恋する異世界酒場!! 結婚候補者に転生したのにヒロインが転生してきてくれません

藤雪たすく

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017.君の好きなとこ

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顔が見れない。

マントに包まって身体を小さく丸めている。
身体?全然ダメージない。事後にすぐにアランがヒールとクリーンを掛けてくれたから始める前より綺麗だし身体は元気。

「どう……かな?私は合格点をもらえそうか?」

マントの上から手を乗せられて、身体がギクリと強張った。合格点って何!?なんと答えて良いのか、どんな顔で顔を合わせたら良いのか……わからない。

「そんなに嫌だったか?すまない……もっと時間を掛けて距離を縮めていくつもりだったが、焦りで陸也を傷つけた」

トーンの低い声……マントを頭から被ったまま身体を起こしてアランの手を掴む。アランの身体も強張ったのがわかった。
そうだよな。慣れたように感じたけど、簡単な気持ちでこんな事をする男ではない。

「俺……嫌じゃなかった」

「陸也……」

マントがスッと捲られて、アランと向き合う格好になった……が、視線は合わせられず目を逸らす。

打算がずっとグルグル頭を巡るんだ。

アランの事をそういう意味で好きなのかどうかというのは、まだ良くわからないでいる。

アランと一緒に過ごした数日は凄く楽しくて……嫌いじゃないし、気持ち良かったのは間違いなくて、一緒にいる時間を手放してしまうぐらいならって……これはきっとアランが俺に向けてくれた想いに報いる形の想いではない。

「初めてを外で……というのは怒られるかと思ったが、ここで良かった。こんな顔を他の奴らになんて見せる訳にはいかないな」

「どんな顔だよ……」

「艷やかでいて可愛い陸也の今の姿だが?」

「は、はぁぁ!?何言ってんだ、頭やられたか?」

「可愛いものを可愛いということがおかしいことか?」

「俺は可愛くない!!可愛いいうな!!顔面強な奴に言われたって騙されないからな!!」

よくそんな言葉を恥ずかしげもなくっ!!王族はそうやって人を羞恥で追い詰めるための教育でもしてるんですかねぇ?愉快そうに笑う顔は絶対狙って言ってやがる。強がって睨むも逆にさらに嬉しそうに笑い出した。

「そうやって悔しそうにつっかかってくる姿の方が嬉しく感じるなんてな」

悔しそうっていうか悔しい。こうして自然に言い合えてホッとしていることが悔しいよ。

なんかすごい初心者に優しくないテクで判断能力狂わされてとろっとろに蕩けさせられて、しおらしく一度きりとか言ってて快楽沼に堕とされそうになるぐらい何度もイかされたけれども……それでもこれまでみたいに変わらないアランと共に居たいと思ってしまっていることが悔しい。

「なんだよ……全然そんな素振り見せてなかったのに……急なんだよ」

「勇者としての能力以外にも陸也が優秀すぎたからだよ。レベル上げをしなくてもステータスを上げられるなんて他の奴に知られたら、もし父上の耳に入ったら私は勇者様のお目付役から解任されるだろう。そして兄上達がその任を命じられるだろうな……そうなれば陸也は……」

あのレシピの事はあんまり大した事ではなさそうに聞こえたけど、やっぱり囲い込まれて酷使される未来が『こんにちは』をしかけていたんだな。

「俺がなんなのかで止めるのやめてくれよ」

死ぬの?殺されるの?気になるんだけど、アランが俺から視線を外したことがさらに気になってしまう。

「…………陸也も……兄上達に惚れてしまうだろう。今ならまだ私に分があるかと思って、先を急ぎすぎた」

アランがお兄さん達にコンプレックスを抱いているのは知っているけど、どんだけだ。アランはお兄さん達を絶対的な存在として刻み込まれているんだろうが……俺ってそんなに惚れっぽいと思われてんの?

「もしそうなったとして、お目付役になって支えてもらってるからといって俺チョロすぎないか?そういうのって誰でも良いわけじゃないじゃん」

「それは……私だから身体を許してくれたと自惚れて良いのか?」

「…………」

本当じゃん!!そういう事になるじゃん!!
これで別にアランだったからじゃないって言ったら、誰とでもヤる奴認定じゃん。
……アランだから?そうなのか、俺よ。

「あの……陸也?」

頭を抱えて崩れ落ちた俺を不安気に覗き込んで来る顔……カッコいいな、この野郎!!

どうしよう。
ヒロインを巡ってアランとライバルになる筈のキャラなのに、アランを巡ってヒロインとライバルになっちゃってるじゃん!!

『女の子になっちゃってもいいよ!!俺は主人公になってまったり酒場経営したかった!!』

そう言ったけど、こんな形を望んでした発言じゃない!!

「陸也……」

「あ、ごめん」

アランの事を完全放置していた。
不安にさせてしまって申し訳なかったと思うけど、自分の頭の整理でいっぱいいっぱいなのも事実だ。

「アランの事……嫌いじゃない。でもアランが俺に向けてくれる好意と同じかと言われると……まだ上手くわからない。ごめん……」

だってよく知っているキャラとはいえ、出会ってまだ数日だよ?ヒロインに向ける好意が俺に向けられるなんて考えてもなかったし……それはまだ、ヒロインと出会ってないからだって

「陸也が謝る事はない。嫌いじゃないと言ってくれるだけで嬉しい。もちろん好きになってくれたならそれは至高の喜びだけどな」

嬉しそうな淋しそうな……そんな笑顔はズキズキと心が痛むじゃないか。

「陸也が断りづらいだろうとわかっていて無理やり身体を繋げた事は謝る……卑怯な事をしたけれど本気なんだ。理性で抑えきれないほど陸也を繋いでおきたかった」

違う……。
応えるつもりがないなら堅固な意志で断り、受け入れるべきではなかった。そんな事は最初からわかっていたけれど……断った事で失くしてしまうのが怖かった。
リアルでは出会ったばかりだけど、ずっと一緒に冒険してきたキャラと実際に冒険出来る安心感と楽しさをもう楽しむ事が出来ないのかと思ったら……。

また不安になってアランのマントを掴んだ。

「怖かった……」

「怖がらせて悪かった。もう嫌がる事はしない……誓おう。もし……もし、許させるのならば……側に私を置いてほしい」

マントを掴んだ俺の手にアランの手が重なった。

「怖かったんだ……断って、アランが離れていくのが。アランと一緒にいたい。アランがいなくなるのが怖かった。一緒にいられるなら身体ぐらいって思って……ただこれが恋なのか分からなくて……でもその……気持ち良かったし、アランが俺でイッたのが、なんか嬉しかった……これは恋か?」

嫌がる事はしないと誓ってくれた王子様から押し倒される勢いで抱き締められて深く、深く……深いキスを受ける。
そうか……嫌がってないから問題はないのか……。
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