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魔王の災厄

魔王の災厄

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「ラーンガルド!!落ち着け!!戻ってこいって!!」

ソファーに凭れる……と言うよりも崩れ落ちている俺をアルファドラゴンが見下ろしてくる。
俺の体から漏れ出る黒い霧がソファーを、床を飲み込んでその物の形もを不確かな存在へと変えて行く……。

「戻る必要あるか?あいつがあいつじゃないならもうどうだって良い……そもそもあいつは俺じゃなくて親父に会いにきてたもんな」

全て闇に飲み込まれて仕舞えば良い……。

「ああ!!もう!!これもオメガの策略かよ!!くそっ!!あんな災厄その物を送り込んできやがって!!わかった!!お前の勝ちでいい!!あれを呼んできてやるから落ち着けって」

「あいつはあいつだけどあいつじゃない……」

初めましてと言われた。
雄を誘う匂いをさせて……雄を誘う事に慣れた瞳で俺を見た。
様々な強い魔物の魔力を混ぜ込んだ魔力。

あれはもう俺のあいつではない。

「うおっ!?足が霧になる……ほら!!あれだ!!みんなの前で恥ずかしがってたのかもしれねえだろ?二人きりで話したら違うかも……呼んでくるから待ってろよ!!」

アルファドラゴンは散々騒いだ挙句、俺の返事も聞かずに部屋を出て行った。

もうそっとしておいて欲しい……このまま闇と溶けてずっと眠っていたい。

「魔王様!!アルファルドを連れてまいりました。何をしておる、早く入らぬか!!」

慌てたアルファドラゴンに急かされながらも、余裕があるのか一歩一歩……焦らすように入って来た青い瞳。

訝しむアルファドラゴンを退室させ二人きりになるが、淡い期待は淡いまま、あいつは何も変わる様子もなく余裕な笑みを浮かべて俺を見ている。俺に取り入り魔力を奪いこの世界の頂点に立つ気か、背後にいる魔物に俺の暗殺を命じられたか……。

「アルファルドと言ったな……お前は何処から来た」

「エシャーミルより」

エシャーミル?南の海……出会った場所、カカロン洞窟のあるホトルトの名を出しても反応は見せなかった。

「お前は俺の……では無いのか……」

「魔王様、この髪の毛一本から爪の先まで……全て貴方様の物です」

似ているだけか、過去の記憶を失っているか……それとも、そこまで完璧にしこまれてきたか。
青い瞳を潤ませ俺を誘うように見上げてくる。その瞳の奥が本当に嬉しそうに揺れているのまで演技かと思うと酷く腹立たしい。

目的はわからない……が、命を奪うなら奪えば良い……どうせお前がどういうつもりであれ、俺がお前に殺される事には変わりはない。それならば好きにさせてやれば良いか。

「面白い。お前の魅了魔法の本気を見せてみろ」

これだけあからさまに誘って来ておいて、動かない。
俺の出方を探っているのか、いまさら力の差に臆したか……切っ掛けを与えるように体を引き寄せ唇を重ねた。

固まった様に目を見開いて固まる体。
それすら演技かと思うとイライラするのに……間近で見る瞳はやはり美しく、あいつの体の色そのもので、愛する者を求める激しい思いが呼び起こされて体の奥底から湧き上がってくる。

舌に伝わる冷たい口内の感触……柔らかな舌はあいつの体の様だ。
「ん……んん……」

小さく震える体の滑らかさも俺の情欲を掻き立てる。

「魔王様にお召し上がりいただけるなら、今まで生きてきた事にやっと意味が生まれました」

「……よく仕込まれたものだ」

背後から腰を掴み。尻を向けさせる。解してやろうと指を差し入れると……指に触れる、中の感触は内臓の感触ではない。これは……スライム。

この体は作り物?中に入って本体が偽りの器を動かしているのか。

本物と見紛う体……誰が何のために……。
アルファルドという、少し腹立たしく思う名前と、アルファドラゴンの口にした『オメガ』の名前。
背後にいるであろう魔物の正体は分かったが目的はわからない。

かつての狂った恋人へ対する嫌がらせか、その恋人の子である俺に対する宣戦布告か。

こんなに狂おしくも美しい殺害予告なら真正面から受けてたとうじゃないか。
俺の魔力を吸い尽くしたいなら吸い尽くして仕舞えば良い。
もう俺は、目の前の美しい魔物の正体を疑う気持ちは消えていた……あるのはこの魔物に飲み込まれたいという欲求のみ。

前戯の必要は無しと確認し、俺は勃ちきった自分のモノをアルファルドの中に押し込んだ。
ひんやりと柔らかな感触が包み込んでまとわり付いてくる。このまま消化されて取り込まれるのも幸せだが、俺を消化するつもりはないようだ。

欲望のままに何度も突いて、スライムの体に自身のモノを無我夢中で擦り付ける。
スライムの痛覚は発達しておらず感覚は鈍いはずなのに、俺が動くたびに小さな声を漏らし、その体温を上げていく。

「ん……ん…ん……んんぅ」

欲しい……もっと、もっと、もっと……こいつの全てが欲しい。
こいつをもっと……余す事なく感じたい。

俺の激しい欲望を全て受け止めてくれるかの様に、一切拒絶の言葉を発する事なくアルファルドはただ俺を受け入れていた。

しかし俺の欲は尽きる事を知らず、受け入れてくれるだけでは満足せずに俺を求めて欲しいと叫んでいる。
もっと、もっと貪欲に俺の魔力、俺の体、俺の命全てを奪って欲しい。

限界に震えるモノの先から液体が漏れ出ていて、俺の手を濡らしたそれは、青い。
それはスライムの粘液……器が壊れてしまったかと確認しようとそのモノに触れた時……。

「んん……『魔王様っ!!』

アルファルドの体が弾けて、力を失った体はベッドに沈み込んだ。
弾けた体……余程興奮し膨張したのか、俺の精液を吸って成長したのか、器に収まりきらない体が器を破って飛び出した。

「お前……」

アルファルドの器の腰の亀裂からはみ出す触手がゆらゆらと揺れている。
嬉しそうに、愛おしそうに俺の体を求め触手を伸ばしては体を絡めてくる。

俺の頬に擦り付いて甘える、柔らかく滑らかなスライムの触手。

力を無くした器は機能を停止させているが、声が聞こえてくる。
取り繕い澄ました作られた声ではなく、小さな感情の籠もった心の声。

『これが気持ちよかったって事だよね……スライムってバレて追い出されるかも知れないけど、こんな幸せな思い出を貰えたし……後は陰ながらお守りさせてもらえたらそれで良いや……』

スライムとバレる事を恐れてこんな偽りの体を用意してまで……俺に会いに来てくれたのか。
俺と繋がった事を幸せと言ってくれるのか。

『魔王様はここにちゃんといるってわかったし……近くの山からご様子を伺いながら暮らそう……ごめんなさい……魔王様……』

離れようと心で語っているのに、離れたくないと言わんばかりに俺の体にしがみつく触手。

スライムは最弱の魔物……魔物と呼んで良いかも分からないほどのただ捕食されるだけ存在だ。
ここまでやってくるのにどれだけの目に合いながら生きて来たのか……。
俺に会うために……そう思うと目の前に横たわる器にすら愛着が湧く。

そのまま器から全て引きずり出してやろうかと思ったがやめておいた。
この器は感覚の鈍いスライムにも性感を与える様に嫌らしい設計がなされている。
器を作った主がどういう心情でその機能を持たせたかまでは分からないが、こいつを喜ばせてやれるなら使わない手はないか。

眠りに落ちたらしく、触手からも力が抜けてベッドの上にその体を崩させた。

お前は離れた場所で暮らそうとしている様だが……もう離してはあげないよ。

お前はこの俺を手に入れたんだ。

俺を生かすも殺すもお前次第。

それは、この世界を生かすも殺すもお前次第という事……。

最弱なスライムがこの世界の命運を握っていると誰が思うか。

この世の災厄となりうるスライムは、何の夢を見ているのかプルプルと小さく体を震わせていた。
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みんなの感想(3件)

🍵抹茶🍵
2023.07.24 🍵抹茶🍵

コメント失礼致します(♡ᴗ͈ˬᴗ͈)ペコリ。:.゚

可愛くて面白い!そして読みやすいしでついつい一気見しちゃいました😭✨
素敵な作品をありがとうございます´`*

それと質問(?)なのですが、あげた分身スライムくんのその後が気になってます( *´ `).。o○
やはり食べられてしまったのでしょうか?🤔

良ければお教え下さると嬉しいです(*´˘`*)

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麦と月
2021.02.21 麦と月

健気なスライムがとても可愛い。
時々描かれる情景も詩をうたう様で、綺麗だなと思いました。

藤雪たすく
2021.02.24 藤雪たすく

感想ありがとうございます。
不定期更新で進みがのんびりしていますが最後までお付き合いいただけましたら幸いです。

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ドゥ
2021.01.28 ドゥ

魔物に弟子入りして地道に強さを高めていくスライムの実直さが可愛くて大好きです!
出てくる師匠がみんな個性的で面白い🤣
ここからどうやって北の砦を任されるまでになったのかとても気になります。

藤雪たすく
2021.01.29 藤雪たすく

感想ありがとうございます!
この後、ゆらりのらりとスライムが出世街道を進んでまいりますので、そちらの章もお楽しみいただけたら幸いです。

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