幽霊の様に顔だけ動かした。目から、はらはらと涙が溢れている。
「妓楼で、その方と最後に話をしました。言付けを持って参りました」
お海は、買ってきた鰻を差し出した。
「最後に、食べさせてやって欲しいと頼まれましたから、お持ちしました。この方は、貴方様を待っていると、申しておりましたよ」
お海がにっこり笑うと、男は妓の遺体の上で泣き崩れた。ここまでの体力がまだあったのかと思う程、泣くに泣いた。その姿のせいか、お海は妓に言われた三両を回収する気も無くなってしまった。
「貴方様に、もし強い想いがあるのでしたら、その方はあの世から戻ってくるかもしれませんね」
恥も外聞も関係無い、大声で幼子よろしく泣き喚く男をそのままに、お海は裏長屋を出た。
(後は知らぬ)
それでも、何故だろうか。妙に清々しい気持ちが、忍海の心に残ったのである。
(あの男女も長くはないだろうな。それでも、最後くらいは夢を見れたのだろうか)
裏長屋を抜けて表通りから旅籠の方へ向かう途中、騒がしい声が聞こえてきた。
どうやらまた、どこかの男女が心中したらしい。
心中を企て、失敗すれば重罪である。それでも、男女の心中は絶えないでいる。
(生きるも地獄、死んでも地獄、ならば死んで地獄を選ぶか)
時代外れの、歩き巫女が居るという。
本来であれば、神と人を繋ぎ、人を救うのを使命とする。
しかし、この歩き巫女は、鬼と呼ばれ、鬼と噂された。
けれど、いつの頃からか。鬼ではなく鬼子母神だとの噂が流れ始める。
本物の鬼か、それとも鬼子母神なのか。それは、出会した者によるのだという。
その上に、筵に包まりながらぼんやり座る男と、無事に届けられた妓の遺体が横たわっていた。妓には、男が着ていたであろう着物が着せてある。
「巫女の口利き致しませぬか」
お海に気付いた男が、幽霊の様に顔だけ動かした。目から、はらはらと涙が溢れている。
「妓楼で、その方と最後に話をしました。言付けを持って参りました」
お海は、買ってきた鰻を差し出した。
「最後に、食べさせてやって欲しいと頼まれましたから、お持ちしました。この方は、貴方様を待っていると、申しておりましたよ」
お海がにっこり笑うと、男は妓の遺体の上で泣き崩れた。ここまでの体力がまだあったのかと思う程、泣くに泣いた。その姿のせいか、お海は妓に言われた三両を回収する気も無くなってしまった。
「貴方様に、もし強い想いがあるのでしたら、その方はあの世から戻ってくるかもしれませんね」
恥も外聞も関係無い、大声で幼子よろしく泣き喚く男をそのままに、お海は裏長屋を出た。
(後は知らぬ)
それでも、何故だろうか。妙に清々しい気持ちが、忍海の心に残ったのである。
(あの男女も長くはないだろうな。それでも、最後くらいは夢を見れたのだろうか)
裏長屋を抜けて表通りから旅籠の方へ向かう途中、騒がしい声が聞こえてきた。
どうやらまた、どこかの男女が心中したらしい。
心中を企て、失敗すれば重罪である。それでも、男女の心中は絶えないでいる。
(生きるも地獄、死んでも地獄、ならば死んで地獄を選ぶか)
時代外れの、歩き巫女が居るという。
本来であれば、神と人を繋ぎ、人を救うのを使命とする。
しかし、この歩き巫女は、鬼と呼ばれ、鬼と噂された。
けれど、いつの頃からか。鬼ではなく鬼子母神だとの噂が流れ始める。
本物の鬼か、それとも鬼子母神なのか。それは、出会した者によるのだという。
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