地獄の番長、陰キャデビュー!? 〜正体バレたら即退学の学園生活

Haruto

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「第1章・偽りの平穏」

第9話「歪む日常」

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教室のドアが開いた。
 朝の光が差し込み、担任が笑顔で言った。
 「今日から新しい転校生が入ります。みんな仲良くしてあげてね。」
 その瞬間、レンの心臓が止まった。
 「龍崎蓮です。よろしくお願いします。」
 教室の空気が一瞬で変わる。
 美緒が隣で小声でつぶやいた。
 「ねぇ、あの子……」
 「……知ってる。」
 蓮は、レンのほうを見もしなかった。
 黒髪を短く刈り込み、制服のボタンはすべて閉めている。
 静かで、冷たい目。
 だがその奥には、燃え尽きていない怒りが潜んでいた。
 昼休み。
 レンは屋上にいた。
 風が強く、空が青かった。
 足音が近づく。
 振り返ると、蓮がドアの前に立っていた。
 「……なんでここに来た。」
 「お前を見張るためだ。」
 「見張る?」
 「兄貴が死んだあと、紅蓮の残党が動いた。俺はその手がかりを追ってる。」
 レンの胸がざわついた。
 「残党なんて、もういねぇ。」
 「だったら、あの火事は誰が起こした?」
 「……」
 沈黙。
 蓮は一歩近づく。
 「お前が関わってないって証拠、どこにあるんだ?」
 「証拠なんかいらねぇ。俺はもう、そういう生き方はしてねぇ。」
 蓮は嘲るように笑った。
 「綺麗事言うな。血でできた過去を洗い流せると思うなよ。」
 レンはその言葉に反論しなかった。
 ただ、風を見つめながら静かに言った。
 「俺は変わった。もう殴っても何も変わらねぇ。だから、今度は守る。」
 「守る……? あの女のことか。」
 蓮の声が冷たく刺さる。
 レンの視線が鋭くなった。
 「美緒を巻き込むな。」
 「もう巻き込まれてる。」
 その言葉に、レンの拳がわずかに震えた。
 放課後。
 美緒は教室で一人、ギターを磨いていた。
 レンがドアを開けると、彼女は振り返った。
 「九条くん……顔、怖いよ。」
「……悪い。ちょっと気に入らねぇ奴が転校してきてな。」
「龍崎くん、でしょ。」
「やっぱ気づいてたか。」
 美緒は静かにうなずいた。
「前に港で見たの、あの子だったの?」
「ああ。龍崎の弟だ。」
 美緒の手が少し震えた。
「危ない人じゃないよね?」
「まだわかんねぇ。ただ、あいつの中には……怒りしか残ってねぇ。」
 レンの声が低くなる。
「俺がどうなってもいい。でも、美緒だけは——」
「ダメ。」
 美緒が遮った。
「“どうなってもいい”なんて言わないで。
あなたがいなくなったら、私は……」
 言葉が途切れた。
その沈黙がすべてを物語っていた。
レンは何も言えず、ただ彼女の手をそっと握った。
 数日後。
放課後の廊下で、美緒が蓮に呼び止められた。
「春川さん、少し話せる?」
「え……うん。」
 二人は人気のない中庭へ向かう。
蓮はまっすぐに美緒を見た。
「九条のこと、どこまで知ってる?」
「昔、紅蓮って呼ばれてたこと。
でも、今は違う。ちゃんと変わった。」
「変わる……か。」  
蓮は空を見上げ、低く笑った。  
「人はそんな簡単に変われない。俺の兄貴もそうだった。  
最後まで“紅蓮”に縛られて、死んだんだ。」  

美緒は眉を寄せた。  
「九条くんのせいじゃない。」  
「そう思いたいだけだろ。」  

蓮の瞳が揺れる。  
「俺は真実を知りたい。兄貴がなぜ死んだのか。  
もし九条が関わってるなら……俺は許さない。」  

美緒は一歩近づいた。  
「九条くんを憎むなら、ちゃんと見て。  
あの人、もう自分を責めることに疲れてるの。」  

「……優しいんだな、あんた。」  
「それは、お互い様。」  

二人の間を春風が通り抜けた。  
ほんの一瞬、蓮の顔から険しさが消えた。  

その夜。
レンは再び港にいた。
電話の通知。
発信者は「不明」。
「紅蓮の九条だな。——お前、まだ終わってねぇぞ。」  
低い声。  
どこかで聞き覚えのある声だった。  

「誰だ。」  
「“紅蓮”を壊した裏切り者が、まだ息してると聞いた。」  
「……何が言いたい。」  
「次は、女だ。」  

通話が切れた。  
レンは携帯を握りしめ、歯を食いしばった。  
“紅蓮”の亡霊が、再び動き出していた。  

翌朝。
レンは教室のドアを勢いよく開けた。
「龍崎!」
蓮が振り向く。
「なんだよ。」
「お前、昨日誰かに会ってねぇか?」
「……知らねぇ。」
「嘘つくな!」
教室が静まり返る。  
美緒が立ち上がった。  
「九条くん、やめて!」  

その声で我に返る。  
拳を下ろし、深く息を吐いた。  
「……悪い。俺、ちょっと頭冷やしてくる。」  

そう言って教室を出ていったレンの背中を、蓮はただ黙って見つめていた。  
。  
 窓の外では、雨が降り始めていた。
雫がガラスを伝い、音もなく落ちていく。
 九条レンの心に、またひとつ暗い影が差し込んでいた。
 そして、その影はまだ——終わらない。

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