恋する異世界酒場!! 結婚候補者に転生したのにヒロインが転生してきてくれません

藤雪たすく

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025.魔物より怖いのは人である

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「あ、ああ~……」

喉がガラガラだ……。
何か飲み物をアイテムボックスにストックしておけばよかった。

「ひどい声だな」

「誰のせいだよ……」

声……喉を酷使しすぎた。

「そうか、私のせいか……食堂へ行ってハチミツ湯でももらってくるよ」

ヒールですぐに元に戻るが喉が乾いてるのに違いはなく、嬉しそうに飲み物を取りに行ってくれたのでこのまま待ってよう……体だるい。眠い……あいつやってる時ズルして身体強化の魔法を使ってんじゃねぇのか?
事後の汚れだけはアランがクリーンをかけてくれたので清潔な布団に包まり夢現でアランが帰ってくるのを待っていると部屋の扉がノックされた。

なんでノック?ああ……自分の分ももらってきたのかな?両手が塞がってたらドア開けられないよな……。
眠いのを我慢して体を起こすとふらふらと鍵を開け扉を開いた。

「おかえりアラ……んげっ!!」

一気に目が覚めたよ。
扉を開けたそこに立っていたのはナミエ……変態神官だった。

「人の顔を見るなり失礼ねぇ。あなたの味が忘れられなくて会いにきちゃった」

「きちゃったじゃねぇよ!!ここ騎士養成学校の寮だぞ!!どうして部外者が……」

「教会の大事なお務め……ハウスクリーニングへ参上いたしましたぁ」

無理矢理部屋に入ってくるナミエルを押し返し……押し返し……押し返せないっ!!
なんでこいつ神官なのに勇者に腕力で勝ってんだよ!!

「クリーニングは間に合ってるので帰ってくださいぃっ!!」

「はああああぁん……アランちゃんの魔力とが入り混じってとぉぉぉぉっても美味しそうな魔力に仕上がってるわぁん!!さぁ!!交わりたて新鮮なうちに……あひぃぃぃぃんっ!!」

寮の廊下でなんて事を叫んでくれてんだと勢い余ってナミエルを大きな火の玉で吹き飛ばしてしまった。
やる気はなかったんです!!ついカッとなってしまって……吹き飛ばした直後に我に返り、駆けつけてきていたアランへ向けて言い訳の視線を送った。俺の謝罪スキルの経験値がどんどん積み重ねられていく。

燃え広がろうとしていた炎ごとナミエルの体は水の球に包まれ……俺たちの部屋へ運ばれた。結局部屋に入れなければいけなくなってしまった。

「騒がせてすまなかったね、なんでもない。各自部屋へ戻ってくれ」

ドアから顔を出している学生へ向けて、爽やかな笑顔の背後に「何も聞くな」を見せながらアランによって場は騒ぎになる前に鎮められた。

室内へ移動してきた水の球の中ではナミエルが苦しそうにもがいている。

「部屋に入れるの嫌だろうけどごめんね?こんなのでも聖職者としての位だけは高いから……怪我させたりして追い出すと問題になるかも。すぐ手当てしたら外に放り投げとくから」

戻ってくるのが遅くなってごめんとキスしてくるが、その背後では相変わらず高役職のナミエルが溺れている。

「変態でも死ぬとこは見たくない……できれば苦しそうなのも……」

「陸也は優しいね」

スッと水の球が消えてナミエルの身体が床に無様に落ちる……ナミエルよ。一応人気キャラトップ10には入っていたキャラのはずなのに……。

「天国が見えかけたわ……私このままじゃ死んじゃう……陸也ちゃんの……ヒールを、ヒールを……」

這いずりながら、初志貫徹な姿は尊敬に値するが……キモい。白魔法をこよなく愛するちょっとオネェな美形のお兄さんだったキャラは、ゾンビの様なジャンキーに堕ちていた。

「私の大切な陸也の手を煩わせる価値はない。私が掛けてやる。ヒール」

「アランちゃんのヒールも捨て難いけど、今は陸也ちゃんのがほしいの!!マジックブロック!!」

ヒールを掛けようとするアランの魔法から逃げる様に結界を張るナミエル……何を見せられてるんだか。そしてアラン……さり気なく所有権を主張するんじゃないよ。

「……ヒール」

いったん、ナミエルの結界が切れたのを見計らいヒールを掛けてやった。

「陸也ちゃぁぁん!!ありがとうー!!これ、これ、これぇぇ!!」

「身悶えんな変態」

「辛辣ねぇ!!その目もゾクゾクしちゃう!!」

「陸也、お前の為なら私が持てる権力すべて利用してでもコイツを消すが?」

心配そうな顔のアラン……比較対象が変態過ぎて聖人君子に見えるよ。最初に会ったのがアランで本当に良かった。

「大丈夫……こんな変態の為にアランが手を汚すこと無いさ。こういう変態はさ、野放しにしとくより目の届く範囲で監視していた方が逆に安全だと思うんだよな」

「なるほど……放置して、まさか寮にまで押しかけてくるとは思わなかったもんな。受け入れられる部分は最低限で受け入れつつ、遠ざようということか」

全てを拒否して追い詰めると何をしでかすかわからない。それなら譲歩策を練って懐柔して管理した方が良い。

「そういうのってぇ。普通本人がいないところでコソコソ話し合うもんじゃないかしらぁ?」

「お前が普通を語るな……アラン、喉痛い……はちみつ湯は?」

「ああ、そうだった……はい、熱いから気を付けて飲めよ」

アイテムボックスから取り出されたカップを受け取ると、蜂蜜の甘い香りが漂ってくる。口へ含むと……辛うじてはちみつ湯、ほぼ蜂蜜の濃厚さだったが、喉の痛みにはちょうど良かった。乾いた喉を潤すには不向きではあったが。

「ありがとアラン。喋りやすくなった」

だからな」

誇らしげなアランに笑みが溢れる。

「まぁぁアランちゃんったら、魔力操作が器用なのは知ってたけど、夜もテクニシャンなのね!!持久力もありそうだから陸也ちゃんも大変ねぇ」

「ナチュラルに会話に入ってくんな、変態」

この神官、セクハラで訴えれると思う。
これだけ言われても折れない心の強さは尊敬するが、なりたいとは思えない。

「私も陸也ちゃん達と旅に出たいわね……聞いたわよ、陸也ちゃんは勇者様なんですって?私も魔王討伐に……」

「絶対ついてくんなよ。ついてきたら勇者辞める」

「えぇ~どうして?私、こう見えても強いわよ?」

「私と話す時よりも正直なんだな……気を許している気がする……」

何処が!?心底嫌がっているだろうが!!それに嫉妬するんじゃありません。ナミエルが一人居るだけで全てが面倒な事になる。絶対こいつとだけはパーティ組みたくねぇ。

ただ……こいつが居なければならなくなる日が来る事も俺は知っている。そんな日は来なければ良いのにな。
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