あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく

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別人かもしれない

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今日はやけに翼竜達の落ち着きが無い。

「ヒビキ……君」

宥めていると、後ろから名前を呼ばれて振り返るとキースさんが立っていて手を振っていた。

「キースさん」

側へ駆け寄るといつも見かける笑顔を向けてくれる。
この間の事、恨まれては無さそう……ホッと胸を撫で下ろした。

2人きりで話してるとギルは怒るかな?
いや翼竜達がいるし、何かあったら助けてくれる……翼竜達を振り返ると……怯えている?

首を下げて尻尾を体に巻き付けて姿勢を低くしている。10年間遊んできたけどこんな姿は初めて見る。
俺にはわからないけどAランクだっていうキースさんの力を感じとってるのかも。

「……キースさん本当にAランクなんですね……翼竜達のこんな姿初めて見ました」

「へ?ああ……知ってらしたんですね。何か過大評価な気がするんですけど……一応Aランクなんですよ」

何だろう……スゴく……見られてる。

「あの……キースさん?俺の顔、何か付いてますか?」

「あ、すみません!!あの……ヒビキ君は「ごめんなさい。ヒビキ君って呼ばれるの苦手で……ヒビキと呼んでもらえますか?」

何故か昔から『君』づけで呼ばれるのが苦手で話の途中なのについ口を挟んでしまった。

「そうですか……じゃあヒビキは……あの……ここのギルド長の……その、噂で……聞いて……」

キースさんは視線を彷徨わせながらゴニョゴニョと口ごもった。

「ああ……ギルド長の愛人かってことですか?……まぁ、そんな感じです」

『ギルの愛人』さんざん言われ続けて、今さら誰に何を言われても何も感じる事は無かったのに……キースさんにもその話を知られているのかと思うと胸が圧迫される様に苦しい。

俺を守る為だからってギルがそういう事にしていてくれた。

どんな目で見られているのかが恐くてそっと視線を外した。

「噂なだけじゃなかったんですね……」

いきなり両肩を掴まれて思わず顔を上げると……キースさんの目に宿っていたのは軽蔑でも嫌悪でもない……悲しそう?

「キースさん……」

力を込められて……ミシミシと肩が痛い。

「この間俺を殴ったギルド長から感じたのはヒビキを心配する気持ちだった。だから安心していたのに……恋人がいながらヒビキを……愛人なんて……」

どこかを睨むキースさんの顔は……いつもの笑顔からは想像出来ないほど冷たいものだった。

『……怒らないで……嫌いにならないで……置いて行かないで……』

胸の奥からドクドクと脈打ちながら沸き上がる嫌な感情。

「違う……違う……ギルは……違うから」

「ヒビキ!?」

胸の内から広がる黒いもやもやに飲み込まれていく。

訳の分からない嫌悪、恐怖、孤独……それらの感情が渦を巻いて大きくなって……。

目の前が真っ暗に染まっていく。


「ヒビキ!!」

その声にハッと我に返ると、キースさんに抱きしめられていた。

「キース……さん?俺……あれ?」

「すみませんでした……ギルド長を見るヒビキの姿を見れば2人が厚い信頼関係にあるのは分かるのに……関係ない俺が口出しをする事ではなかったですね」

体を離したキースさんはいつもの笑顔に戻っている。

先程の黒い感情はなんだったんだろう……まだ少し心に不安な感情が残っている。

「ヒビキは……今、幸せですか?」

「?……はい、幸せだと思います」

「そうですか……わかりました」

突然なんだろうと思ったけれど……キースさんは俺の答えに満足そうに笑うと俺の手をとって、左手首に自分の左手首を重ねた。

「幸せなら良いんです。これからもヒビキに幸せが訪れます様に……」

何かのおまじないとかなのかな?
それだけ言うとキースさんはそのまま片手を上げて去って行った。


……あ。
この前の謝罪とカオカオの実のお礼とカオカオの実の生えてるとこ聞くの忘れた。

ーーーーーー

今日のギルは帰ってくるなり俺にしがみついて離れない。

「ギル……暑い」

筋肉の塊のギルは体温が高くて寒い時なら良いけど暖かな今の季節は不愉快になる熱さだ。

「今日ぐらい我慢してやれ、ほらココエリ水」

ユーリカは笑いながら俺にコップを差し出してくる。
ココエリ水は体力回復薬……そうして体力を回復されながらギルにしがみつかれ続けている。

「ギル~……お腹空いた~今日は一体どうしたんだよ?」

ギルは何を言ってもムスッとしたまま何も喋らない。
ギルからの答えは諦めて、椅子に座って食事の時間を待つユーリカに目を向けた。

俺の視線に気付いたユーリカがニヤッと笑う。

「今日、例の冒険者がギルを訪ねて来たらしいぞ。そんで自ら『吸血鬼』の調査を引き受けてくれるって名乗りを上げてくれた」
「え!?キースさんが?……そっか……行っちゃうのか……」

じゃあ今日は、それで挨拶をしに来てくれたのかな?

キースさんが自分の意思で決めたことだから、関係ない俺は何も言えないんだけれど……あの笑顔を暫く見れなくなるのは寂しい。
けど……それで?何でギルがこんな状態になってるの?

「相手との力量の差を目の当たりにさせられたみたいだな。ヒビキを連れて行かれるんじゃないかって怯えてんだよ……デカイ図体で情けないことだな」

ユーリカはニヤニヤしながらギルの脇腹を蹴っている。

「……あれは人間じゃねぇ……格が違う……Aランクより上がねぇから同じAランクだが……あれはそんなもんじゃねぇ……この間はそれを隠してやがったんだ」

そう言ったギルは何を思い出したのか額に汗が滲んでいる。

「でも『ヒビキを幸せにしてやって欲しい』って頼まれたんだろ?奪って行く気ならそんな事は言わねぇだろ」

ユーリカの言葉にギルは何かを考え込んだ。

「…………ヒビキ。あの野郎とはあの時が初対面か?」

「ん?そうだけど、何で?」

ニコニコしてて優しくて、ちょっと抜けてて……ギルがこんなに警戒する意味がわかんない。もしかしたら俺の思ってるキースさんとは別の人なのかな?……双子の弟とか……。

お腹も鳴ったし、ギルの腕が緩んだので抜け出してユーリカの隣に座った。

「いまスープ温め直すから待ってろ」

俺の頭をかき混ぜてユーリカはコンロへ向かった。

「あいつのヒビキへ対するもんは……他の奴等がヒビキにちょっかい出すのとは違う気がする……一目惚れだとか、悪戯心とは違う……もっと深い……」

「ほら、もう飯だ。せっかく温め直したのにまた冷めちまう」

ユーリカに蹴られて、ギルも渋々テーブルについて……キースさんの話はそこで終わった。
ギルはまだ一人で何かを考え込んでいたけれど……。
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