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異世界に行ったらしたい事

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「……っ!!」
「…………っ!!」

コンビニのバイトからの帰り道。
神社の前を通り掛かると言い争う声が聞こえて、ビビりながらも鳥居の奥を覗いてみた。

「だからっ!!あんな奴より俺の方が優れてるって言ってるだろ!!」

「自分の力量もはかれない思い上がった奴などいらんと何度言わせる!!」

痴情のもつれか? 巫女さんの様な格好した女の子に男が詰め寄っている。痴話喧嘩なら関わり合いにならない方が良いんだろうが、力任せに女の子の腕を掴んだり、肩を掴んで強く揺さぶったりと些か乱暴だ。

喧嘩に自信は無いが……こんな夜遅くにこんな場所で女の子を乱暴に扱っている場面に遭遇して、流石に見て見ぬ振りは出来ない。何時でも通報出来るように手にスマホを握りしめてから平静を装い鳥居を潜った。

「大丈夫ですか?何かトラブルですか?」

「……あ?何だよ!!邪魔すんな!!」

なるべく事を荒たげない様に努めてにこやかに近づいたが、振り返った男に思い切り睨まれた。

絶対俺の姿を確認して、貧弱だから突っかかってきたな……まあ、俺も男がいかにも危なそうな奴だったら逃げてたと思うからお互い様だけどな。

「うむ。素質も無い下賤の者が騒ぐもので困っておったところだ」
「何だと!?」

……この巫女さん、なかなかの上から目線。これじゃあこの男がキレるのも分かる気がする。

「まあまあ落ち着いて下さ「煩ぇっ!!」
宥めようと止めに入ろうとして、男が振り上げた肘が顎に入り、俺の体は玉砂利の上に倒れ込んだ。

「いってぇ……」
顎をやられたせいかクラクラと頭が揺れるのを手で支えながら見上げた視線の先に男が女の子に向かって拳を振り上げたのが見えた。

いくら体格が普通でも男は男だ、その力が小柄な女の子に向かっては最悪怪我どころでは……!!

「下手に出てれば調子に乗りやがってぇ!!」
「そんなに行きたければ行かせてやるわ!!」
「やめろっ!!」

男と女の子と俺の3人の声が重なり……。

男と女の子の間に飛び出した俺のこめかみに男の拳が当たると同時に背後からも体が浮き上がる程の衝撃を受けた。

「あ……」

女の子の僅かな驚嘆の声。

何が起きた?

まるでジェットコースターに乗っているかの様なスピード感で何処かに飛ばされて行くような感覚。周りの景色は見えず、ただ星の中を抜けて行くように光の線が流れて行った。

ーーーーーー

いつまでこうしているのか?
何が起こったのか解らないまま、俺は飛ばされ続けている。

俺はもしかしたら男に殴られた事で死んだのかもしれない。やはり身の丈に合わない善意など見せずに逃げていた方が良かったのかも……いや、でもそうしたらあの女の子が殺されていたかもしれないし……次の日そんなニュースを見でもしたら罪悪感に押し潰されていただろう。

こんな俺でも誰かを助けられたんだ、これで良かったんだ、そう自分に言い聞かせていると、何処からともなく声が聞こえてきた。

『……まさたか……椎名雅貴……聞こえるか?』

「誰だ?俺の名前……」
その声には聞き覚えがあった、さっきの女の子だ。

『聞こえているようだな。時間が無い、早速本題だ。儂はとある世界の神なのだが先の天界と魔界の間で起きた戦で力を失ってしまい、儂の世界は魔界の力が強まり荒れてしまった。神の力となる生命力を集めるために神の御使いとなる勇者を借りようとお前達の世界の神の手を借りたんじゃ』

「なるほど……」

……夢か。
かなり突拍子もない話に俺は夢だと断定し、疑問など返さずに流れを見守る事にした。

『勇者に相応しい男を見つけ勧誘し、儂の世界に送る事には成功したんじゃがあの無礼な男に見られてしまっていてな、自分の方が勇者として才能があるから連れて行けと煩くてなぁ……力を貸してくれた神の世界であまり事を荒たげたくは無かったので我慢をしておったが、流石に不敬にも程がある、そんなに別の世界へ行きたいなら送ってやろうと戦で消滅した神の世界へ送り飛ばしてやろうと思ったんじゃ……』

ふんふん……こんな夢を見るなんて俺の脳内は随分漫画に侵されていたんだな。これはあれだろう? 『異世界転生』ってやつだろう?

『まさかお主が飛び込んでくるとは……これからお主の向かう先は神を失った魔の力に侵略された世界だ。これはもう儂にも止められんし、その世界に入ってしまうと儂は一切の干渉が出来ん様になる』

ありがちな犬死にと神の手違いってやつだ。俺の想像力の限界だな。

『しかし……危険を顧みず助けに入ってくれたお主の優しさは……嬉しかった』

おお……幼女女神がデレた。

『殆どの力は勇者を送る時に使ってしまったが、今の儂に出来る精一杯の祝福をつけてやる……だから……だから死ぬで無いぞ!!椎名雅貴!!』

女神の大声と共に目の前に真っ白な光が広がった。

異世界、女神の祝福……憧れのチート能力で世界最強で可愛い女の子達にモテまくりのハーレムが俺を待っている!! 彼女いない歴、年齢の俺にも遂に彼女が!!

ツンデレな剣士の危機を助けたり、究極魔法を軽く使ってそれを伝授してちょっとヤンデレ気味な魔法使いに尊敬されたり、クールビューティーなエルフに精霊のお告げだと結婚を迫られたり、奴隷にされかけた可愛い獣人を助けてご主人様と慕われたり!!

テンプレートな女の子達を想像しながら俺は光の洪水の中に飲まれていった。

『お主が……もし祈りを……神……復活……たら……』
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