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「第1章・偽りの平穏」
第2話「教室の裏の顔」
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昼休みが終わった後も、教室の空気は妙に重かった。
机を蹴られた鷹村が保健室に運ばれたせいだ。
誰もが「陰キャ転校生がやった」と噂していたが、レンはあくまで俯いてノートを取るふりをしていた。
ペン先が震える。
——落ち着け。目立つな、殴るな、喋るな。
そう自分に言い聞かせる。
だが、背中に刺さる視線が止まらない。
「ねぇ、君。九条くん、だよね?」
声をかけてきたのは、長い黒髪を後ろでまとめた女子だった。
明るすぎず、でも印象に残る瞳。
春川美緒——クラスの中でも真面目で成績優秀、教師の信頼も厚いタイプだ。
「さっきの、見ちゃったんだ。鷹村くんが殴ろうとしたとき、避けたでしょ」
レンの指先がピクリと止まる。
「……たまたまです」
「たまたまであんな動きできる?」
その目は鋭かった。けれど、責めているわけではない。
むしろ、興味を持っているような光があった。
「別に言いふらしたりしないよ。ただ……気になって」
そう言って彼女は微笑んだ。
レンはその笑顔を見て、少しだけ胸の奥がざわついた。
放課後。
鷹村の仲間がレンを廊下で待ち伏せしていた。
「おい、転校生。ウチのリーダーに何してくれた?」
レンは無言のまま通り過ぎようとする。
が、肩を掴まれた瞬間、反射的にその手を取って捻り上げてしまった。
「ッ痛ぇっ!」
仲間の一人が悲鳴を上げる。
レンはハッと我に返り、慌てて手を離す。
——やばい、やりすぎた。
相手はその場にうずくまったまま、何も言えずにいる。
廊下の向こうから、美緒が駆け寄ってきた。
「なにしてるの!?」
彼女の声に、周囲の生徒が振り向く。
レンは何も言えず、ただ逃げるようにその場を離れた。
校舎裏のベンチに腰を下ろし、夕焼けを見上げる。
拳が震えていた。
——結局、変われねぇのか。
母親との約束、平穏な生活、全部守るつもりだったのに。
そのとき、足音が近づいた。
「……やっぱりここにいた」
美緒だった。手には缶コーヒーを二つ持っている。
「はい、これ。ブラックでいい?」
レンは少し迷って受け取る。
缶のプルタブを開ける音が、沈黙の中でやけに大きく響いた。
「九条くん、本当は……何者?」
唐突な質問。
レンは視線を逸らした。
「ただの転校生です」
「ふーん。でもね、私、ウソついてる人の顔わかるんだ」
彼女の声は静かだった。
詰問でもなく、興味でもなく。
——まるで、同じ痛みを知っている人のように。
レンはため息をつき、空を見上げた。
「昔、ちょっと悪いことしてた。それだけです」
「……喧嘩?」
「まぁ、そんなとこ」
美緒は小さく笑った。
「なんだ、私と同じだ」
「え?」
「昔、ちょっと荒れてたの。今は更生中」
レンの目がわずかに見開かれる。
彼女は、ただの優等生じゃなかった。
日が沈み、校庭の照明がともる。
風が吹き抜け、美緒の髪が揺れた。
「ねぇ、九条くん。人って、変われると思う?」
「……分かんねぇ。でも、変わりたいとは思ってる」
「そっか」
彼女は少しうつむき、缶を口に運んだ。
沈黙が流れる。
だけど、その沈黙は不思議と心地よかった。
「じゃあ、私が見ててあげる」
「は?」
「九条くんが“普通の高校生”になれるか、見届けてあげる」
そう言って彼女は笑った。
——夕焼けの中、その笑顔だけがやけに鮮やかに見えた。
机を蹴られた鷹村が保健室に運ばれたせいだ。
誰もが「陰キャ転校生がやった」と噂していたが、レンはあくまで俯いてノートを取るふりをしていた。
ペン先が震える。
——落ち着け。目立つな、殴るな、喋るな。
そう自分に言い聞かせる。
だが、背中に刺さる視線が止まらない。
「ねぇ、君。九条くん、だよね?」
声をかけてきたのは、長い黒髪を後ろでまとめた女子だった。
明るすぎず、でも印象に残る瞳。
春川美緒——クラスの中でも真面目で成績優秀、教師の信頼も厚いタイプだ。
「さっきの、見ちゃったんだ。鷹村くんが殴ろうとしたとき、避けたでしょ」
レンの指先がピクリと止まる。
「……たまたまです」
「たまたまであんな動きできる?」
その目は鋭かった。けれど、責めているわけではない。
むしろ、興味を持っているような光があった。
「別に言いふらしたりしないよ。ただ……気になって」
そう言って彼女は微笑んだ。
レンはその笑顔を見て、少しだけ胸の奥がざわついた。
放課後。
鷹村の仲間がレンを廊下で待ち伏せしていた。
「おい、転校生。ウチのリーダーに何してくれた?」
レンは無言のまま通り過ぎようとする。
が、肩を掴まれた瞬間、反射的にその手を取って捻り上げてしまった。
「ッ痛ぇっ!」
仲間の一人が悲鳴を上げる。
レンはハッと我に返り、慌てて手を離す。
——やばい、やりすぎた。
相手はその場にうずくまったまま、何も言えずにいる。
廊下の向こうから、美緒が駆け寄ってきた。
「なにしてるの!?」
彼女の声に、周囲の生徒が振り向く。
レンは何も言えず、ただ逃げるようにその場を離れた。
校舎裏のベンチに腰を下ろし、夕焼けを見上げる。
拳が震えていた。
——結局、変われねぇのか。
母親との約束、平穏な生活、全部守るつもりだったのに。
そのとき、足音が近づいた。
「……やっぱりここにいた」
美緒だった。手には缶コーヒーを二つ持っている。
「はい、これ。ブラックでいい?」
レンは少し迷って受け取る。
缶のプルタブを開ける音が、沈黙の中でやけに大きく響いた。
「九条くん、本当は……何者?」
唐突な質問。
レンは視線を逸らした。
「ただの転校生です」
「ふーん。でもね、私、ウソついてる人の顔わかるんだ」
彼女の声は静かだった。
詰問でもなく、興味でもなく。
——まるで、同じ痛みを知っている人のように。
レンはため息をつき、空を見上げた。
「昔、ちょっと悪いことしてた。それだけです」
「……喧嘩?」
「まぁ、そんなとこ」
美緒は小さく笑った。
「なんだ、私と同じだ」
「え?」
「昔、ちょっと荒れてたの。今は更生中」
レンの目がわずかに見開かれる。
彼女は、ただの優等生じゃなかった。
日が沈み、校庭の照明がともる。
風が吹き抜け、美緒の髪が揺れた。
「ねぇ、九条くん。人って、変われると思う?」
「……分かんねぇ。でも、変わりたいとは思ってる」
「そっか」
彼女は少しうつむき、缶を口に運んだ。
沈黙が流れる。
だけど、その沈黙は不思議と心地よかった。
「じゃあ、私が見ててあげる」
「は?」
「九条くんが“普通の高校生”になれるか、見届けてあげる」
そう言って彼女は笑った。
——夕焼けの中、その笑顔だけがやけに鮮やかに見えた。
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