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第2話 ネコの目線

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「水に入れないアメンボ哀れ…。」
最近気になるアイツが、そう呟いたのを聞いた。しかも少しフッと小さな笑みを溢している。何て陰気な奴なんだと、話しかける前に呆れてしまう。

クラスメートは別教室で健康診断をうけに行っているので、私は教室で自主勉強の時間だ。
今自分しかいない静けさよ…。
つまんない!
そして窓から校庭を見る。目の高さまで木が伸びていて、下まで降りられそうだ。
そう思ったとき、校庭を歩いていく別行動している奴が見えた。

クラスで大抵いつも1人でいる大人しく自己主張をあまりしないやつ。最初は只そういう印象だった。

私の取り巻きの人間が、アイツに声をかけたことがある。
「こっち来て一緒に話さない?いつも教室眺めてるからさ。」
「…こういう有象無象な感じの空間に居るのって落ち着くなって思って。…だけど、1人で居るのが好き…。」
クラスが一瞬静まり返った。
話しかけた当人は、…そう。と言って何事も無かったかの様に元通り仲間たちと話し始めた。

変わった人間もいるとは思うが…コイツは怪しい。
この一件を皮切りに、クラスメートからは不思議ちゃんやら不気味な奴として注目されていることに当の本人は気づいて無いみたいだ。

アイツの見た目は、上下白色のセーラー服に溶け込むかのように髪も肌も色素が薄く、対象的に瞳は深淵を映しているかの様な黒色。

公表はしていないみたいだが、特徴的に何か小動物系の擬人化なのではないかと思っていたのだが…。

後をつけてプールに行ったとき、私に睨まれても怯まなかった。
小動物なら、私が近付いただけでも身体を強ばらせるというのに。

しかも、逆に真っ黒な瞳に吸い込まれそうで、何処か焦点が合わない目線によって平衡感覚を失うような錯覚にさえ襲われた。

しかもアイツよく見たら小枝みたいにガリガリで食べても全然美味しそうじゃない。
食べたりはしないけれど、"美味しそう"は私なりの賛辞のひとつだ。
自分の周りに寄ってくる人間でもアイツよりかは美味しそうだぞと思う。

しかし、そんなアイツに期待する。初めて私の事を恐れず、特別に見ない、対等に付き合える仲間に成りうる者なのではないかと。

私には自分について秘密がある。
真実を少しねじ曲げて公表している。
知られると今まで通りとはいかない気がする。アイツにも共通した所がある様に感じられ親近感を覚える。

自分の元の姿を知ったら、周りの目はきっと変わってしまうだろう─。
擬人化してから、孤独というものを知ってしまったのだ。

私の秘密を知ってもアイツが対等に接してくれる存在なのかどうかを知るために、
だから、私はアイツの正体を暴きたい─。
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