君の手のひらで今日も踊る〜振り回される恋も悪くない?踊らにゃ損です!〜

雨乃りんご

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第57踊 先輩の冗談は本気に聞こえる

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「今日はここまでです!みんなお疲れ様!」

天使先生の号令で部活動は終了となった。

それぞれ片付けをして帰宅の準備を始めた。

僕も同様に片付けをしていたら、矢野先輩が駆け寄ってきた。

「片桐くん、天使先生の指導どうだった?なんか悪いことされてない?」

「ちょっと!私が悪いみたいな言い方やめてよ由美ちゃん!」

また天使先生と矢野先輩の言い合いが始まった。

なんやかんやで仲むずましい2人だと思う。

「とても厳しく指導してもらいました!疲れましたけど、なにか掴めたかも知れません」

矢野先輩は驚いた表情をしていた。

逆に天使先生はドヤ顔をかましていた。

ドヤ顔の天使も様になるからすごい。

「片桐くん、大変だったね。このあと時間あるか?」

「はい、ありますけど……何かありました?」

「ご飯でも食べに行かないか?天使先生にいじめられて疲れただろう」

「ほら~!由美ちゃんはそうやってすぐに甘やかす!てか、私いじめてないから!優しい指導をしました!」

2人は友達のように言い合っていた。

こういう師弟関係もいいなと思う。

天使先生の厳しい指導でいつも以上に体力を消費していて、僕はお腹ペコペコだった。

僕は二つ返事で承諾した。

咲乃も誘ってみたが用事があるらしい。

「私がいないからって調子乗るんじゃないわよ」と肘でどつかれ。

最初から乗ったことなんて1度もないのだが。

矢野先輩が片付け終わるまで待ってから、2人でご飯屋さんを目指しながら歩いた。

「お腹空いたねぇ~ペコペコだよぅ」

矢野先輩はお腹を擦りながら笑っていた。

部活中は凛々しくてカッコイイ先輩だが、素の先輩は以外とぐーたらなのだ。

部活中の姿しか見たこと無かったらきっと驚いてしまうだろう。

先輩に連れてこられたのは鉄板焼きのお店、「みゆき」だった。

お好み焼きなどが食べられるがオススメは「ちゃんぽん」だ。

「ちゃんぽん」と言えば「長崎ちゃんぽん」を思い浮かべる人が多いかもしれないが、みゆきの場合はそばめしのことを指す。

熱々の鉄板の上で焼きそばとご飯が絡み合い、ソースの香ばしい匂いが食欲をそそる。

ジュワッと弾ける油の音。

コテでリズミカルに炒められた細切れの麺と、ほどよく焦げたご飯。

そこに卵を落とせば、半熟の黄身がとろりと広がる。

一口食べれば、甘辛いソースの味が舌を包み込み、炭水化物×炭水化物の背徳感がたまらない。

みゆきのちゃんぽんは、そんな魔性のグルメなのだ。

先輩と2人で座敷の席に座った。

「片桐くんはなにを食べる?」

「僕はちゃんぽんにしようかと思います」

「いいね!私も同じのにするよ!」

店員さんを呼んで注文を開始する。

「ちゃんぽんの大盛りを2つ!あと豚玉もお願いします」

ん?勝手に大盛りにされてなかったか?

店員さんが居なくなってから矢野先輩に話しかけた。

「あのー……なんか大盛りが2つってきこえたんですけど…」

先輩はニッコリと優しく微笑んだ。

「そうだよ?あっ、もしかして……大盛りじゃ足りなかった?ごめんね男の子だもんねぇ」

申し訳ないって手のひらを重ねて謝ってきたけどそうじゃない。

そうじゃないんですよ先輩~。

「いえ、大盛りで足りないなんてことはないですけど……」

僕がそう言うと、矢野先輩はクスクスと笑った。

「なら、問題なしだね!」

いや、問題なしじゃないんだ。

僕は普通盛りで良かったんだけど。

でも、まあいいか。お腹は空いてるし、大盛りでも食べられるだろう。

店内はほどよく賑わっていて、鉄板の上で焼かれるソースの香ばしい匂いが漂っていた。

店の奥の座敷には家族連れが楽しそうに食事をしていて、その雰囲気がどこか懐かしい。

矢野先輩は腕を組んで僕をじっと見つめた。

「それにしても、片桐くんって意外と食が細いんだね。もっとガツガツ食べるかと思ったのに」

「そんなに意外ですか?」

「うん、弓道やってるし、体力も結構あるでしょ? だから、もっと食べるタイプかと思ったんだけどなー」

「そこまで食べる方じゃないですよ」

「そっかぁ。でも、男子高校生なんだから、もっと食べなきゃダメだよ?」

「ええと……それってつまり、今日の大盛りは先輩の厚意ってことで……?」

「うん!」

「なら仕方ないですね……」

僕が苦笑すると、矢野先輩は満足そうに頷いた。

そのタイミングで、熱々のちゃんぽんと豚玉が運ばれてきた。

「うわぁ、美味しそう!」

矢野先輩が嬉しそうに手を合わせる。

僕も思わず喉が鳴った。

ほどよく焦げたちゃんぽん、そこにとろりとした卵が絡む。

スプーンですくって口に運ぶと、甘辛いソースの風味が広がって、一気に幸せな気分になった。

「やっぱり、みゆきのちゃんぽんは最高だねぇ。部活帰りに食べると、これがまた最高なのよねぇ~」

そう言いながら、先輩はパクパクと食べ進める。

「あ~、幸せ……」

ちょっとぐーたらな感じで、目を細めて嬉しそうにしている。

いつも弓道場ではキリッとしている先輩だけど、こういう姿を見るとやっぱり親しみやすい。

「……なんか、意外ですね」

「んー? 何が?」

「部活中の先輩は凛々しくてかっこいいのに、こういう時は結構気を抜いてるんですね」

「あはは、そりゃそうだよ。ずっとキリッとしてるのは疲れるもん」

そう言いながら、先輩は僕の方をちらりと見た。

「それに……こういう姿を見せられるってことは、片桐くんに心を許してるってことかも?」

「えっ……?」

思わず手を止めると、先輩はクスッと笑った。

「なんてね。冗談冗談!」

「……」

冗談、かもしれない。

けれど、その言葉がふと胸の奥に引っかかる。

先輩はそのまま何事もなかったようにちゃんぽんを食べ進めていた。

僕の方は妙に意識してしまって、味がよく分からなくなった。

矢野先輩は満足そうに食べ進める。

その横顔をちらりと見ると、いつもの凛々しい先輩とは違い、どこか無邪気な表情だった。

「あ、そうだ。片桐くん、口元にソースついてるよ」

そう言って、先輩は自分の指で僕の口元を拭おうとした。

「えっ、ちょっ……!」

反射的に身を引いたが、先輩の指先はすでに僕の唇の端に触れていた。

「……あ、逃げるの?」

「い、いや……自分で拭きますから!」

僕は慌てて手を伸ばし、ナプキンで口元を拭った。

顔が熱くなっているのを自覚しながら、矢野先輩の方をちらりと見る。

先輩はニヤニヤとした顔でこちらを見ていた。

「もう、恥ずかしがらなくてもいいのに」

「いや、普通は恥ずかしがると思いますよ……」

「そうかなぁ? 私は後輩を可愛がってるだけなんだけどなー」

先輩は楽しそうに笑いながら、ちゃんぽんを口に運んだ。

その無邪気な笑顔が、どこか悪戯っぽくて、余計にドキドキする。

「そういえば、片桐くんってさ」

先輩がふと、真面目な声で話し始めた。

「入部した頃より、ちょっと雰囲気変わったよね」

「え?」

「最初はもっと、こう……控えめというか、遠慮がちだった気がする」

「そうですか?」

「うん。でも最近は、部活にも慣れてきたし、咲乃ちゃんとも楽しそうにやってるし」

「まあ、そうですね……最初の頃よりは、居場所ができた気がします」

「そっか。なら、よかった」

先輩は少し嬉しそうに微笑んだ。

「弓道って、結構孤独なスポーツじゃん? だから、ちゃんと仲間ができたなら、いいことだよ」

「……はい」

僕が頷くと、先輩は満足そうにうなずき、またちゃんぽんを口に運んだ。

「でもねぇ……」

「はい?」

「咲乃ちゃん、ちょっとヤキモチ焼きそうだよねぇ~」

「えっ?」

「ほら、さっきも『調子乗るんじゃないわよ』って言ってたし?」

「あれはただの……」

「ふふ、わかりやすいなぁ、咲乃ちゃん」

「そ、そんなことないと思いますよ」

「ふーん?」

先輩は僕の反応を見て、さらにニヤニヤと笑った。

「まあ、私は咲乃ちゃんに怒られる前に秋渡くんを可愛がることにするよ」

「えっ?」

突然の名前呼びに心音が跳ね上がる。

「ほら、遠慮しないでどんどん食べなよ。大盛りなんだから!」

先輩は何事も無かったかのように食べ進める。

「いや、そもそも僕が頼んだわけじゃ……」

「細かいことは気にしないの!」

そんなやり取りをしながら、僕たちはちゃんぽんを食べ進めていった。

食後にはデザートにアイスまで奢られ、結局、僕は矢野先輩のペースに終始振り回されていた。

「じゃあまたね……秋渡くん!」

先輩はニヤリと笑ってこちらの様子を伺っていた。やはり確信犯だな。

なんとかやり返したいと僕は思った。

「ごちそうさまでした!またよろしくお願いします……由美さん」

矢野先輩は顔をさっと背け、肘打ちをしてきた。

「調子に乗りすぎだよ!じゃあね!」

そう行って先輩は走り去っていった。

帰り道、ふとスマホを見ると、高塚さんからメッセージが届いていた。

『もう帰った? 何食べたの?』

その文面に、思わず苦笑してしまう。

先輩の言う通り、もしかすると彼女は少し気にしていたのかもしれない。

『ちゃんぽんとお好み焼き食べたよ。先輩に大盛りにされた』

そう返すと、すぐに返信が来た。

『へぇ~。私がいないからって浮かれてないでしょうね?』

僕は一瞬、どう返そうか迷った。

矢野先輩のからかい、天使先生の厳しい指導、そして高塚さんのツンとした態度。

弓道部に入ってから、なんだか賑やかな日々になった気がする。

ちょっと前までの僕は、こんな日常を想像できただろうか?

ふっと笑いながら、僕は返信を打ち込んだ。

『浮かれてないよ。普通に先輩に振り回されただけ』

すると、すぐにまた返信が来た。

『ふーん。まあいいわ。明日もちゃんと練習しなさいよ』

「……はいはい」

小さく呟きながら、僕はスマホをポケットにしまい、駅に向かって歩き出した。

「あれ?秋渡くん?やっぱりそうだ~!」

振り返るとそこにはいづみがいた。
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