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15.目覚めると
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包み込むような優しいあたたかさのなか、するりと肌を滑る心地よいシーツの感触に目を覚ます。
見知らぬ部屋の中で、どうやらここはベッドの上らしい。明かりの落とされた室内をベッド脇に置かれた暖色のルームランプだけがほんのりと照らしている。
慌てて飛び起きてもいいような状況だが、まだ身体は泥のように重く、うとうとと心地よい寝具の感触に身を任せたくなる。
「……目が覚めましたか?」
すぐ背中側から聞こえてきた声に驚いて、今度こそ俺ははっきりと覚醒する。伸ばされた手に髪を撫でられて、俺は思わず身を固くした。
「身体はつらくないですか、欲しいものがあったら持ってきます」
いつの間にか服が着替えさせられている。パジャマのサイズが大きくて袖が折り上げられていた。
「ここはどこだ」
「……僕のステイ先です」
「クリス、お前俺にアパートに住んでるって言わなかったか?」
俺はクリスに背を向けたまま唇を噛む。
こんな部屋に住んでいる人間がどうして食事に困るんだ。
ランプの明かりしかない部屋は薄暗いが、それでも内装が豪華でかなりの広さがあることは見て取れる。
「なんで俺をここに連れてきたんだよ?」
「……モリナガさんの具合が悪いから、看病をしようと思って」
クリスの言葉に、俺の感情のメーターが振り切れる。
「お前なッ、お前は看病しようと思う相手を無理やり家から引きずり出して連れてくるのか?」
俺は上体を起こし、そこでようやくクリスの顔を見た。
今までだったらほだされていたかもしれない、言葉を詰まらせ申し訳なさそうに眉尻を下げるその顔を見ても俺の怒りはおさまるどころか憎しみさえ湧いてくる気がした。
「それにな、なんなんだよここ! こんな家に住んでて金が無いわけないだろ?! どういうつもりか知らないけど俺を騙して楽しかったか?」
まさかこんな豪邸に見知らぬ留学生を住まわせるはずがない、身内か関係者の家なのだろう。それにさっき移動に使った車もタクシーではない、運転手つきの車を好きに出来るなんていったいどんなご身分なんだ。
あんなに綺麗だと思っていたクリスの瞳が動揺に揺れる。ひどい言葉を浴びせている自覚はあるが、それでも壊れた心から溢れる負の感情は止まらない。
「お前は嘘ばかりだ、ころっと騙された俺をお前は陰で笑ってたんじゃないのか?」
感情に任せて心にもないことを言っている自覚はある。クリスが悪意で俺に近づいてきたわけじゃないことはわかっている。
でも、クリスみたいな男がなんで俺なんかを好きだっていうのか、なによりクリスには他に大切な人がいるっていう不安があるせいで、クリスが嘘をついていたことで不信感が膨れ上がる。
恋人とか、好きだとか言われてその気になって……。それすら本気でなかったのなら、俺もクリスに群がる女と同じだったってことだ。
「笑ってなんかないです……っ、モリナガさんに近づきたくて嘘をついてしまったことは申し訳なく思っていました」
「へえ、あれで申し訳ないと思ってたんだ。大した演技力だな。好きとか愛だのいい加減なこと言って、こんなこと続けてるとお前そのうち刺されるぞ?」
「その気持ちに嘘はありませんっ、俺は本当にあなたのことを――」
その先の言葉を聞きたくなくて、すがるように掴まれた腕を乱暴に振り払う。
クリスは誰にでも優しいから、きっと本当に好きだったと言うに違いない。クリスの口からこれ以上嘘を重ねられるのを聞きたくない。
「そういうのもういいから、俺のことは放っといてくれ」
立ち上がりかけた俺の手首を、ギチリと軋む強さでクリスが掴む。
「あの男のところへ帰るんですか?」
「お前には関係な――……ッ!」
手首をひねられ肩に鋭い痛みが走る。
「どうしてですかっ、あなたも俺のことを特別に思ってくれていると思っていたのに!」
特別だなんて、もちろん思っていた。騙されていたと知って腸が煮えくり返るくらい。
「もしかしてオオバと付き合うことにしたから僕と別れたいんですか!」
見知らぬ部屋の中で、どうやらここはベッドの上らしい。明かりの落とされた室内をベッド脇に置かれた暖色のルームランプだけがほんのりと照らしている。
慌てて飛び起きてもいいような状況だが、まだ身体は泥のように重く、うとうとと心地よい寝具の感触に身を任せたくなる。
「……目が覚めましたか?」
すぐ背中側から聞こえてきた声に驚いて、今度こそ俺ははっきりと覚醒する。伸ばされた手に髪を撫でられて、俺は思わず身を固くした。
「身体はつらくないですか、欲しいものがあったら持ってきます」
いつの間にか服が着替えさせられている。パジャマのサイズが大きくて袖が折り上げられていた。
「ここはどこだ」
「……僕のステイ先です」
「クリス、お前俺にアパートに住んでるって言わなかったか?」
俺はクリスに背を向けたまま唇を噛む。
こんな部屋に住んでいる人間がどうして食事に困るんだ。
ランプの明かりしかない部屋は薄暗いが、それでも内装が豪華でかなりの広さがあることは見て取れる。
「なんで俺をここに連れてきたんだよ?」
「……モリナガさんの具合が悪いから、看病をしようと思って」
クリスの言葉に、俺の感情のメーターが振り切れる。
「お前なッ、お前は看病しようと思う相手を無理やり家から引きずり出して連れてくるのか?」
俺は上体を起こし、そこでようやくクリスの顔を見た。
今までだったらほだされていたかもしれない、言葉を詰まらせ申し訳なさそうに眉尻を下げるその顔を見ても俺の怒りはおさまるどころか憎しみさえ湧いてくる気がした。
「それにな、なんなんだよここ! こんな家に住んでて金が無いわけないだろ?! どういうつもりか知らないけど俺を騙して楽しかったか?」
まさかこんな豪邸に見知らぬ留学生を住まわせるはずがない、身内か関係者の家なのだろう。それにさっき移動に使った車もタクシーではない、運転手つきの車を好きに出来るなんていったいどんなご身分なんだ。
あんなに綺麗だと思っていたクリスの瞳が動揺に揺れる。ひどい言葉を浴びせている自覚はあるが、それでも壊れた心から溢れる負の感情は止まらない。
「お前は嘘ばかりだ、ころっと騙された俺をお前は陰で笑ってたんじゃないのか?」
感情に任せて心にもないことを言っている自覚はある。クリスが悪意で俺に近づいてきたわけじゃないことはわかっている。
でも、クリスみたいな男がなんで俺なんかを好きだっていうのか、なによりクリスには他に大切な人がいるっていう不安があるせいで、クリスが嘘をついていたことで不信感が膨れ上がる。
恋人とか、好きだとか言われてその気になって……。それすら本気でなかったのなら、俺もクリスに群がる女と同じだったってことだ。
「笑ってなんかないです……っ、モリナガさんに近づきたくて嘘をついてしまったことは申し訳なく思っていました」
「へえ、あれで申し訳ないと思ってたんだ。大した演技力だな。好きとか愛だのいい加減なこと言って、こんなこと続けてるとお前そのうち刺されるぞ?」
「その気持ちに嘘はありませんっ、俺は本当にあなたのことを――」
その先の言葉を聞きたくなくて、すがるように掴まれた腕を乱暴に振り払う。
クリスは誰にでも優しいから、きっと本当に好きだったと言うに違いない。クリスの口からこれ以上嘘を重ねられるのを聞きたくない。
「そういうのもういいから、俺のことは放っといてくれ」
立ち上がりかけた俺の手首を、ギチリと軋む強さでクリスが掴む。
「あの男のところへ帰るんですか?」
「お前には関係な――……ッ!」
手首をひねられ肩に鋭い痛みが走る。
「どうしてですかっ、あなたも俺のことを特別に思ってくれていると思っていたのに!」
特別だなんて、もちろん思っていた。騙されていたと知って腸が煮えくり返るくらい。
「もしかしてオオバと付き合うことにしたから僕と別れたいんですか!」
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