あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく

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キースさんと蝶と俺

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大人しく体を寝そべらせた竜の上から、格好良く飛び降りるギルとユーリカの真似をしようとしたけれど、上手くいくはずも無く竜の体から滑り落ちる体をギルに抱き止められた。

「響?こんなところで何をしてるんだ?」

キースさんが駆け寄って来てくれて……その顔はにこにこと笑っている。良かった……怒ってはなさそう。

「ヒビキを幸せにするって約束だったからな、連れてきたんだよ」

ギルに背中を押された。

「響の幸せ?」

首を傾けたキースさんの目をしっかりと捕らえる。

せっかくここまで連れてきて貰ったんだ。

振られても……もう弟としてすら側にいれなくても……今の俺にはギルとユーリカが居てくれる。拳を握りしめて勇気を振り絞った。

「キースさん……俺……」

「響……キースさんなんて他人行儀な呼び方じゃなくて、前みたいに『お兄ちゃん』って呼んで?」

握りしめた拳に更に力を込めた。

お兄ちゃんと思えないから……思いたくないから『お兄ちゃん』と呼びたくないのに……それでもキースさんの願う様な瞳を悲しませたくなくて……。

「……お兄ちゃん……」

結局、心を殺してしまった。

「なに?響」

嬉しそうな笑顔に……それでも良いかと自分に言い聞かせて笑顔を作りキースさんに抱き付く。

「お兄ちゃんの唐揚げが待ちきれなくて追って来ちゃった」

作った笑顔はバレて無いだろうか?上手く笑えているだろうか?
キースさんの胸に顔を押し付けて歪んでしまいそうな笑顔を隠した。

「それが響の幸せ?はは、待ってろって言ったのに……今、最高の鳥肉が手に入ったし……明日にはご馳走出来るかな?」

キースさんは嬉しそうに笑うと抱き締め返してくれた。

昔の記憶が無いままで何年経とうと、人間の根幹的な性格は変わらないらしい。

勇気のなかった俺はいつまでも俺のまま……この笑顔が消える事が怖くて立ち向かえない。

「キース!!ヒビキはあんたの事が……ぐぼっ!!」

ギルの奇妙な声に顔を上げるとギルのお腹にユーリカの膝がめり込んでいた。

「てめ……ユーリカ……何しやがる」

「ヒビキが自分から口にするまでは手を貸さない約束だろ?」

体勢を整えたユーリカは振り返るとにっこりと笑った。

「俺はヒビキの世界の料理をもっと知りたいとあんたを探してたんだ。『コメ』と『ミソシル』だけじゃ毎日とはいかなくてな……もっと教えて貰えないか?」

「響の為ならいくらでも」

キースさんはユーリカではなく俺を見ながら笑って、頭を撫でた。
俺ではなく……『響』に向けての笑顔に胸がズキンと痛んだ。

「ユーリカさんは解体は出来ますか?手伝って頂きたいのですが」

「おう、解体士の免許なら持ってるぞ……しかし本当にでけぇな……ドンバットはさすがに解体した事はねぇが、他の鳥型と一緒だよな」

ユーリカはドンバットの体を見上げた。

「あんたに追われてこんなとこにドンバットがいたのか。お陰でこっちはえらい目にあった」

ギルはユーリカの蹴りから立ち直って、あぐらをかくとキースさんを睨んだ。

「古代竜から響達が落下してるのを助けただけだと聞いたけど……落下の原因はドンバットだったのか!?ごめん!!響が側にいるとわかっていたら一撃で仕留めたのに!!」

ぎゅうぎゅう抱き締められるけど……古代竜から聞いた?会話なんてしてたっけ?

「お兄ちゃん……」

「響は魔力が無くて俺でも気配を探れないんだ……でももう覚えた……これが響の目印だね」

キースさんは俺の腕を取り、腕輪を指で撫でた。

「蝶のモチーフ……あのお守りみたいだ……」

キースさんの目が懐かしそうに細められる。

「……ユーリカが作ってくれた」

ポケットに手を入れて……中にある物を取り出そうとして止めた。

「そうか……ユーリカさん、ありがとうございます。貴方を消せば響がギルバードさんの一番になれるかと思いましたが、止めておいて良かった。響にとって貴方も大切な人みたいですね」

「キ……お兄ちゃん!!消すとかっ!!」

笑顔のままのキースさんに少し恐怖を覚える。
キースさんはしっかりこっちの世界の人間なんだと感じた。

「……そりゃあ、どうも……」

ユーリカも特にそこに突っ込む事なく背中を向けたままヒラヒラと手を振った。

「響、お腹空いてない?これだけ大きいと解体の時間も掛かるしお昼にしようか?上にドンバットの卵もあったしオムライス作ってあげようか」

「オムライス……」

その言葉にげんきんにもお腹が鳴る。

「せっかくだし取ってきて貰おうか」

キースさんはずっと体を伏せている古代竜に手を添えた。古代竜は首をもたげると翼を広げて地面を蹴った。
地震の様な地響きに体が浮いて、キースさんに支えられた。

「あんた魔物使いのスキルも持ってたのか……どんだけ……」

ギルは目をまん丸に見開いている。

「魔物使い?」

「知力の高い魔物と話せるだけで、従魔をつくる気はないからあまり意味がないスキルだけどね」

翼竜達と話が出来たのもキースさん固有の能力だったのか。

「しかし……魔物使いにしても古代竜を……」

ギルは古代竜が飛んでいった方を見つめ続けている。

「あの古代竜は響に好意的だったからですよ。普通なら力でねじ伏せないと言う事は聞きませんね」

「好意的?何で俺に好意的なの?」

俺の記憶が確かなら古代竜の知り合いはいない。

「そんなの響が可愛いからだよ」

にこにこと笑うキースさんの本気は読み取り辛い。

「古代竜が来る前に響からあんたと同じ羽が生えた……きっと俺を助けた蝶と同じ物だ。あれもあんたの力なのか?」

「ご名答、俺が響を助けた……と言いたいところですが残念ながら俺の力じゃないですね」

キースさんが俺の顔を両手で挟み込み、上を向かされた。
優しい眼差しに見下ろされてドキドキと胸が弾み顔に血が集まる。

「蝶の羽は俺の力の源……俺は前世でお守りに響を守れる力を……誰にも負けない力を願い続けた。今の俺が力を持っているのはあのお守りのおかげだと思ってる。響の背に現れたのはきっと響自身のお守りの力だと思うよ?」

「俺の?でも俺、キ……お兄ちゃんみたいには魔法も何も出来なかったよ?」

「響のお守りには『響に幸せな家族を……響が誰からも愛されるように』って願いを込めてたから……蝶がギルバードさんを助けたのは、貴方が響を守る人間としてふさわしいと蝶に認められた結果でしょうね……」

肩を抱くキースさんの手に力が込められた。

「……俺じゃ……なく」
ぽつりと零された言葉は……とても寂しい音で風に流されていった。

「お兄ちゃん……」

「あ、戻ってきたみたいだね」

何を言おうとした訳でもなく、ただ呼んだ続きは考えつく前に遮られ、見上げると古代竜が卵を抱えて戻ってきた。
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