恋する異世界酒場!! 結婚候補者に転生したのにヒロインが転生してきてくれません

藤雪たすく

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014.ご利用は計画的に

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小舟は湖の中心部までくるとゆっくりと停まった。

「真下にいるな……見てろよ陸也」

そういうと舟先に脅威のバランス感で立ったアランは右手を何も変わったところのない湖へ向けて広げる。

「ストーンランス!!」

鋭利な岩が湖の中へ撃ち込まれ小舟は波に大きく揺れ、俺は舟に掴まり落とされないように必死なのに、なんであいつは平然と立ってんだよ?またなんか教わってない魔法でズルしてるに違いない!!
揺れは次第に落ち着いて、静けさの戻った湖……アランは何をしたんだろうかと、聞こうとしたら水面が盛り上がり、水柱と共に巨大な影が現れた。その頭にはアランのストーンランスが刺さっている。

「きたな」

「え?何この化け物あ……これがカナナえび!?でかっ!!」

リアルカナナえびのデカさとこれだけの波でも転覆しない小舟に驚きながらも腰の剣に手をかけた時、トンっと軽い調子で小舟を蹴ってアランが飛び出した。

絶対この世界、勇者いらない。
水面を走るという異次元を見せつけながらアランは巨大なカナナえびを真っ二つに切り裂いた。
沈んでいったカナナえびの体……その後にはプクプクプクっと手のひらサイズのエビが幾つも浮かんできた。

「第二段も私の勝ちかな?」

エビを集めて舟に戻ってきた勝ち誇った笑顔。勝負だというとすぐ本気を出してきてガキみたいなヤツだな。
トレーの上に並べられた50本近くありそうなの大ぶりのエビを受け取ってアイテムボックスへしまう。出会うのがレアでも1匹でこれだけの数が取れるなら十分じゃないか?あの大きさからこれだけしか取れないのかと思うと少し寂しいけど。

「これで俺もやれたらドローだろ!!」

湖面をじっと見つめる……さっきやったのと同じようにして湖の中を探っていくと魔力はいくつか感じるけど、先ほど見たカナナえびとは違う気がする。

「手伝ってあげようか?」

「いらない……いま集中してんだから話しかけんな」

アランの声のせいでせっかく集中できてきてたのに気が散ってしまった。
アランはこれを自然体でやってみせてんだよな。生まれた時から空気のように当然で、朝目覚めるように日常で、常にそこにあった魔力との付き合いの差なんだろうけど……なんか悔しい。

「お前は本当に負けず嫌いだな」

それ、アランに言われたくない……てかまた集中が乱れて掴みかけてた形がまた霧散する。

あの巨体だ、見つけられなくはないはず……深く……湖の底を這うように広く……居たっ!!
間違いない、先ほど対峙した魔力の気配と同質。場所はわかった、あとはそこへ向けて魔法を放って誘き出すだけだ。

アランはストーンランスを使っていたけど水中だろ?水圧とかの抵抗を考えるとスピードに自信が無い。ここはスピード重視でエアカッターの方が良さげでは?
エビなら咄嗟に逃げようとした時には、後ろ向きに飛び跳ねるはず……背後からエアカッターで攻撃出来たら……よし、物は試しだ。

「エアカッター!!ブーメラン!!」

通常のエアカッターではなくて、丸ノコの様な刃を縦に投げ飛ばした。
ブーメランとか言っちゃったけど別にブーメランを想像したわけではなく、なんとなく。
投げ飛ばした丸ノコの刃は投げる瞬間に逆回転を追加して……イメージしたのは湖の底を回転しながら返ってくる……返ってくる!?

投げてから気が付いたけど、戻ってきた高速回転する空気の丸ノコの刃をどうやって受け止めたら良いんだ?

「お……ま……えは、バカかっ!!ストーンウォール!!」

俺が放った魔法の特異性に気付いたのか、青褪めたアランが慌てて土壁を刃が戻ってくる軌道上に作り出し、俺を抱くと湖へと飛び込み小舟を収納した。

アランの土壁を大破した風の刃は小舟があった場所を通って空へと消えていった……。
さすがアランに『威力だけは申し分ない』と言わせた俺の魔法だな。

「陸也……」

「あら、アラン……水も滴るいい男……」

「何を考えてるんだ、お前はっ!!」

頭ごなしに叱られた。
でもほら見てよ……湖面にはエビや魚など、ドロップ品がいっぱい浮いてきているよ。勝負は俺の勝ちだね。
……などと言える空気でもなく、ひたすら謝るしか出来なかった。

ーーーーーー

もう一度取り出してくれた小舟。
上がろうとするけど、水を含んだ服が重くて手間取っているとアランが引っ張り上げてくれた。

怒っているのか……自分にだけクリーンを掛けて俺には掛けてくれないので、自分でクリーンを使って濡れた身体を乾かした。

「あの……アランさん?怒ってますか?」

「怒っていないと思うのか?」

思いません……。
ゴゴゴゴゴ…………と、背後に文字が見えそうな程の圧力。怖っ、イケメンの本気の怒り顔、怖いよ。

「…………」

散々謝って……これ以上掛ける言葉もでず、黙々と周囲のドロップ品を集めていく。沈黙が重いよ……打開策を考えていると、背後で大きなため息が聞こえた。

「……焚きつけた私も悪かったな」

「全然!!アランは何も……俺が馬鹿で……」

仲直りの糸口をくれたアランにプライドなく縋るよ、俺は!!気まずいの嫌だもん。

「陸也の魔法は威力だけは激しいんだ。扱いに注意してくれ」

「わかった!!今度はちゃんとアランに相談してからにする!!だから……本当にごめん……」

もう良いと言う様に、背中を叩いてくれて……本当に本当に本当にアラン、良い奴!!カイトがどうしてアランと相性が悪かったのか不思議だよ。

「これで無かった事にしてやる……」

アランの指が俺の顎に触れる……顎クイッ?
それを理解する前に……アランの顔が近づいて……。

はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?

「○✕□☆△~っ!!」

「なんて声を出してるんだ」

慌てて後ろに飛び退いて、舟が大きく揺れる。

「だだだって……いま、いまの……キキキキキキ……キスっ!?」

唇にまだ残る感触は……王子様の柔らかな唇の感触。

「これで殺されかけたのを無かった事にしようって言うんだから、寛大だろ?」

「なんで?なんで?なんでアランが俺に……なんで?」

俺の疑問に答えることなく、王子様はただニッコリと微笑んだ。

「エビフライとやら、楽しみにしてる」

料理どころじゃねぇぇぇぇぇっっっ!!
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