地獄の番長、陰キャデビュー!? 〜正体バレたら即退学の学園生活

Haruto

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「第1章・偽りの平穏」

第10話「紅蓮、終焉」

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夜の港は、冷たい潮風が吹き荒れていた。
 波が砕ける音と、遠くのクレーンが軋む音だけが響いている。
 九条レンは、静かに足を進めていた。
 スマホには蓮からの短いメッセージ。
 ——「来い。一人で。」
 錆びたコンテナの間に立つ影。
 街灯の下、蓮が待っていた。
 「来たな、紅蓮。」
 その呼び名に、レンは顔をしかめた。
 「やめろ。その名前で呼ぶな。」
 「でも、お前は“紅蓮”だ。兄貴を殺した、紅蓮の九条だ。」
 レンは黙って一歩踏み出した。
 風が二人の間を裂くように吹く。
 「……龍崎を殺したのは俺じゃねぇ。」
 「嘘をつくな!」
 蓮が叫び、拳を振るった。
 鋭い一撃がレンの頬をかすめる。
 しかしレンは、殴り返さなかった。
 ただ静かに立ち尽くす。
 「殴ってもいい。恨まれてもいい。
 でも俺は、あの夜から一歩でも前に進みたかったんだ。」
 蓮の目に迷いが浮かんだ。
 「兄貴は、お前をかばって死んだんだぞ……!」
 「わかってる。あの夜、止められなかった俺のせいだ。
 だから、俺はもう——誰も傷つけねぇ。」
 その声に嘘はなかった。
 蓮の拳が、ゆっくりと下がる。
 「……兄貴も、きっと同じこと言ったんだろうな。」
 レンは小さくうなずいた。
 「龍崎は最後まで俺を庇ってくれた。
 だからもう、“紅蓮”はここで終わりだ。」
 海風が吹く。
 夜空に雲が流れ、月が顔を出す。
 その光の中で、蓮は小さくつぶやいた。
 「終わりか……。でもな、九条。
 お前が変わったこと、証明するのはこれからだ。」
 「ああ。そうだな。」
 二人は互いに視線を交わし、
 ゆっくりと背を向けた。
 翌朝。
 教室の窓から射し込む陽光が、やけに眩しかった。
 美緒がレンの席に来て、静かに笑った。
 「なんか、顔がスッキリしてるね。」
 「ちょっと、昔の借りを返してきた。」
 「そっか。」
 彼女は小さくうなずき、
 「ねぇ、これからどうするの?」と尋ねた。
 レンは窓の外を見つめた。
 「もう逃げねぇ。
 “紅蓮”じゃなく、“九条レン”として、ここで生きる。」
 美緒は微笑んで言った。
 「うん、その方がいい。」
 昼休み。
 屋上の風が心地よく吹き抜ける。
 レンは美緒と並んでベンチに座った。
 「……ありがとうな。お前がいなかったら、俺はたぶん、
 まだどっかで喧嘩してた。」
 美緒が少し頬を染めて笑った。
 「じゃあ、これからは一緒に“普通の毎日”を守ろうね。」
 レンは頷いた。
 その笑顔を見ながら、
 自分の中の紅蓮が、ようやく静かに消えていくのを感じた。
 ——だが、その港の片隅。
 コンテナの上から、誰かが二人を見ていた。
 煙草の煙がゆらりと揺れ、低い声が風に消える。
 「“紅蓮”が終わった? ……笑わせるな。」
 赤い光が、闇の奥でゆらめいた。
 まだ終わらない。
 紅蓮の炎は、完全には消えていなかった——。
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