不殺のフィクサー 〜貴女のもとで働きます!〜

如月巽

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起業宣言は突然に

夜は騒がしさと共に 〜轆瀬 梓〜

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 上総さんとの内覧を終えて、必要な機材類を見て帰ろうと思ったら、外はもう真っ暗。
 時計を見たら時間的にはまだ夕方。
うむ、冬はやはり日暮れが早いな。昨日のごろつきに絡まれたから予定よりも遅くなったのもあるが、それはもう終わったこと。機材を見に行くのは明日にして、今日はもう帰ることにしよう。
 ゴミ捨て場を見たら上総さんに伸されたはずの奴らは居なくなっていた。
 うーむ…あの時間だからもしかすると回収屋が集めていったかもしれないな。私は何もしてないのに手を出してきたんだ、連れてかれても仕方ない。自業自得だ。
「梓さん、冷えるから上着着た方が良いよ」
「うむ、ありがとう。持ってきてくれてたのか」
「天気予報が[夕方から気温が下がる]って言っていたからね」
 そうだったのか、一緒に出掛けられるのが嬉しくて何も見てなかった。
 着せ掛けてもらったコートの前を閉じて、上総さんを見上げれば、少し眠そうに欠伸をして笑いかけてくれる。
「たまには外食して帰るかい?」
「良いのか?!実はすごくお腹が空いてしまっていてな、前に連れてってくれた[タイシューショクドー]に行きたい!」
「大衆食堂ね。わかった、じゃあそこにしよう」
 頭を撫でてくれたその手で私の手を繋いでくれる。
タイシューショクドーは、私にとって生まれて初めて美味しいと思った外食。
 見た目に派手さは全くないが、味は優しくて温かくて、心が緩まる。
高価な食事は確かに美味しいが、食材がどんなに高級でも、同じシェフに任せきりだから似たような味付けの料理が出てきたりするし。
 だいたい、お父様やお祖父様は人の食事まで選びすぎなんだ。私だって人間だぞ、小さい頃は普通に売ってるお菓子とか、縁日の屋台ご飯とか食べてみたかったんだ。
較べて上総さんは優しいなぁ。私が行きたいと言ったところに連れて行ってくれるし、色々教えてくれる。
 食べ過ぎの時は注意されるけど、理由も教えてくれるから分かりやすい。
 ええと、前に行ったのが3月頃だったから…半年以上ぶりか。今度は何を食べてみよう。許しがもらえたらお酒も頂きたいところだ。
 そんなことを考えながら上総さんの横を行こうとしたら。


「待ってもらおうかお二方」
……二度あることはなんとやらとは云うが。


「……なんだ、回収されたんじゃなかったのか」
「されてたまるか、連れて行かれたこと前提にしてンじゃねーぞ」
「チッ」
「待っていま舌打ちした?オンナノコ舌打ちした???」
「うるさい。私はいま、物凄く不機嫌なんだ」
 上総さんと外食が出来るから嬉しかったのに、一度ならず二度までも邪魔されて
履いていたヒールを脱いで、アスファルトをストッキング越しに踏んで、せっかく暖まってきていたコートも脱ぐ。
 裏社会に身を置いていて、その上その世界の上層にいる以上、こんな事はよくある。日常茶飯事と言っても過言ではない。
 よくあるのは確かだ。それはそうなんだが。
「二人でこの人数相手するってのか、アァ?」
「……上総さんは待っててくれ」
「解った。
 眉毛を下げながらコートを受け取ってくれる上総さんに頷く。
だってそうだろう?しつこい物はなんだって嫌われる。

 台所の落ちない脂汚れ。
 過剰なセールス勧誘。
 失恋間際の泣きつき。

 は、放っておくとなおのこと面倒になる。
 そうなる前に、徹底的に片付けなければ。
「おじょーサマ一人でや、ンがッ?!!」
「泣いても喚いても、お前達は絶対雇用してやらん」
何か言いかけていたようだが、気のせいだったか?
顎を小突いたくらいで吹き飛ぶとは……巨体はただのお飾りだったか。情けない。
「こ…っの、クソ女ァァァァァ!やっちまえやぁ!!」

ああ、結局こうなるのか。
ストッキング破れるくらいは良いが、今日の服はお気に入りなのだが…。



†  †  †



「───ゴミ捨て場に。すまないが頼む。……すぐ回収に来るそうだからそのままで良いって」
「そうか、なら良かった」
さすがの私でもこんなゴミの山を眺めて待つのは、苦痛だからな。
 まったく、最近の奴らは作法も引き際も分かっていなくて困る。
 面接の時にはしっかり見極めねばな。うむ。

─くきゅるるる…

「………お腹がすいた」
 靴を履きながら呟けば、「運動したからねぇ」と上総さんが上着をまた着せてくれる。
「今日はお祝いにお酒も良いよ」
「ホントか!」
「一杯だけね」
 口元で指を立てる上総さんに何度も頷いて、私達はお店へ向かうことにした。
あー、何食べようかなぁ。


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