不殺のフィクサー 〜貴女のもとで働きます!〜

如月巽

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社員募集は強引に?

マトモな話のない世界 〜羽尻 由貴〜

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「昼までに運べっつーんならもっと早く言えってンだ、ったく」
 最後の木樽を倉庫内に置きつつ、文句を出す。
 オレぁ、羽尻はしり。フリーの運送屋みてーなもんだ。
運送屋っつっても、一般フツーブツ運ぶこたァ一割もねェけど。
…じゃあなに運んでんだって?聞いたってどーせわかんねーだろ、説明すんのもメンドクセーしパスパス。
 今持ってきたモン?あー…やたら重てェし中でガチャガチャ言ってっから、多分アレだろアレ。随分と量が多い上、テレビ漫画みてーなコトしてるあたり外行きなんだろうが、ンなこたオレにゃどうだっていい。間に合わせてやったんだ、子供の駄賃程度でも色付けて払いを貰いてーもんだ。
 組織についてねえ分、実績出して自分を売り込まねえと正直やって行けるモンじゃあない。が、今月は警察マッポ多くて身入りが少ねえし、トラック愛車の車検やら色々あったせいで食いもんに回す分があんまりだ。
ぶっちゃけこの一週間、バナナしか食ってねえ。
一日三食バナナだぞ。確かにうめェし品種ごとに味はちゃんと違ェけど、流石に保たねえよマジ。
今朝なんかバナナに埋もれる夢見て腹へって目が覚めるとかいう最悪さだった。そんぐらいバナナ食ってる。
 どっか入りゃあ食いっぱぐれることもねえだろうし、院に金入れてもアイツらに小遣いやれるだろうけど……きたねェ稼ぎ方してるのは自分がよくわかってっから、裏社会こっちを知らねェ子供ガキ達にそんなモン触らせちゃなんねェのもわかってる。
 何回かは真っ当は仕事に就こうと思ったが見てくれも良か無ェし、そもそも表の奴らみてーなキレイゴトが嫌いでこっちに入ったからすぐに断念したってのもある。

……ってオレは誰に言ってンだ、自分語りとかガラじゃねえ。あ、そーかバナナしか食ってねえから、思考力がダメになってきたンかもしんねー。
今日はこれで終いだしまともなメシ食おう。さすがにそろそろマジで舌がバカになる。

 指定された倉庫前に行けば、いかにもな格好をしたロン毛のイケすかねー顔したヤロウが「報酬だ」と茶封筒を投げ渡す。
 今まで仕事してきた中で一番金払いが良い。
 ただ、毎回毎回頼んでくる量はパねェ上に時間もギリギリ。他の奴らからもあんまりいい話は聞かねえ。
「今回も時間前に運んで頂いてありがとうございます。おかげさまで助かりました。次も」
「わりィけど、アンタからの仕事は今日限りにさしてもらうわ。一人家業で毎回コレじゃ身がもたねえ」



**********



 断ったら襲われる、そんなん当たり前の世界だ。
 タイマンか二、三人ぐれーだったらどうにでもなったけど、さすがに五人はきつかった。
 奴らが取引前にチャカぶっ放すほどのバカじゃなかったことが幸いして、なんとか撒いて、金も死守できた。
「……フツーの飯を食うのは明日だな」
 この傷だらけの顔身体じゃ、安い定食屋でも客がびっくりしちまうだろーし悪けりゃ通報モンだ。
 大人しく車ン中で残りのバナナ食って、夜までにマシになったらどっかのスーパーで赤札のつまみでも買おう。
 そんであとは──
「おいお前、羽尻 由貴ゆきだな」
「あ?」
 後ろから、女がフルネーム呼びしてきた。
下の名前まで言うんじゃねえよ、名前負けしてンだからよ。
 振り向いてみるとやたら肉付きのいい若そうなネーちゃんがこっちを見上げてる。
「羽尻 由貴だな、と訊いている」
「だったらなんだってんだ」
「うむ、人違いでなくてよかった。お前に来て欲しいところがあってな、探していた」
……なんだこの女。突然現れて勝手に満足そうに頷いて。変なやつ。
「探してくれたのにワリーけど、人と話してー気分じゃねえんだ。連絡寄越すから後にしてくんねーか?」
「そうなのか?これは悪いことをした」
「ワルイコト?」
「ああ、実はどうしても今日お前と話がしたくて」


トラックを先に運ぼうと思って、準備してしまったんだ。


 眉を下げた女の言ってる意味が解らない。
 指が示した方向へ顔を向けると、レッカー車がオレの愛車の車体を半分持ち上げていた。











………いやいやいやいやいやいや???!!!
意味不明すぎんだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?!
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