ただ愛されたいと願う

藤雪たすく

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愛されたいと願う

二人で歩く道

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…………。

ぼんやりとした目に映るのは真っ白い天井だった。

地獄は白いのか……。

ギュッと手を握られて、緩慢に首を動かすと真横に秀哉さんが並んで横になり、こちらを見ていた。

良かった……まだ繋がったままだった。
秀哉さんの手を引き寄せて頬を擦り付けた。

「ここは……」

地獄だったのか?天国だったのか?

「病院。ベッドくっつけてもらったんだ」

「病院……病院?……病院!?」

秀哉さんの言葉を何度も復唱して……頭が言葉を理解した途端、体を飛び起こさせた。

クラクラとした目眩に襲われてベッドに逆戻りした僕の横で秀哉さんはクスクスと笑った。その笑顔にマスクは無い。

「え?何で?生きてる?マスクは?あれ?川……ええ?地獄は?」

状況が飲み込めず混乱する頭に秀哉さんの手が添えられて……秀哉さんの胸元へ引き寄せられて、触れた胸から秀哉さんの心音が、生きている鼓動が聞こえてきた。

「生きてるよ……俺も、海里君も……」

「秀哉さん……」

「後で全部説明するから……今はこうさせていて……」

頭に秀哉さんの顔が埋められ耳に……キスをされた。

何が何だかわからないけど……秀哉さんとこうして触れ合えるなら、ここが天国でも地獄でも、生きていようが死んでいようが、そんな事はどうでも良くなった……秀哉さんがいる場所にいられるだけで良い。

秀哉さんの体に腕を回してその体にしがみつく……胸に引っ付いたまま顔を見上げると秀哉さんもこちらを見てい……ゆっくり近づいてくるその顔に首を伸ばして口付けを交わした。

邪魔する物は……もう何も無かった。

ーーーーーー

そのまま眠りに落ちて……状況もわからないまま次の日の朝、退院した。体中擦り傷だらけだったけど体はもう痛くないし熱もない。

テレビのニュースを見ると4日経っていた。

迎えに来てくれたお義父さんとお義母さんに「ありがとう」と涙を流されて、雪先生には「おめでとう」と祝福された。

何が『ありがとう』で『おめでとう』なのだろうか?
聞き返してもみんなニコニコ笑うだけで教えてくれなかった。

退院の手続きを終えて……「体調が良ければ一緒に歩いて帰りたい」と、いう。

そんな秀哉さんの申し出に体に不調も無いので2人で歩いて帰ることになった。

ーーーーーー

朝とはいえもうすでに気温も高く、繋いだ手がじっとりと汗ばむ。
……そんなことに、ふわりとした喜びを感じた。

「海里君……体は大丈夫?辛くない?」

「大丈夫です。秀哉さんは?僕といて大丈夫なんですか?アレルギ—は……」

「やっぱり出て行った原因はそれだよね……誰から聞いたの?」

しまった……と思ったけど、責めるでもなく秀哉さんは微笑みながら僕を見下ろしている。

「ごめんなさい。緒方さんとの話を盗み聞きしてしまいました」

「そうか……ごめん。本当は一番先に君に話しておかなければならなかったのに……つまらないプライドで君に辛い思いだけをさせてしまった」

視線を落とした秀哉さんに僕も視線を地面に向けた。

「寂しかったです……でも、楽しいこともいっぱい貰いましたから……」

「……ありがとう。そう言って貰えると少し救われるかな……」

2人で並んで黙々と歩き……ときおり探る様にお互いの目がチラリと合う。

全部教えてくれるって言ったけど、早くあの後、何があったのか知りたい……もしかしてあの薬草が効いたのかな?
じゃあ……これからはこうして一緒にいられるの?
じゃあじゃあ……番の契約も……?

秀哉さんと番の本契約……想像して音がしそうな勢いで顔が熱くなる。

「海里君、番契約の事なんだけど……」

「はっ!!はい!!早く番契約したいです!!今すぐにでも!!……あ」

なんて事を口走ってるんだと、恥ずかしくなって逃げ出そうとしたけれど、秀哉さんは手を離してくれない。

「ありがとう……そんなに想ってくれているのに……ごめんね」

秀哉さんは寂しそうに笑った後、指で唇を持ち上げた……そこにはあるはずの……牙がない。

アルファとオメガは一生のうちに一度、ただ一人だけと番として結ばれる。
それは番の契約後、オメガはフェロモンを出さなくなりヒートが来なくなる。そしてアルファは牙が抜け落ち……もう二度と番の契約は出来なくなる。

秀哉さんは……番持ち……。

それを理解した瞬間、ブワッと涙が溢れた。

「か……海里君!?そんなに泣くほど嫌だった?ごめん……勝手な事をして……」

オロオロと慌てながら秀哉さんはタオルを取り出してます涙を拭いてくれる。

「ごめんなさい……ちゃんと受け止めます……でも今だけは泣かせて下さい。秀哉さんが誰を選んでもちゃんと『おめでとう』って言えますから」

例え選んだ先が地獄でも、ただ秀哉さんの側にいたいと願ったのは僕だ。

でも……その願いも叶いそうに無いけれど。

「そんな覚悟はいらないから!!海里君以外に誰を選ぶんだ!!俺が謝ったのは……海里君の意識が無いうちに、勝手に番契約をしてしまったということで……」

「え……契約……?」

うなじに手をあてると番契約時に出来るという、丸い傷が二つ並んでかさぶたになって盛り上がっていた。

「え?僕?番?え?秀哉さんと?」

全く記憶に無い……意識が無いうちにって言ってたから……そうか……そうなのか?

「ヒート……治まってるでしょ?」

「僕、ヒートだったんですか?」

「気付いて……なかったのか?」

言われてみると、秀哉さんとくっついていたくて仕方なかったり、頭がクラクラしたり、体が熱かったり……学校で習ったヒートの症状っぽくもある。
あるけど、それがそうなのかは自信が無い。

「仮契約をしているとはいえ勝手に最低だと思う……けど俺も焦ってて……休憩も兼ねて座ってゆっくり話そうか」

タオルで汗を拭かれて、コーヒーショップを指差された。

高くなった太陽に、暑かったので休憩は嬉しいけど……あんなおしゃれな場所に僕が入って大丈夫だろうか。

木陰でもあればそれで十分なんだけど……躊躇う手を引かれて涼しい店内へ足を踏み入れた。
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