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第55話 文化祭 公開と後悔
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奈落から登ってきたミトは、抱えていたノブ子を元居た椅子にそっと座らせた。そして、私を真っ直ぐな視線で捉え、ズカズカと此方へと向かってきた。
「あ、謝りませんからね!」
あまりの迫力に、逃げそうになった私の腕を掴んで引き寄せた。
「こんな手の込んだサプライズ初めてだよ。お前には、いまから制裁と言う名のご褒美をやる。」
そして、強く抱き締められ、唇を奪われた。それは長い長い口付けだった─
まるで結婚式の誓いのキスの時の様に、客席から幾つもパシャパシャとフラッシュがたかれる音がした。
(こんな事になるなら、校内のモニターをジャックするんじゃなかった……)
目を見開いたまま、恥ずかしくて震えた。
ミトは、その間に私の着物の袂の部分に何かを入れてきた。
「私も詳しい事は知らねーけど、近々お前は此処を訪ねる事になるらしい……」
「なにそれ、訳が分からない!」
と、正気に戻った私はミトをつっぱねた。
「とりあえず、カーテンコール!!」
望月さんからの指示の元、終演のアナウンスが流れた。めちゃくちゃな劇だったのにも関わらず、いつの間にかプール場のフェンスの向こう側にも観客は集まってきていた。そして、沢山の拍手が贈られた。
「さて……観客たちの所へ行って、劇を台無しにした分のサービスをしに行くぞ!」
「仕方ないですね……」
それから、写真を一緒に撮ってあげたり、ハグしてあげたり。和菓子をあーん、させられたりした。ミトはサインを書いてあげたり、華会長の膝に座らされて嫌な顔をしていた。こんなにも盛り上がるなんて思ってもいなかった。
後々、林は風紀を乱す風紀部長として有名になり、学校からこっぴどく叱られる未来が待ち構えているのだった─
「私のアンチに間抜けな所を見せて、危険人物じゃ無いって伝えようとしてくれたんだろ?」
「だって……妖精さんが、あまりにも貴方に帰ってきて欲しそうだったから。」
「……ありがとな。だが、これは悪役で売ってる私に対する営業妨害だからな!」
「それも目的だったりします。」
「お前って相変わらず、回りくどいし、めんどくせー……」
と、ミトは苦笑した。
望月が怒りの表情で此方に向かってきた。
望月が作ったこの劇の台本は、演劇部が全国大会まで行った作品を原型が失くなる位まで改変させられたものだから無理もなかった。
「変更通りにも進まないし、酷い劇だった!!」
「巻き込んじゃって、本当ごめんな。」
「……ミトちゃんも酷いよ!林さんに、き、キスするなんて!!」
ああ、そうか。と、察しがついた。だから、望月に少しからかうような返答をした。
「林との絡みが見たいって、言ってたじゃん。」
「限度があるでしょ!!」
いつの間にか、望月の怒りの矛先が変化していた。
林は、初めてだったのに……と、誰にも聞こえない様に呟いた。
「何より悔しいのは、こんなに歓声が来てることだよ!林さんとミトちゃんの魅力だけで盛り上がって、僕の台本なんかいらないって言われてる様に感じた!」
「望月さんの全国大会での活躍は皆周知してますから、自信持って下さい!」
「……其より望月。一人称が出てるぞ。いいのか?」
それを聞いて慌てた様子の望月は、林の顔を伺った。
「望月さんって、本当は僕っ子というやつだったんですね!可愛いいから変えなくても良いのに。」
と、林は初めて出来た女友だちに親しみを込めて抱擁した。ミトは、否。と言おうとして止めた。だって、林にハグをされた望月は、何か言いたげにそわそわして顔を赤らめていたから。
(望月のやつ……本当は林に振り回されて喜んでんな。)
僕っ子って言うより、こういう奴の事、男の娘って言うんじゃなかったのかなと思った。面白そうだったから、自然にバレるまで放っておく事にした。
奈落の中で、ノブ子と久しぶりの会話をした。
「私と仕事どっちが大事?」
「それって……私が居なくてちょっとは寂しい思いしてくれたって事?」
連絡をあまりしなかったのは、仕事が忙しいだけじゃなくて、他の想いがあった。
「寂しいってもんじゃない……私の1日は、1年ぐらいに感じるのに……」
「知ってる。時間の流れるスピードが私とお前とでは違うこと─」
「パスワード、私が選んで欲しかった答えじゃなかった……」
素直になれない私の癖を利用して、林が意地悪な三択問題を出した。ノブ子を悲しませて、離れさせようとする作戦だったんだろうと思う。
(そんな事しなくても……ノブ子との距離は未だに縮まないのに……)
「ノブ子お姉ちゃん……大好き。だろ?」
正解の答えを言うと、ノブ子はパッと嬉しそうな表情をした。
「私も好き。だから、また会いに来てくれるよね?」
「いや……今度はノブ子から連絡して欲しい。お前から言わないとこっちからは会いに行かないから!」
私は意地を張った。ノブ子が自分の事を本当に好きなのか自信が持てなかった。今まで自分からノブ子を誘ってばかりだったし、ノブ子は、なんでも良いと言う。追いかけてきて欲しかった。
「……来てくれない?」
「ああ。だけど心配すんな。お前が助けてって一言言いさえすれば、いつでも飛んでいくさ。」
文化祭を見に来ていたアキヨシは思った。
(やっぱり虎も同性愛ってあるんだな……それとも、ミトちゃんが擬人化してからなのかな。)
「さあ、出番も終わりましたし、和風喫茶の運営はクラスの子に任せて、他の出し物へ皆で回りませんか?」
「僕も気晴らしに、連れていってよね!」
と不機嫌そうに言う望月は、本当は林と回りたいのだった。
「他のクラス何してるか、楽しみ。」
「ごめん。私はもう仕事に行く時間なんだ……」
ミトのいない文化祭を満喫した。その日以来、ノブ子は自分から連絡をする様にした。返信が返ってくる。嬉しい。だけど、気軽には会えない日々が続いてゆく……
学校の休み時間がやたら静かに感じた。いつも会いに来てくれていた彼女は、もうこの学校にはいない事に気がついた─
(何故か空虚感に殺されそう……)
「あ、謝りませんからね!」
あまりの迫力に、逃げそうになった私の腕を掴んで引き寄せた。
「こんな手の込んだサプライズ初めてだよ。お前には、いまから制裁と言う名のご褒美をやる。」
そして、強く抱き締められ、唇を奪われた。それは長い長い口付けだった─
まるで結婚式の誓いのキスの時の様に、客席から幾つもパシャパシャとフラッシュがたかれる音がした。
(こんな事になるなら、校内のモニターをジャックするんじゃなかった……)
目を見開いたまま、恥ずかしくて震えた。
ミトは、その間に私の着物の袂の部分に何かを入れてきた。
「私も詳しい事は知らねーけど、近々お前は此処を訪ねる事になるらしい……」
「なにそれ、訳が分からない!」
と、正気に戻った私はミトをつっぱねた。
「とりあえず、カーテンコール!!」
望月さんからの指示の元、終演のアナウンスが流れた。めちゃくちゃな劇だったのにも関わらず、いつの間にかプール場のフェンスの向こう側にも観客は集まってきていた。そして、沢山の拍手が贈られた。
「さて……観客たちの所へ行って、劇を台無しにした分のサービスをしに行くぞ!」
「仕方ないですね……」
それから、写真を一緒に撮ってあげたり、ハグしてあげたり。和菓子をあーん、させられたりした。ミトはサインを書いてあげたり、華会長の膝に座らされて嫌な顔をしていた。こんなにも盛り上がるなんて思ってもいなかった。
後々、林は風紀を乱す風紀部長として有名になり、学校からこっぴどく叱られる未来が待ち構えているのだった─
「私のアンチに間抜けな所を見せて、危険人物じゃ無いって伝えようとしてくれたんだろ?」
「だって……妖精さんが、あまりにも貴方に帰ってきて欲しそうだったから。」
「……ありがとな。だが、これは悪役で売ってる私に対する営業妨害だからな!」
「それも目的だったりします。」
「お前って相変わらず、回りくどいし、めんどくせー……」
と、ミトは苦笑した。
望月が怒りの表情で此方に向かってきた。
望月が作ったこの劇の台本は、演劇部が全国大会まで行った作品を原型が失くなる位まで改変させられたものだから無理もなかった。
「変更通りにも進まないし、酷い劇だった!!」
「巻き込んじゃって、本当ごめんな。」
「……ミトちゃんも酷いよ!林さんに、き、キスするなんて!!」
ああ、そうか。と、察しがついた。だから、望月に少しからかうような返答をした。
「林との絡みが見たいって、言ってたじゃん。」
「限度があるでしょ!!」
いつの間にか、望月の怒りの矛先が変化していた。
林は、初めてだったのに……と、誰にも聞こえない様に呟いた。
「何より悔しいのは、こんなに歓声が来てることだよ!林さんとミトちゃんの魅力だけで盛り上がって、僕の台本なんかいらないって言われてる様に感じた!」
「望月さんの全国大会での活躍は皆周知してますから、自信持って下さい!」
「……其より望月。一人称が出てるぞ。いいのか?」
それを聞いて慌てた様子の望月は、林の顔を伺った。
「望月さんって、本当は僕っ子というやつだったんですね!可愛いいから変えなくても良いのに。」
と、林は初めて出来た女友だちに親しみを込めて抱擁した。ミトは、否。と言おうとして止めた。だって、林にハグをされた望月は、何か言いたげにそわそわして顔を赤らめていたから。
(望月のやつ……本当は林に振り回されて喜んでんな。)
僕っ子って言うより、こういう奴の事、男の娘って言うんじゃなかったのかなと思った。面白そうだったから、自然にバレるまで放っておく事にした。
奈落の中で、ノブ子と久しぶりの会話をした。
「私と仕事どっちが大事?」
「それって……私が居なくてちょっとは寂しい思いしてくれたって事?」
連絡をあまりしなかったのは、仕事が忙しいだけじゃなくて、他の想いがあった。
「寂しいってもんじゃない……私の1日は、1年ぐらいに感じるのに……」
「知ってる。時間の流れるスピードが私とお前とでは違うこと─」
「パスワード、私が選んで欲しかった答えじゃなかった……」
素直になれない私の癖を利用して、林が意地悪な三択問題を出した。ノブ子を悲しませて、離れさせようとする作戦だったんだろうと思う。
(そんな事しなくても……ノブ子との距離は未だに縮まないのに……)
「ノブ子お姉ちゃん……大好き。だろ?」
正解の答えを言うと、ノブ子はパッと嬉しそうな表情をした。
「私も好き。だから、また会いに来てくれるよね?」
「いや……今度はノブ子から連絡して欲しい。お前から言わないとこっちからは会いに行かないから!」
私は意地を張った。ノブ子が自分の事を本当に好きなのか自信が持てなかった。今まで自分からノブ子を誘ってばかりだったし、ノブ子は、なんでも良いと言う。追いかけてきて欲しかった。
「……来てくれない?」
「ああ。だけど心配すんな。お前が助けてって一言言いさえすれば、いつでも飛んでいくさ。」
文化祭を見に来ていたアキヨシは思った。
(やっぱり虎も同性愛ってあるんだな……それとも、ミトちゃんが擬人化してからなのかな。)
「さあ、出番も終わりましたし、和風喫茶の運営はクラスの子に任せて、他の出し物へ皆で回りませんか?」
「僕も気晴らしに、連れていってよね!」
と不機嫌そうに言う望月は、本当は林と回りたいのだった。
「他のクラス何してるか、楽しみ。」
「ごめん。私はもう仕事に行く時間なんだ……」
ミトのいない文化祭を満喫した。その日以来、ノブ子は自分から連絡をする様にした。返信が返ってくる。嬉しい。だけど、気軽には会えない日々が続いてゆく……
学校の休み時間がやたら静かに感じた。いつも会いに来てくれていた彼女は、もうこの学校にはいない事に気がついた─
(何故か空虚感に殺されそう……)
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