好きになってしまいました

藤雪たすく

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王子様の話

定番に胃袋から

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明け方、山川を起こさないように注意しながらお弁当を作った。

絶対に山川の胃袋を掴んでやる!!

学校の試験以上のやる気が出て、山川の好物は何だろうと幸せな想像を繰り返しながら弁当を作っていると、無意識におむすびがタヌキになってしまった。

続いて朝食の支度をして……入るなとは言われてないので、そっと山川の部屋の扉をあける。

ベッドで気持ち良さそうに眠る姿に心の奥から喜びが沸き上がった。

本当に山川と暮らせるんだ……。

ずっと遠くから想うだけだった存在が……1度は失ったと思った存在が、こうして手を伸ばせば届く場所にいる。

こんなに……こんなに幸せで良いんだろうか。ずっと見てたい。ずっと幸せに浸っていたい。

起こすの勿体ないなぁ……でも遅刻しちゃうしなぁ……。

暫く悩んだ挙げ句に、声を掛けて体を揺するとぼんやりと開いた目が俺を捉えた。

「おはよう、山川」

「……おはよ」

おはようって返ってきた!!

山川の代わりに相手をしてくれていた信楽焼のタヌキは何も答えてくれなかったのに!!

寝起きはあまり良くないらしく、ぼんやりした山川の手を引いて部屋を移動する。

「朝食出来たから一緒に食べよう?」

「朝食……」

「その反応……何時も朝食を食べてないでしょ?駄目だよ?ちゃんと食べないからこんなに痩せてるんだよ」

山川は寝ぼけているし、調子に乗って薄い腰を撫でたけど、嫌がる素振りは無い。無防備過ぎて心配になるよ。

山川が顔を洗っている間にオムレツを作ってテーブルに並べていると、キラキラした目で山川が戻って来た。

「すごい……朝からカフェのモーニングみたい」

「自分のカフェを開店するのが夢だからね。その為の学校だし」

掴みはバッチリだ。
料理を題材にした絵が多かったから好きなんだろうとは思っていたけど、効果絶大。

二人でいただきますをして……こんな些細な事で胸がいっぱいになる。

オムレツを口に運んだ山川は凄く幸せそうな顔を見せてくれた。

やっぱり食べることが好きなんだな……山川のイラストを見た時の様なほっこりとした気分になれた……が、山川が急にフォークを休めて黙り込んだ。

嫌いな物でも有ったかな……?

山川がちらりとこちらを見上げて来て、ドキッとする。何を言われるんだろう?

「都居くん……今度は作ってるとこもみたい」

「良いよ。山川も料理好き?」

……な……何だ、そんな事か。
ハラハラした。

「作るのは苦手だけど美味しい物が出来上がっていくのを見るのは好き。料理動画とか作らないけど、よく見てた」

……なにそれ。

美味しいって……そんなさらりと無自覚に俺の心を撃ち抜かないでよ。

「……そっか。じゃあ明日はもう少し早く起こすよ」

女の子と付き合ってた時にはもっとスマートにいけたのに!!
ニマニマと緩みそうな口許を必死に隠した。

「あ……そうだ。昨日布団の中で思ったんだけど……今日、バイト帰りに仮住まいの解約に行ってくるけど、ここは同居OKなの?面倒な事にならない?」

そうだ!!契約の更新に行かないと。
それにかこつけて……デートなんてしちゃったりしようかな……。

「大丈夫。契約時に同棲の可能性があることは伝えてあるし……山川は木曜日休みでしょ?一緒に契約の変更に行こう?」

その辺は抜かり無い。
いつ山川が引っ越して来ても良いように、前もって同居人が増える妄想……可能性があると伝えている。

山川は俺が同居予定の子にフラれたと思ったようで同情の目を向けてくる。

「……哀れみの目で見ないでよ。フラれてないよ」

「え?じゃあ、彼女ほっぽって俺が上がり込んで良いの?」

「山川だから良いの。ほら、遅刻しちゃうよ8時半には出ないと……」

他の人間なんてこの部屋にあげないし。
ここは俺が山川との未来を夢見て借りた部屋なんだから。

洗い物位やらせてと山川の申し出があって、山川の手が荒れるの嫌だなぁ……と思いながらも、荒れた手にハンドクリームを塗ってあげるのも良いなぁ……と言うわけでお願いした。

身支度を整える山川を観察する。
後ろ髪が跳ねてるけど、正面から見えないので気にならないらしい。

服が無いので、昨夜洗濯しておいた昨日の服を着てる。
俺の服を貸してあげられれば良かったんだけど……サイズが合わなかった。

デートしていっぱい買ってやろ。

登校時間なので弁当と合鍵を渡す。

「お弁当作ったし食べて?俺の方が帰り遅くなるだろうから合鍵渡しておくね」

「え?あ……ありがとう」

良いのかなぁって目線が弁当と俺の顔を往復した。

「料理作るの好きなんだ、趣味みたいなもんだから気にしないでね?」

山川に食べて貰えないと作った意味が無くなるじゃん!!

ここの場所が分からないと俺と一緒に出ようとする山川を止める。
ゆっくりしていて欲しいし……山川の職場と目と鼻の先に住んでいる理由を突っ込まれたら上手く誤魔化せそうに無いので一人で外に出る……ドアが閉まる瞬間。

「いって……らっしゃい……」

玄関の外、ドアにもたれ掛かって赤くなった顔を手で覆った。
いってらっしゃいって……いってらっしゃいって山川に見送られた。
ズルズルとその場にへ垂れ込んで……暫く動けなかった。

こんな言葉1つで情けないけど幸せで胸がいっぱいだ。

ーーーーーー

学校からバイト先への通勤路、つい癖で山川の住んでいたアパート跡の道を通ってしまった。

未だ立ち入り禁止になっているその前にぼんやり立ち尽くす、見慣れた後ろ姿。

「山川?」

「都居くん……?」

ゆっくりと振り返ったその瞳は……濡れてこそいなかったが今にも泣き出しそうな顔。

そんな顔しないで……失ったものを取り戻してあげる事は出来ないけど、新しい思い出ならいっぱいあげるから……。

そのまま消えてしまいそうな儚い姿を引き止める様に抱きしめた。

「都居くん……バイトの時間が……」

「もう少しだけ……」

山川が生きて俺の腕の中にいるという実感をしっかり味わいたい。

あまりにも自分に都合が良過ぎて、本当は……山川は火事で亡くなってて幽霊なんじゃ……なんてバカな想像をその温もりで打ち消して欲しい。

「都居くん本当にバイト遅刻しちゃうんじゃ……」

「山川はもう大丈夫?」

弱い自分を隠して山川の所為にする。

「俺?」

「泣いてる様に見えたから」

山川の目尻を指でなぞった。

「…………っ!?」

口をパクパクさせて固まっている。

「真っ赤になっちゃって山川、可愛い」

こんな山川を残して行くのは不安だけど、真面目な山川の前でバイトをサボる訳にも……。

「9時前には帰るから家で待っててね」

……バイト辞めようかな……でも現場の仕事は為になることも多いんだよな。後ろ髪を引かれながらバイトへ向かった。

ーーーーーー

消えてしまいそうだった山川の姿がいつまでも頭に残り気が気でない。そわそわして落ち着かず、隠しきれなかった様で店長に気付かれた。

火事で家を無くした友人と同居を始めたと簡単に伝えると、精神的なショックが大きいだろうから今は側で支えてやれと、早めに上がらせてくれる。

なんて気の良い人だろう。

「最近はお前のお陰で稼がせて貰ってるからな」

親指と人差し指で輪っかを作ってニッと笑ってくれた。

ーーーーーー

急いで家に帰ると、床をゴロゴロ転がっていた山川が足にぶつかった。なんて可愛さ、なんて生き物だよ。

でも良かった……ちゃんと居る。
元気そうで良かった。ほっと胸を撫で下ろす。

「夕飯作るけど山川食べた?」

「あ……ごめん。賄いとかあるのかと思って先に食べちゃった」

「そっか、残念。一緒に食べたかっ……た……」

キッチンに向かう途中、ごみ箱の中身に気付いて足を止めた。

「山川……夕飯ってこれ?」

ごみ箱に捨てられていたメロンパンの袋……他に何かを食べた形跡は無い。

「……ご……ごめん?」

取り敢えずって感じで謝る山川。
俺のご飯が量産のメロンパンに負けたみたいで悔しい。

キッチンへ向かい、すぐに冷蔵庫に有るものでパスタを作った。

「好き嫌いがある訳じゃないんでしょう?ちゃんとバランスよく食べないと……もう俺の前で菓子パン一個の夕飯なんて許さないからね」

ちょっと拗ねながら睨むと、山川はおずおずとフォークを持った。

「……いただきます」

パスタを口へ運び……ふわっと幸せそうに微笑んだ。

その笑顔で俺の心は天まで昇って行った。
俺のご飯をこんなに美味しそうに食べてくれる。
こんなに幸せで良いんだろうか?
食べるのも忘れて山川を見守る。

……山川は暫く夢中で食べてから、はっと手を止めた。

「あ……とっても美味しい……です」

「無理に言葉にしてくれなくても、そんなに幸せそうな顔で食べてくれたら美味しいって食べてくれてるの伝わるよ」

言葉にするのは苦手みたいだけど……これだけの笑顔を貰ってるから大丈夫……今日も明日も明後日もずっとその笑顔を見せて欲しい。

「明日は夕飯も作っておくからあっためて食べてね?」

真っ赤になって俯きながら頷いてくれた。

山川の体を作る物が全て俺の作った物になれば良いなぁ。
黙々と……でも幸せそうな顔で残りのパスタを食べてくれた。

ーーーーーー

しかし野生の子を手懐けるのはなかなか難しい。

洗濯機を使うのにも許可を求めて、飲み物も自分でペットボトルを買って常温保存してる。お金の事だって全然甘えて来ない。

俺は甘えて欲しいと言っているのに……。
どうしてもと言うならギブアンドテイクだ。

体を起こして、隣に座れと空いてる場所を叩く。腰をおろした山川の膝の上に頭を乗せて寝転んだ。

「とっ……都居くん!?何!?」

目に見えて動揺し、声が震えてる。

「どうしても甘えるだけが気になるなら……甘えさせて?」

手が伸ばして……まだ僅かに濡れた髪を鋤いた。

「もっと……俺に心を開いて?山川、俺に苦手意識持ってるでしょ?それを取っ払ってくれたら嬉しいなぁ」

「苦手意識だなんて……ここまでして貰って、もう無いよ!?」

もうって……素直だなぁ。
でも……昔よりは好きになってくれたよね?

「ふふ……やっぱり苦手だと思ってたんだ……」

「……ごめん」

「知ってた。だからどう声を掛けるか迷ってたんだもん」

「え……?」

見下ろしてくる山川の角度が新鮮。

キス……したら怒るかな?
キスしたい……エッチもしたい……ねぇ……何処まで許してくれる?

起き上がり、頬に触れて顔を近づけると、ギュッと堅く目を瞑り、肩が震えている。

……まだまだ……かな?

「お風呂行ってくる。先に寝てても良いよ」

耳元で囁くと山川は真っ赤になって固まっていた。

俺を見送る視線が、あの時向けられた嫌悪の目では無いことにほっとしてお風呂へ向かった。
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