最凶のダンジョンで宿屋経営

藤雪たすく

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地獄の主の話

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ゴンゴンと流れていくベルトコンベア。

可…可…可…不可……可…可……

ベルトコンベアの上を流れてくる製品の機械では弾かれなかった規格外の物を弾いていく。
このベルトコンベアから弾かれる製品の様に、規格外として俺もいつかこの世界から弾かれてしまうのだろうか……。

……なんてな。


馬鹿な考えにセルフツッコミを入れたところで交代の声が掛かった。

俺の今日のシフトはここまでだ。
酷使した目を労りながら、着替えを済ませて帰途に着いた。
同僚だから……等の付き合いはなく、ただ『お疲れ様でした』とだけ声を掛けて工場を後にした。

この後はコンビニで飯を買って帰って寝るだけの繰り返し。
半引きこもりだ。

いつもの帰り道、何も変わったところはなかった。




あぁ……あんなこと考えるんじゃなかったな……。

居眠りなのか、交差点から歩道へと斜めに向かってくるトラックのヘッドライトが真っ直ぐに俺に向かってきて、目前に迫っている。

深夜のバイト帰り、ぼんやりした頭では避けろという司令が出されるまでに時間が掛かり、立ちすくんだままその光を見つめていた。

俺はこの夜、ベルトコンベアから弾かれる様に19年という短かった様な、長かった様な人生に幕を下ろした。


ーーーーーー


目を開けると……目を開けると?

俺は死んでないのか?
慌てて体を確認したが、想像した血に塗れているという事はなく、かすり傷一つない綺麗な物だった。

よく思い出してみようか。

バイトが終わって、交差点で信号が変わるのを待っていた。そこにトラックが突っ込んできてライトが眩しくて目を瞑り、終わったなと諦めた。

そして、目を開けるとここにいたと……。
ここって、どこ?
天国……なわけないよな。
天国へ行けるような事は何もしてないし……そうか、地獄か。

薄暗い洞窟、辺りに散らばる正体不明の骨。
間違いない。
地獄だ。
三途の川はすっ飛ばして来ちゃったのかなぁ……6文銭なんて持ってないから良かったと言えば良かったけどさ。

これからどうしたもんかと思っていると、妙にファンタジー色の強い、鬼というよりも悪魔っぽい見た目の石の化け物がやってきて連行された。

薄暗い通路を歩いていく、閻魔殿というよりは洋風な物々しい雰囲気の一室に通されて、動く悪魔の石像達に床へ投げ捨てられる。

結構、痛い。
死んでても痛いんだ。

当たり前か……。
これから地獄の責め苦を受けるのに、痛覚無ければ意味無いか。

だとすれば、目の前で見せつけるかの様に長い脚を組んで椅子に座ってらっしゃる、偉そうな方は閻魔大王って方か。

もっと和風な感じかと思ってたけど、えらい西洋かぶれしてんだなぁ……髪の毛青いし、悪魔みたいなヤギみたいなデッカイ角生えてるし……西洋かぶれって言うよりも悪魔そのものだな。
日本人って日本の地獄に行くもんだと思ってたけど、西洋の地獄に行ったりするのかな?
外国の地獄ってどんなだったっけ?


「貴様……何者だ」

閻魔様的悪魔に隠し事しても無駄だし素直に答えよう。

烏丸からすま  大和やまと 19歳。仕事の帰り道、トラックに轢かれて死にました」

閻魔様は眉間に皺を寄せ立ち上がると、一段一段、王座の階段を降りてきた。
厨二病の様な黒く長い軍服の様な姿。背中には悪魔みたいな羽が生えている。

「……は?トラック?死んだ?何を言ってるのかわからんな……お前はここが世界一最凶と名高いダンジョン『ルクスリア』と知ってやって来たのか?」

いえいえ、気付いたらここにいただけでして……。

男は目の前まで来ると、俺の顎を持ち上げた。
近くで見ると、ちょっと病み……闇が深そうだけどイケメンですね……ちっ。

「お前の様に華奢で顔立ちの良い者は久方ぶりだな……男なのが残念だがお前の容姿は好みだ……気に入った。この俺が直々に相手をしてやろう。光栄に思え」

…………は?

抵抗する間もなく。
その俺様から伸びてきた触手に俺の体は自由を奪われた。
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