好きになってしまいました

藤雪たすく

文字の大きさ
1 / 27
俺の話

崩れ落ちる城

しおりを挟む
「……うそやろ……」

バイトから帰って来ると……アパートが燃えていた。
懸命の消火活動が行われたが俺の小さな城だったアパートは真っ黒になって崩れ落ちた。

ーーーーーー

「災難だったなぁ。住人の火の不始末だって?まぁ、死者が出なくて幸いだったな」

バイト先である書店の店長が背中を叩いて来る。勢いで魂が抜けそう……。

「仮住まいあと4日で出ないと行けないんです……まとまったお金もないし……はぁ……」

いい条件の住まいがすぐに見つかると良いんだけど……。

「俺の家に泊めてやりたいが、年頃の娘がいるからなぁ」

「お気持ちだけでありがたいです……」

正直……店長のことは嫌いじゃないが店長の娘さんは苦手だ。
時々、店に来るけれどいかにも都会の女子高生って感じで苦手というか怖い。

憂いを残しながら仕事をこなし、午後からは不動産屋を回った。

敷金礼金無しで家具家電付き駅近で……。
そんな都合の良い物件はなかなか無い。

何件か回って貰って来た資料をその辺の喫茶店に入って見比べた。

「これは駅から遠い……これは流石に古すぎる……風呂無しはきついなぁ……」

駅近でなくても良いのだが、自転車も無いし、バイト先からあまり離れたくない。

服も全て失って、家財保険もすぐには入ってこないし、あんまり貯金は使いたくないな……。

「もう考えるのもだりぃ……」

夢は諦めて実家に帰ろうかなぁ……。

母親の小言は煩いけれど、実家ぐらしなら家賃は目を瞑ってくれるかもしれない。テーブルの上に突っ伏すと頭上から声がした。

「あれ……?山川?」

いきなり声を掛けられて、慌てて顔を上げると此方を覗き込むように立っていた店員さんは見覚えのある顔だった。

「…………都居といくん……」

キラキラビームを惜し気もなく振り撒く王子風のイケメン。
細身の身体に白いシャツと黒いギャルソンエプロンが良くお似合いだ。
くっ……足長いな。

……今、一番会いたくなかった人物かも。

気持ちが沈んでいる時に恵まれている人を見るのは辛いものだ。

専攻は違ったけど短大でも目立っていたので、こっちは知っていたが、まさか向こうも俺を知っていたなんて意外だ。

普段行くチェーン店のカフェがいっぱいだったから、勇気を出して洒落たカフェに入ったのが間違いだった。

「あ…………」

在学中、一度も会話したこと無いのに久しぶりって言うのも変だよな……何て返せば良いんだろ?

「俺の名前、知っててくれたんだ。嬉しいなぁ」

さらりとこんな会話が出来るとこも良い男の証しか。
正直言うと……都居くんはちょっと……かなり苦手なタイプだったりする。

「有名人だったから……都居くんここで働いていたんだね。知らなかった」

これからこの店は避ける方向で……。
サカサカと机の上に拡げたアパートの間取り図を集めて鞄にしまい込もうとして……腕を掴まれた。

「もう帰っちゃうの?折角なんだしさ、ゆっくりしていってよ」

「いや……コーヒー一杯でそんなに長居出来ないし……」

そもそも何が折角なんだ?

「じゃあ、もう一杯飲んでいってよ?俺が奢るし」

平日で店も混んで無い……必死に帰る言い訳を探す。

「ラテアートの練習中でさ。練習台になってくれたら嬉しいな」

キラキラ輝く目で「お願い」と囁かれ……。

「うぅ……ご馳走になります……」

そう答えてしまった。

ーーーーーー

うわっ!!可愛いっ!!

運ばれて来たコーヒーに思わず食いついてしまった。立体的な泡で出来たタヌキがこっちを見てくる。

「写真撮って良い!?」

「ははは……どうぞ?」

スマホ片手に写真を取りながらいろんな角度から眺める。

「可愛いぃ……すげぇなぁ……でもどげぇやって飲むやろ?」

可愛いけどこれは飲み物だ。
でもどこからどうやって飲むんだ?

「好きな様に飲んで?」

「えぇ~もったいねぇなぁ」

一口啜ると、飲み方が悪かったのか泡のタヌキはどんどん溶けていく。

「あぁ!!崩れちゃった……」

儚い芸術作品だったけど、愛らしいタヌキを見せてもらって、さっきまで絶望的な気分だったのが、ちょっと元気が出てきた。

都居くんはキャラに似合わず随分可愛らしい作品を作るんだな。
コーヒーの味はあまりわからないけど、なんか美味しい気がした。

閉店時間も近づいて来たので、もう良いだろうと伝票を持ってレジヘ向かうと……都居くんが慌ててやってきた。

他にも店員さんいるのに……あ、コーヒー奢りって言ってたからか。

「美味しかったし、ちゃんと払うよ。2杯分ちゃんと打ってね」

「奢るって言ったでしょ」

一杯分の代金を支払いレシートを受け取ろうとした手を軽く引かれ、耳元で囁かれた。

「もうあがりだから、店の前で待ってて……約束ね」

何故か強引に約束を押し付けられてしまった。

思いのほか普通に会話は出来たけど……帰ってしまいたい。
でも奢って貰った以上、無下にも出来ず店の前でウロウロしながら悩んでいると都居くんが出て来てしまった。

「お待たせ」

何気ない私服も眩しすぎるな。
これは一緒に歩きたくないよ。
あまりのキラキラっぷりに思わず目を背けた。

「折角の再会だしさ、夕飯まだなら飲みに行こう?」

だから何が折角なんだ?
再会を懐かしむほど共通の思い出は何も無い。

「ごめん……あんまりお金なくてさ……」

今はあまりお金を使いたくない……けして都居くんと飲みに行きたくないわけでは……ない。

「奢るよ。折角なんだからさ、ね?」

余裕のある人は良いなぁ……俺なんてカツカツで家事の事が無くても、人に奢る余裕なんて全く無いのに……。

「これ以上奢られる理由無いし……コーヒーご馳走さま。美味しかった……じゃあ」

ちょっとやさぐれながら踵を返したところを、後ろから首に腕を回される。

「じゃあ割り勘にするから!!それなら良いよね?さ、行こう!!」

そのままズルズル引き摺られるように連れられて来たのは個室の居酒屋。
高いんじゃ……と思ったけどリーズナブルな値段に胸を撫で下ろす。

「生で良いよね?あとは……」

強引な都居くんは適当に注文をしてくれている。こういう強引なの本当に……苦手。

メニューに隠れてため息を吐いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...