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Case.03 Game
政都 中央地区α 二月十九日 午後二時二十六分
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暖かな日差しを若々しい青葉を付けた枝葉が調光し、テラス席は程よい明るさを保っている。
いつもと同じ席に座り、隣でホットケーキを頬張る飛鳥を横目にコーヒーを飲む。
「いやーあんな場所で疾風君と会うとはねぇ!俺の運もまだまだ尽きちゃいねーな!」
「いらん煽り吹っ掛けるから内心ハラハラでしたけどねェ、樹阪社長」
「悪い悪い、イタいトコ突っついたら簡単に退いてくれると思ったんだが。拳が飛んでくるのは計算外だった」
普段は疾斗が腰掛けている椅子でカラカラと笑う初老の男 ─ 樹阪 爛に毒づけば、反省のない謝罪を飛ばして前髪を搔き上げる。
都築の働いている整備会社の社長で現役整備士であり、見た目や調子こそ軽いが面倒見が良く、親しみやすさもあってか社員たちからの信頼は厚い。
同時に請負業務監視調査機関の東都支部機関長でもあり、頭の回転と記憶力は並大抵のものではないが、それ故に危険な橋を好んで渡ろうとすることが多い所がある。
「可愛らしい女性と里央が愛する奥方に暴言吐いてんの聞いたら黙ってられなくなっちゃって。気付いたら頭より先に口が動いちまったよ」
「だからってあんなオヤジの性癖ベラベラ言う必要はねえだろ、誰も聞きたかねェわ!」
数十分前まで国役所にいたのだが、意味のないクレームを付けていた男を止めようとした樹阪が口撃した結果、酷い逆鱗に触れて手を上げられたのだ。
疾風は咄嗟に相手の腕を掴み止めたものの暴れる訳にもいかず、抑え込んで警備員に引き渡し、提出書類の審査結果を聞かず出る羽目になった。
テーブル端に置いた携帯端末に目を落とすも、特に連絡は入っていない。
「しゃちょーさん凄かった!ぼくもあんな風にいっぱい話せるようになりたい!」
「おーそうかそうか!飛鳥もおいちゃんみたいになれるぞー?」
無邪気な希望に気を良くした樹阪が飛鳥の頭をグリグリと撫でる姿に重い溜息を吐く。
歳がまだ二桁に満たしていない少年の頭は、まだ物事に対して柔らかく対応し、何でも吸収が出来る時期だ。しかし此処で目前の男を見習われてしまったら、さぞかし捻くれた人間になり得るだろう。
それは面倒だと思い飛鳥を見れば、彼は不思議そうにこちらを見る。
眉を下げつつも口角を上げてやり過ごせば、勤務時間を終えた飛鳥の母 ─ 渚がテラス席へと顔を出した。
「新堂さんわざわざすみません、ありがとうございました」
「気にしないでください、この変人シャチョーと店に来る予定もあったんで」
「あれ、軽くディスられてる?おいちゃんカナシー」
「アンタのそういうトコが面倒くせェんだよ、社長…」
ホットケーキを食べ終えた飛鳥の頭を撫でれば、満面の笑みを浮かべて礼を言って円柱状の筒を抱いて母の元へと向かい泣き真似をしていた樹阪は人懐こい笑みに戻る。
手を振りながら店内へと戻っていく二人を見送り、傍に置いていた鞄から大型のタブレット端末を取り出すと、パズルゲームの様なアイコンを数回タップした。
「急に呼び出して悪かったな」
「構わねえさ、元々外に出る用はあったしよ。それに、俺らは政都と機関の呼出には応じる制約もある」
「あー…その制約は抜きで見て欲しいんだわ。なんつーか、内容的に依頼出来るもんかどうかも解らんから」
妙に濁す言動に首を傾げれば、眉を下げた機関長がカメラへ光彩を映してパネルへ掌を宛がう。
スライドパズルを起動していたソフトは瞬時に画面が暗転し、すぐさま膨大な文字数字の羅列へ変わる。慣れた手つきで検索バーへ何かを入力してから見せられたそれを覗くと、数名の名前と居住地区、更には請負業務依頼達成率が表示されていた。
「ここに表示されているのは最近請負業を始めた奴らだ。全員登録証は発行済みだから一般業務に携わる分には問題ないんだが、この内の二人がちょーっとばかし不審な所があってな」
「不審なら業務停止令出しゃ良いだけだろ?」
画面内に二つ目のウィンドウを開く男へ訊ねれば、苦々しげに目を細めつつ其々に男性と女性の画像を表示させる。
「出すに出せねー案件なんだよ。コイツらが引受ける仕事、成功失敗の線引きが難しい上に判断材料も少なくてよ…」
何処かで見覚えのあるその顔を思い出そうと顳顬を軽く打ちつつ、樹阪がスクロールする画面を見つめる。
業務代行請負業は、登録証取得から最低半年間は監視巡回を主として行う。
またそれ自体にも規定が決められており、一箇所一週間の巡回が終了後、次に同所の巡回を行うことが出来るのは一ヶ月後となっている。
機関長に見せられている二人は登録日が二ヶ月ほど前だが、業務受諾数は他の新人達と比べると二倍近くこなしており、その成功率は非常に高い。
「元々、複合遊戯施設…いわゆるゲーセンのスタッフだったらしくてな。それを活かしてもらって何箇所か巡回させてるんだが、週二回は必ず犯罪摘発しているんだよ」
「…同じ週に必ず二回、ってことか?」
「ああそうだ。大体はどっかで捕まった奴が出たらその店は噂になる。その分犯罪率は多少下がる筈なんだがな…」
東都は教育都区と呼ばれており、機関設備が充実しているため居住者数が多い。
そのため、都内数箇所にある複合遊戯施設はどれも広く、非日常的感覚に陥る程の娯楽環境故に羽目を外しすぎる者も少なくはないのである。
大型施設は新たな請負人達が監視巡回の基礎を知る場となっているのだが、犯罪であると云う線引きの判断材料は少ない。
そしてその難しさは調査機関の人間にとっても同じなのだろう。
現場を取り押さえた本人達が書類にまとめて提出している以上、彼は届けられた業務結果内容のみで判断せざるを得ない。
写真を指で小突き、どうしたものかと重く息を吐く様子に疾風は目を細める。
「…社長。その二人、今週は何処に?」
「北地区α、都内じゃ二番目にデカイとこだ」
「ならその案件、俺より疾斗に頼んだ方が良いかもな。何か解るかも知れねェ」
「何だ?疾斗の得意分野かなんかか?」
項垂れ気味だった樹阪の視線に軽く肩を竦めて携帯端末のスリープ画面を起動させる。
連絡通知がないことを確認した疾風は煙草を取り出して唇に挟み、ホログラムキーボードを立ち上げると、実弟へのメール文を書き始めた。
いつもと同じ席に座り、隣でホットケーキを頬張る飛鳥を横目にコーヒーを飲む。
「いやーあんな場所で疾風君と会うとはねぇ!俺の運もまだまだ尽きちゃいねーな!」
「いらん煽り吹っ掛けるから内心ハラハラでしたけどねェ、樹阪社長」
「悪い悪い、イタいトコ突っついたら簡単に退いてくれると思ったんだが。拳が飛んでくるのは計算外だった」
普段は疾斗が腰掛けている椅子でカラカラと笑う初老の男 ─ 樹阪 爛に毒づけば、反省のない謝罪を飛ばして前髪を搔き上げる。
都築の働いている整備会社の社長で現役整備士であり、見た目や調子こそ軽いが面倒見が良く、親しみやすさもあってか社員たちからの信頼は厚い。
同時に請負業務監視調査機関の東都支部機関長でもあり、頭の回転と記憶力は並大抵のものではないが、それ故に危険な橋を好んで渡ろうとすることが多い所がある。
「可愛らしい女性と里央が愛する奥方に暴言吐いてんの聞いたら黙ってられなくなっちゃって。気付いたら頭より先に口が動いちまったよ」
「だからってあんなオヤジの性癖ベラベラ言う必要はねえだろ、誰も聞きたかねェわ!」
数十分前まで国役所にいたのだが、意味のないクレームを付けていた男を止めようとした樹阪が口撃した結果、酷い逆鱗に触れて手を上げられたのだ。
疾風は咄嗟に相手の腕を掴み止めたものの暴れる訳にもいかず、抑え込んで警備員に引き渡し、提出書類の審査結果を聞かず出る羽目になった。
テーブル端に置いた携帯端末に目を落とすも、特に連絡は入っていない。
「しゃちょーさん凄かった!ぼくもあんな風にいっぱい話せるようになりたい!」
「おーそうかそうか!飛鳥もおいちゃんみたいになれるぞー?」
無邪気な希望に気を良くした樹阪が飛鳥の頭をグリグリと撫でる姿に重い溜息を吐く。
歳がまだ二桁に満たしていない少年の頭は、まだ物事に対して柔らかく対応し、何でも吸収が出来る時期だ。しかし此処で目前の男を見習われてしまったら、さぞかし捻くれた人間になり得るだろう。
それは面倒だと思い飛鳥を見れば、彼は不思議そうにこちらを見る。
眉を下げつつも口角を上げてやり過ごせば、勤務時間を終えた飛鳥の母 ─ 渚がテラス席へと顔を出した。
「新堂さんわざわざすみません、ありがとうございました」
「気にしないでください、この変人シャチョーと店に来る予定もあったんで」
「あれ、軽くディスられてる?おいちゃんカナシー」
「アンタのそういうトコが面倒くせェんだよ、社長…」
ホットケーキを食べ終えた飛鳥の頭を撫でれば、満面の笑みを浮かべて礼を言って円柱状の筒を抱いて母の元へと向かい泣き真似をしていた樹阪は人懐こい笑みに戻る。
手を振りながら店内へと戻っていく二人を見送り、傍に置いていた鞄から大型のタブレット端末を取り出すと、パズルゲームの様なアイコンを数回タップした。
「急に呼び出して悪かったな」
「構わねえさ、元々外に出る用はあったしよ。それに、俺らは政都と機関の呼出には応じる制約もある」
「あー…その制約は抜きで見て欲しいんだわ。なんつーか、内容的に依頼出来るもんかどうかも解らんから」
妙に濁す言動に首を傾げれば、眉を下げた機関長がカメラへ光彩を映してパネルへ掌を宛がう。
スライドパズルを起動していたソフトは瞬時に画面が暗転し、すぐさま膨大な文字数字の羅列へ変わる。慣れた手つきで検索バーへ何かを入力してから見せられたそれを覗くと、数名の名前と居住地区、更には請負業務依頼達成率が表示されていた。
「ここに表示されているのは最近請負業を始めた奴らだ。全員登録証は発行済みだから一般業務に携わる分には問題ないんだが、この内の二人がちょーっとばかし不審な所があってな」
「不審なら業務停止令出しゃ良いだけだろ?」
画面内に二つ目のウィンドウを開く男へ訊ねれば、苦々しげに目を細めつつ其々に男性と女性の画像を表示させる。
「出すに出せねー案件なんだよ。コイツらが引受ける仕事、成功失敗の線引きが難しい上に判断材料も少なくてよ…」
何処かで見覚えのあるその顔を思い出そうと顳顬を軽く打ちつつ、樹阪がスクロールする画面を見つめる。
業務代行請負業は、登録証取得から最低半年間は監視巡回を主として行う。
またそれ自体にも規定が決められており、一箇所一週間の巡回が終了後、次に同所の巡回を行うことが出来るのは一ヶ月後となっている。
機関長に見せられている二人は登録日が二ヶ月ほど前だが、業務受諾数は他の新人達と比べると二倍近くこなしており、その成功率は非常に高い。
「元々、複合遊戯施設…いわゆるゲーセンのスタッフだったらしくてな。それを活かしてもらって何箇所か巡回させてるんだが、週二回は必ず犯罪摘発しているんだよ」
「…同じ週に必ず二回、ってことか?」
「ああそうだ。大体はどっかで捕まった奴が出たらその店は噂になる。その分犯罪率は多少下がる筈なんだがな…」
東都は教育都区と呼ばれており、機関設備が充実しているため居住者数が多い。
そのため、都内数箇所にある複合遊戯施設はどれも広く、非日常的感覚に陥る程の娯楽環境故に羽目を外しすぎる者も少なくはないのである。
大型施設は新たな請負人達が監視巡回の基礎を知る場となっているのだが、犯罪であると云う線引きの判断材料は少ない。
そしてその難しさは調査機関の人間にとっても同じなのだろう。
現場を取り押さえた本人達が書類にまとめて提出している以上、彼は届けられた業務結果内容のみで判断せざるを得ない。
写真を指で小突き、どうしたものかと重く息を吐く様子に疾風は目を細める。
「…社長。その二人、今週は何処に?」
「北地区α、都内じゃ二番目にデカイとこだ」
「ならその案件、俺より疾斗に頼んだ方が良いかもな。何か解るかも知れねェ」
「何だ?疾斗の得意分野かなんかか?」
項垂れ気味だった樹阪の視線に軽く肩を竦めて携帯端末のスリープ画面を起動させる。
連絡通知がないことを確認した疾風は煙草を取り出して唇に挟み、ホログラムキーボードを立ち上げると、実弟へのメール文を書き始めた。
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