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ギルバードとユーリカ
ギルバード視点
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昔から体格に恵まれ魔力にも恵まれていた。
田舎の村に生まれ、大人でも俺に勝てる奴はいなかった。
魔物が出ればみんなが俺を頼りにする。
頼られるのは嬉しい。俺がこの街を守っているんだと思っていた。
だが……見た事のない魔物が村を襲った。
今までの魔物とは比べ物にならない腕力に吹き飛ばされ……俺が守ってやらなければいけないのに体が動かない。
目の前で村の人々が傷付いていく……一つ咆哮を上げて全身全霊の力を込めて魔物へ拳を叩き付けた……が魔物には効かず視界の端に魔物の拳が見える……死を覚悟したその時……。
「良く頑張ったな……後は任せろ」
立派な鎧を身につけた精悍な男の腕に助けられていた。
身の丈もある大剣を振り上げると俺があれだけ苦労した魔物を一刀両断した。
「あ……あんたは?」
「ああ、俺はギルドから派遣されてきた冒険者だ」
冒険者……。
特産も何もない辺鄙な村には冒険者が立ち寄る事なんて無かった。
そうして颯爽と現れ魔物を退治して去って行った。
冒険者……かっこいい!!
俺の中で冒険者への憧れは膨れ上がり、毎日山に籠っては魔物と戦う日々を過ごし成人を迎えた頃、俺は憧れの冒険者になる事を胸に村を旅立った。
ーーーーーー
請け負ったクエストを遂行中、森の中で他の奴らが魔物と戦っている気配があった。
気配を探ってみるとどうやら劣勢の様だ。
持ちつ持たれつ……手を貸してやるかと現場へ向かった。
倒れた男の上に両前足を持ち上げて踏みつぶそうとした魔物を炎で吹き飛ばした。
「大丈夫か?」
「ああ……すまない。助かったよ、あんたは?」
「通りすがりだ。ほらよ」
鞄から回復薬を取り出し男に投げた。
周りではまだ戦いが続いている。
向かってくる魔物達を剣で払いながら……一人の戦いに目が止まった。
全ての攻撃をのらりくらりと避けながら蹴り一つで魔物を倒していく。無駄な攻撃は一切無い。
とにかく真っ向う勝負、殴り合い、殺し合いの俺とはスタイルが全く違う。
何より目を引いたのは……。
「へぇ無駄に綺麗な顔をした奴だな……あんたの女か?……おごっ!!」
突然、腹に重い衝撃が埋め込まれ。
それだけならまだ堪えれたが……スパーク。
腹に入れられた膝から全身に電流を流し込まれた。
目の前に火花が散る。
後ろに倒れていく視界の中で……。
チカチカキラキラ輝く花が……その顔を彩った……。
「あいて……」
目を覚まして後頭部を押さえる。
倒れた時に打った様だ。
「すみません……助けて頂いたのに仲間が……」
あの冒険者が覗き込んできた。
……中々人の良い奴らなようだ。
冒険者は荒くれが多い、隙を見せれば荷物を奪われる。
「普段は大人しくて気の荒い奴じゃないんですけど……」
頭をしきりに下げる。
どうやらこの男がリーダーの様だ。
……あの女は?
周囲を見回すとあの女が飯を作っていた。
「良かったら飯を食っていってください。あいつ料理が得意で……旨いですよ」
俺の視線に気付いたリーダーらしき男がにこにこと笑いかけてくる。
俺は料理が苦手でいつも干し肉を噛んで過ごす……温かな料理の気配に腹がなった。
リーダーから回されたスープに口をつけた。
……旨い。
何のへんてつもない野菜のスープだが……ほっと心が休まる。
クエスト中にこんな飯が食えたら……そりゃあ依頼もはかどる事だろう。
「俺はAランク冒険者のギルバードってんだ。てめぇ、俺と組む気はねぇか?てめぇとならもっと良い仕事ができそうだ」
飯を他のメンバーに配る女の腕を掴んだ。
「あ?突然だな。わりぃが今のメンバー気に入ってんでお断りだ」
しっとりとした声だが……低めのこの声は……。
「男!?」
俺の驚きに目の前の美人はニヤリと笑った。
「そういう事を期待されてたんなら悪かったな。他をあたれ」
女ならパートナーとして最高だと思ったが、男であってもこの飯は最高だ。
「……俺と組めば稼げるぞ?こいつらの何処が良いんだ?」
どうみても他のメンバーはCランク……Aランクの俺に誘われて断るとは……。
「あ~……こいつら遠出しねぇから……俺は戦闘とか苦手なんだわ」
「あんな蹴りと魔力を持っててか?」
「博愛主義だから、俺」
にっこりと嘘臭い笑顔で笑って返される。
俺は……どうしてもこいつが欲しくなった。
ここまでお願いして駄目なら……。
「リーダーの男を倒せば良いのか?それとも全員か?どうすれば俺と組む気になる?」
背後で他の奴らの悲鳴が上がる。
平和的にいきたかったが……手に入らないなら力で奪う……強者に許された特権。
「へぇ……何?あんた俺に恋しちゃったわけ?」
人を小馬鹿にした様にニヤニヤと見下ろして来る顔に、ビキッと青筋が立った気がする。
「は!!誰が!!そう聞こえんのはてめぇの願望じゃねぇの?俺に惚れて欲しいのかよ?どうしてもってなら抱いてやってもいいぞ?」
「誰がてめぇみてぇな脳筋肉ダルマ。暑苦しくてキモいだけだっつーの」
何処が大人しいんだ。
いきなり腹に蹴りを入れられた。
せっかく食べたものを出すのは勿体ねぇと口を抑えながら、ニ撃目を繰り出すその足を掴んだ。
流し込まれる電流を手に魔力を集めてガードする。
初見では油断したがパターンがわかれば受け流せる。
いきなり戦闘を始めた俺達を他の奴らはハラハラと見守っている。
「へぇ……Aランクってのは嘘じゃねぇんだな……」
「組む気になったか?」
足を捕まれたままなのに男の体が浮き上がり……男の細い指が俺の顎を掴んで……頬に柔らかな感触。
「……は?」
突然の事に緩んだ手からすり抜けられた。
「これぐらいで獲物を掴む手を緩めるなんざ、Aランク冒険者様は意外に純情か?」
クスクス笑う男に頭に血が上る。
「ぜってぇ!!てめぇの口から仲間にしてくださいと言わせてやる!!」
「やれるもんならやってみな」
男はもう俺に興味はないとばかりに後ろ手に手を上げて鍋に向かい配膳を再開した。
ーーーーーー
俺の強さを見せつけるには魔物を狩ってくる事だろうと思い森の中で見つけた金ゴーレムを倒して奴らのキャンプ地まで運んだ。
全身、金で出来ているこいつの価値は見紛う事なくAランク。
見上げる奴らは目を輝かせているのに……あいつは……。
「俺、重いもん持つの嫌い」
その一言で終わらせやがった。
「あの……ギルバードさん……この金ゴーレムどうしたら……」
「いらん!!お前らにくれてやる!!次だ、次!!」
俺は急いで次の獲物を探しに走り出した。
あれも駄目、これも駄目……めぼしい魔物は狩り尽くした。
大してランクは高くないが手当り次第に貢いだ。
「こいつは丸々肥って旨そうだな」
奴が初めて興味を持ち、掴み上げたのは珠玉豚と一緒に捕まえたその辺にいた川鳥。
「運動して腹減ったろ?食ってけよ」
男は見惚れる手際で解体を始めた。
変哲のない焼いただけの川鳥の肉。
丁寧に下処理されたのだろう、特有の臭みは全くない。
「ああ……やっぱり美味いな」
「そうか……当たり前だな。俺の作ったもんがマズい訳ねぇ」
一瞬嬉しそうに笑った笑顔をギュッと口を結んで隠し横柄に言い放つも……その顔は真っ赤で。
な……何なんだよ!!その顔!!可愛すぎだろう!!卑怯すぎる!!
「俺の獲った獲物が良かったんだな!!」
やべぇ……何でこんなムキになってんだと自分でも不思議だったが……単なる性欲とかそんなんじゃなく、俺はこいつに……惚れてる。
次の獲物を探そうと森の中に戻ったが……ぼんやり川を眺めていた。
手の中には……花。
何でこんな乙女なもんを握ってんだと自分でも思ったが……その花を見てたら無性にあいつに渡したくなってしまった。
気付いてしまった自分の気持ちが気持ち悪い。
「俺は……恋する乙女かよ」
「……不愉快この上ない乙女だな」
突然背後から声を掛けられ……落とした花は川を流れていく。
「てめぇ気配を消して近づくんじゃねぇ!!悪趣味だろうが!!」
こいつの気配に気付かないぐらい気が抜けていたことを反省する。
「……て、何でお前がここに……」
「あ?俺と組むんじゃなかったのか?」
「へ……?」
こいつは突然何を言ってるんだ?
あんだけ俺と来るのをいやがってやがったのに……。
「メンバーにはちゃんと話して来た。お前が高ランクの魔物運んでくれたからなぁ……世話になった礼と突然抜ける詫びは出来た」
俺はこいつの手の上で転がされてた!!
全く気付かずに利用されてしまった。
「熱烈な求愛は重すぎるな……」
川の途中引っ掛かっていた花を奴が拾いあげた。
「誰が!!」
怒鳴り掛けた俺の鼻を奴の細い指が押す。
「良いんだぞ?俺に惚れてんなら素直に『愛してる』って言っても」
スカした笑顔に……てめぇの方こそ俺に惚れてんじゃねぇのか!?素直じゃねぇ!!
そうむかつきを覚えながらもあいつの口から発せられた『愛してる』って言葉にドキドキしてしまった。
押し倒し奴の上に覆い被さった。
「なんだよ?仲間になった途端……溜まってんの?」
こんな時にもこいつの態度は変わらない。
「しょうがねぇ……相手してやる」
首に回された細い腕に引き寄せられ……柔らかな唇が俺の口に重ねられた。
ーーーーーー
それから、何度も一緒にクエストを重ねた。
俺はますますあの男に惹かれていく。
飯を作る奴の横顔をじっと見つめる。
男同士じゃ結婚は出来ねぇ……恋人なんて細い糸みてぇな頼りないもんじゃなくて、あいつと俺を繋ぐ何かが欲しい。
あ~……子供でも産まれりゃあ、あいつとの関係ももっと深いものになれそうな気がするのになぁ……男同士でも子供を授かれる方法はないもんか……養子をもらうか?
駄目だ。
Aランクとはいえ収入の安定しねぇ冒険者じゃ親族以外だと養子の手続きに通らねぇ。
……せめて定住する場所でも決めるか。
数日後、立ち寄った田舎の街のギルドの老ギルド長から、後を引き継いでくれないかと急な打診があった。
弱いくせに偉そうにギルド職員に絡んでいる姿が情けなくて少々教育をしてやったのだが……どうも冒険者達からなめられているギルドの様で横暴な冒険者達が居座っているらしい。
ギルド長……定職だ。
俺は迷う事無くこのおあつらえ向きな話に飛びついた。
ーーーーーー
「へぇ……お前がギルド長ね……いいんじゃねぇ?お前顔が凶悪だし、番犬代わりになって」
俺に背を向けて眠る男の背後からその細い体を抱きしめている。
ユーリカは喉が渇いたのかベッドサイドに置いてある水に手を伸ばした。コップを取り……水が喉を通る様子に魅入った。
「お前はいつまで冒険者を続けるんだ?定職にはつかねぇのか?……他に能がねぇのか……痛っ!!」
俺の額にカードの角が刺さる。
奴のギルドカードだ。
裏を見ると資格がつらつらと書かれている。
鑑定士、解体士、二級魔導士、呪術士、薬学術士、鍛治士……謎の子守り免許なるものまである。
「お前……いくつ資格を持ってんだよ……」
「いろいろやってみたが、どれも熱くなれなくてな……どれも二流だ」
器用貧乏というやつか……。
なんでも器用にこなすなとは思っちゃいたが、ここまでとは。
「へぇ……こんだけあって調理師はねぇんだな……お前の飯うめぇのにな」
「……」
「ギルドの食堂で働いてくれりゃあ毎日お前の飯が食えていいなと思ったんだが……て、聞いてんのかよ」
喋らない男の肩を引き、無理やりこちらを向かせた……その顔は真っ赤に染まり恥ずかしそうに結んだ口元を歪ませている。
「な……何照れてやがる!!気持ちわりぃな!!」
手を離すとあいつは勢いよく蹲り顔を隠した。
「うっせぇ!!てめぇが先になれねぇ事言うのがわりぃんだろ!!もう寝る!!」
可愛すぎる素直じゃない恋人を後ろから思いきり抱き締めた……。
ーーーーーー
朝日が目に痛い……ついでに頭も痛い。
流石にやりすぎたか……重い体を奴にベッドから蹴落とされた。
「初日から遅刻する気か……さっさと行け」
そうか……職員になると言う事は時間通りに動かなけりゃいけねぇのか……。
もっと奴の体を撫でていたかったが……渋々準備をして玄関へ向かった。
「ああ……そうだ、待て……」
忘れ物でもしたかと立ち止まった俺の首に後ろから腕を回したあいつの吐息が耳をくすぐる。
「愛してるぜ……ギル」
頬に軽いキス。
「見送りなんて……なんか家族みたいでこっ恥ずかしいな」
好きだと言った方の負け……ぜってぇ俺から好きだなんて言ってやるもんかと意地になっていた俺は、愛してると言葉にしたユーリカに負けた。
この先もこいつには勝てる気がしねぇ。
こいつを離したくねぇ……本当の家族に……なりてぇなぁ。
「……いってくる」
「おう……いってこい」
いってらっしゃいの祝福を受けて、俺は新しい生活へ向かうための扉を開いた。
田舎の村に生まれ、大人でも俺に勝てる奴はいなかった。
魔物が出ればみんなが俺を頼りにする。
頼られるのは嬉しい。俺がこの街を守っているんだと思っていた。
だが……見た事のない魔物が村を襲った。
今までの魔物とは比べ物にならない腕力に吹き飛ばされ……俺が守ってやらなければいけないのに体が動かない。
目の前で村の人々が傷付いていく……一つ咆哮を上げて全身全霊の力を込めて魔物へ拳を叩き付けた……が魔物には効かず視界の端に魔物の拳が見える……死を覚悟したその時……。
「良く頑張ったな……後は任せろ」
立派な鎧を身につけた精悍な男の腕に助けられていた。
身の丈もある大剣を振り上げると俺があれだけ苦労した魔物を一刀両断した。
「あ……あんたは?」
「ああ、俺はギルドから派遣されてきた冒険者だ」
冒険者……。
特産も何もない辺鄙な村には冒険者が立ち寄る事なんて無かった。
そうして颯爽と現れ魔物を退治して去って行った。
冒険者……かっこいい!!
俺の中で冒険者への憧れは膨れ上がり、毎日山に籠っては魔物と戦う日々を過ごし成人を迎えた頃、俺は憧れの冒険者になる事を胸に村を旅立った。
ーーーーーー
請け負ったクエストを遂行中、森の中で他の奴らが魔物と戦っている気配があった。
気配を探ってみるとどうやら劣勢の様だ。
持ちつ持たれつ……手を貸してやるかと現場へ向かった。
倒れた男の上に両前足を持ち上げて踏みつぶそうとした魔物を炎で吹き飛ばした。
「大丈夫か?」
「ああ……すまない。助かったよ、あんたは?」
「通りすがりだ。ほらよ」
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周りではまだ戦いが続いている。
向かってくる魔物達を剣で払いながら……一人の戦いに目が止まった。
全ての攻撃をのらりくらりと避けながら蹴り一つで魔物を倒していく。無駄な攻撃は一切無い。
とにかく真っ向う勝負、殴り合い、殺し合いの俺とはスタイルが全く違う。
何より目を引いたのは……。
「へぇ無駄に綺麗な顔をした奴だな……あんたの女か?……おごっ!!」
突然、腹に重い衝撃が埋め込まれ。
それだけならまだ堪えれたが……スパーク。
腹に入れられた膝から全身に電流を流し込まれた。
目の前に火花が散る。
後ろに倒れていく視界の中で……。
チカチカキラキラ輝く花が……その顔を彩った……。
「あいて……」
目を覚まして後頭部を押さえる。
倒れた時に打った様だ。
「すみません……助けて頂いたのに仲間が……」
あの冒険者が覗き込んできた。
……中々人の良い奴らなようだ。
冒険者は荒くれが多い、隙を見せれば荷物を奪われる。
「普段は大人しくて気の荒い奴じゃないんですけど……」
頭をしきりに下げる。
どうやらこの男がリーダーの様だ。
……あの女は?
周囲を見回すとあの女が飯を作っていた。
「良かったら飯を食っていってください。あいつ料理が得意で……旨いですよ」
俺の視線に気付いたリーダーらしき男がにこにこと笑いかけてくる。
俺は料理が苦手でいつも干し肉を噛んで過ごす……温かな料理の気配に腹がなった。
リーダーから回されたスープに口をつけた。
……旨い。
何のへんてつもない野菜のスープだが……ほっと心が休まる。
クエスト中にこんな飯が食えたら……そりゃあ依頼もはかどる事だろう。
「俺はAランク冒険者のギルバードってんだ。てめぇ、俺と組む気はねぇか?てめぇとならもっと良い仕事ができそうだ」
飯を他のメンバーに配る女の腕を掴んだ。
「あ?突然だな。わりぃが今のメンバー気に入ってんでお断りだ」
しっとりとした声だが……低めのこの声は……。
「男!?」
俺の驚きに目の前の美人はニヤリと笑った。
「そういう事を期待されてたんなら悪かったな。他をあたれ」
女ならパートナーとして最高だと思ったが、男であってもこの飯は最高だ。
「……俺と組めば稼げるぞ?こいつらの何処が良いんだ?」
どうみても他のメンバーはCランク……Aランクの俺に誘われて断るとは……。
「あ~……こいつら遠出しねぇから……俺は戦闘とか苦手なんだわ」
「あんな蹴りと魔力を持っててか?」
「博愛主義だから、俺」
にっこりと嘘臭い笑顔で笑って返される。
俺は……どうしてもこいつが欲しくなった。
ここまでお願いして駄目なら……。
「リーダーの男を倒せば良いのか?それとも全員か?どうすれば俺と組む気になる?」
背後で他の奴らの悲鳴が上がる。
平和的にいきたかったが……手に入らないなら力で奪う……強者に許された特権。
「へぇ……何?あんた俺に恋しちゃったわけ?」
人を小馬鹿にした様にニヤニヤと見下ろして来る顔に、ビキッと青筋が立った気がする。
「は!!誰が!!そう聞こえんのはてめぇの願望じゃねぇの?俺に惚れて欲しいのかよ?どうしてもってなら抱いてやってもいいぞ?」
「誰がてめぇみてぇな脳筋肉ダルマ。暑苦しくてキモいだけだっつーの」
何処が大人しいんだ。
いきなり腹に蹴りを入れられた。
せっかく食べたものを出すのは勿体ねぇと口を抑えながら、ニ撃目を繰り出すその足を掴んだ。
流し込まれる電流を手に魔力を集めてガードする。
初見では油断したがパターンがわかれば受け流せる。
いきなり戦闘を始めた俺達を他の奴らはハラハラと見守っている。
「へぇ……Aランクってのは嘘じゃねぇんだな……」
「組む気になったか?」
足を捕まれたままなのに男の体が浮き上がり……男の細い指が俺の顎を掴んで……頬に柔らかな感触。
「……は?」
突然の事に緩んだ手からすり抜けられた。
「これぐらいで獲物を掴む手を緩めるなんざ、Aランク冒険者様は意外に純情か?」
クスクス笑う男に頭に血が上る。
「ぜってぇ!!てめぇの口から仲間にしてくださいと言わせてやる!!」
「やれるもんならやってみな」
男はもう俺に興味はないとばかりに後ろ手に手を上げて鍋に向かい配膳を再開した。
ーーーーーー
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見上げる奴らは目を輝かせているのに……あいつは……。
「俺、重いもん持つの嫌い」
その一言で終わらせやがった。
「あの……ギルバードさん……この金ゴーレムどうしたら……」
「いらん!!お前らにくれてやる!!次だ、次!!」
俺は急いで次の獲物を探しに走り出した。
あれも駄目、これも駄目……めぼしい魔物は狩り尽くした。
大してランクは高くないが手当り次第に貢いだ。
「こいつは丸々肥って旨そうだな」
奴が初めて興味を持ち、掴み上げたのは珠玉豚と一緒に捕まえたその辺にいた川鳥。
「運動して腹減ったろ?食ってけよ」
男は見惚れる手際で解体を始めた。
変哲のない焼いただけの川鳥の肉。
丁寧に下処理されたのだろう、特有の臭みは全くない。
「ああ……やっぱり美味いな」
「そうか……当たり前だな。俺の作ったもんがマズい訳ねぇ」
一瞬嬉しそうに笑った笑顔をギュッと口を結んで隠し横柄に言い放つも……その顔は真っ赤で。
な……何なんだよ!!その顔!!可愛すぎだろう!!卑怯すぎる!!
「俺の獲った獲物が良かったんだな!!」
やべぇ……何でこんなムキになってんだと自分でも不思議だったが……単なる性欲とかそんなんじゃなく、俺はこいつに……惚れてる。
次の獲物を探そうと森の中に戻ったが……ぼんやり川を眺めていた。
手の中には……花。
何でこんな乙女なもんを握ってんだと自分でも思ったが……その花を見てたら無性にあいつに渡したくなってしまった。
気付いてしまった自分の気持ちが気持ち悪い。
「俺は……恋する乙女かよ」
「……不愉快この上ない乙女だな」
突然背後から声を掛けられ……落とした花は川を流れていく。
「てめぇ気配を消して近づくんじゃねぇ!!悪趣味だろうが!!」
こいつの気配に気付かないぐらい気が抜けていたことを反省する。
「……て、何でお前がここに……」
「あ?俺と組むんじゃなかったのか?」
「へ……?」
こいつは突然何を言ってるんだ?
あんだけ俺と来るのをいやがってやがったのに……。
「メンバーにはちゃんと話して来た。お前が高ランクの魔物運んでくれたからなぁ……世話になった礼と突然抜ける詫びは出来た」
俺はこいつの手の上で転がされてた!!
全く気付かずに利用されてしまった。
「熱烈な求愛は重すぎるな……」
川の途中引っ掛かっていた花を奴が拾いあげた。
「誰が!!」
怒鳴り掛けた俺の鼻を奴の細い指が押す。
「良いんだぞ?俺に惚れてんなら素直に『愛してる』って言っても」
スカした笑顔に……てめぇの方こそ俺に惚れてんじゃねぇのか!?素直じゃねぇ!!
そうむかつきを覚えながらもあいつの口から発せられた『愛してる』って言葉にドキドキしてしまった。
押し倒し奴の上に覆い被さった。
「なんだよ?仲間になった途端……溜まってんの?」
こんな時にもこいつの態度は変わらない。
「しょうがねぇ……相手してやる」
首に回された細い腕に引き寄せられ……柔らかな唇が俺の口に重ねられた。
ーーーーーー
それから、何度も一緒にクエストを重ねた。
俺はますますあの男に惹かれていく。
飯を作る奴の横顔をじっと見つめる。
男同士じゃ結婚は出来ねぇ……恋人なんて細い糸みてぇな頼りないもんじゃなくて、あいつと俺を繋ぐ何かが欲しい。
あ~……子供でも産まれりゃあ、あいつとの関係ももっと深いものになれそうな気がするのになぁ……男同士でも子供を授かれる方法はないもんか……養子をもらうか?
駄目だ。
Aランクとはいえ収入の安定しねぇ冒険者じゃ親族以外だと養子の手続きに通らねぇ。
……せめて定住する場所でも決めるか。
数日後、立ち寄った田舎の街のギルドの老ギルド長から、後を引き継いでくれないかと急な打診があった。
弱いくせに偉そうにギルド職員に絡んでいる姿が情けなくて少々教育をしてやったのだが……どうも冒険者達からなめられているギルドの様で横暴な冒険者達が居座っているらしい。
ギルド長……定職だ。
俺は迷う事無くこのおあつらえ向きな話に飛びついた。
ーーーーーー
「へぇ……お前がギルド長ね……いいんじゃねぇ?お前顔が凶悪だし、番犬代わりになって」
俺に背を向けて眠る男の背後からその細い体を抱きしめている。
ユーリカは喉が渇いたのかベッドサイドに置いてある水に手を伸ばした。コップを取り……水が喉を通る様子に魅入った。
「お前はいつまで冒険者を続けるんだ?定職にはつかねぇのか?……他に能がねぇのか……痛っ!!」
俺の額にカードの角が刺さる。
奴のギルドカードだ。
裏を見ると資格がつらつらと書かれている。
鑑定士、解体士、二級魔導士、呪術士、薬学術士、鍛治士……謎の子守り免許なるものまである。
「お前……いくつ資格を持ってんだよ……」
「いろいろやってみたが、どれも熱くなれなくてな……どれも二流だ」
器用貧乏というやつか……。
なんでも器用にこなすなとは思っちゃいたが、ここまでとは。
「へぇ……こんだけあって調理師はねぇんだな……お前の飯うめぇのにな」
「……」
「ギルドの食堂で働いてくれりゃあ毎日お前の飯が食えていいなと思ったんだが……て、聞いてんのかよ」
喋らない男の肩を引き、無理やりこちらを向かせた……その顔は真っ赤に染まり恥ずかしそうに結んだ口元を歪ませている。
「な……何照れてやがる!!気持ちわりぃな!!」
手を離すとあいつは勢いよく蹲り顔を隠した。
「うっせぇ!!てめぇが先になれねぇ事言うのがわりぃんだろ!!もう寝る!!」
可愛すぎる素直じゃない恋人を後ろから思いきり抱き締めた……。
ーーーーーー
朝日が目に痛い……ついでに頭も痛い。
流石にやりすぎたか……重い体を奴にベッドから蹴落とされた。
「初日から遅刻する気か……さっさと行け」
そうか……職員になると言う事は時間通りに動かなけりゃいけねぇのか……。
もっと奴の体を撫でていたかったが……渋々準備をして玄関へ向かった。
「ああ……そうだ、待て……」
忘れ物でもしたかと立ち止まった俺の首に後ろから腕を回したあいつの吐息が耳をくすぐる。
「愛してるぜ……ギル」
頬に軽いキス。
「見送りなんて……なんか家族みたいでこっ恥ずかしいな」
好きだと言った方の負け……ぜってぇ俺から好きだなんて言ってやるもんかと意地になっていた俺は、愛してると言葉にしたユーリカに負けた。
この先もこいつには勝てる気がしねぇ。
こいつを離したくねぇ……本当の家族に……なりてぇなぁ。
「……いってくる」
「おう……いってこい」
いってらっしゃいの祝福を受けて、俺は新しい生活へ向かうための扉を開いた。
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続きを楽しみにお待ちしてます
コメントありがとうございます
現在別作品を執筆中にですので、その後もしこの話のその後を書く機会がありましたらよろしくお願いします
とっても面白かったです!どの人々も愛おしい素敵な物語有難うございました♪