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第2章

残されたもの

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 大きな神木は切り株が残り、泉は枯れ大きな穴があるだけとなっていた。

 神木はキレイに伐られている。よく見ると残った切り株には、ぽこっと何かが出ている。卵のようなキレイな透明の魔石だ。

 レイジュ様の魔石

 生命力があふれている魔石。世界樹の種だ。

 リリスは、今は空になった魔石の剣で切り株を掘り起こし、その中央に種を植え、土を被せた。すると干上がったレイジュ様の泉からまた温かい水が湧き出てきた。リリスは慌てて移動し、湧き出た水はあっという間にいっぱいになった。レイジュ様の泉は神木が無くなって、湯気の出ている大きな泉になっていた。

 リリスはおもむろに持ってきていたキースの剣で倒れている白い幹の神木を薪の形に伐っていく。キースがそれに加わり一緒に伐ってくれた。

 そしてその1つをバルの目の前に差し出した。
「これを森で焚いてほしいそうだよ。これで消え去った魔獣の供養をしてほしいって」
「レイジュ様が…」
「そう、なんかそうした方がいいってさ」
 白い薪は数千とある。これを世界各国に配って森でお焚火をする。


 リリスは、ぐにゃりとバルの胸に倒れた。慌ててバルはリリスを抱きとめる。リリスの顔は死人のように真っ青になっていた。魔力を使い果たしたのだ。まだ安定していなかった樽10杯の魔力でも力尽きた。リエが駆けつけリリスを連れ転移をし邸に戻った。

 リエはその後、泉に戻りバルと手分けをして数千の世界樹の薪を収納し、2人を邸まで運んだ。そしてバルは陛下に報告に行くとして城に戻った。リエも薪を庭に大量に吐き出した後、大量の収納と移動で魔力を使い果たし倒れてしまった。リエは次の日に目覚めはしたものの魔力が完全に戻るのに2・3日掛った。

 リリスの状態はもっとひどく1週間眠り続けた。

 リリスが目覚め、体力が戻ったのはすでに新緑が芽吹く、もうすぐ16歳になる頃だった。

バルが報告に来た。
「すっかり元気になっているな。目覚めたばかりの頃はゲッソリとなって真っ青な顔をしていたが…」
 目覚めて1週間ほど経った頃、バルが様子を見に来た。目覚めてから毎日収納してたレイジュ様の泉の水を飲むも魔力の戻りは遅く身体が重くてしばらく動けなかった。バルはその日、様子を見てすぐに帰ったのだった。それからは、王様やバルから滋養のいい食べ物やお菓子、たくさんの花が届けられた。


 神木の薪はレイジュ様の遺言通り、すべての各森でお焚き火として焚き上げた。国宝にしようと言う国が出ないように印を結んだ。

 すべてが終わって、世界樹は守られた。

 森はというと、伐った当日は森全体に竜巻が起こり豪雨が1日中続いたのだという。街や農場は結界が張っているため、色々と散乱はしたようだが大きな被害はなかった。ケガ人も少数だったことがわかっている。 
 バルはリリスから連絡を貰ったあの日、陛下に連絡をした後、1日で各教会やギルドに連絡をして住民たちに一応なにがあるのかわからない為、1日家から出ないようにと通達させていた。それを各国にもすぐに通達できるように連絡網を作成し1回の呼びかけで回るようにこの1年で仕上げていたのだ。そんなことを知らないリリスは「じゃあ明日ね」と気軽に予定を早めてしまったのだ。
 
 嵐が去って数日ほど経った頃、近くの森の様子を確認すると魔素は薄まり、狂暴な魔獣は見かけなかったとのこと。様子を見に行った冒険者たちは明らかに魔素が濃い森だった頃と、今の森の状態は違うと言う。数週間後には森の奥地にも冒険者での探検隊を送り込み魔素が薄まり狂暴な魔獣がいなくなっていることが報告された。それは世界各地でも同じだった。

 森に濃い魔素がなくなれば人は森に足を運ぶだろう。エトたちの薬草園もロゼの森の拠点もレイジュ様の泉もいずれ見つかってしまう。
 だが、それは仕方がない。誰のものでもないのだから。また1から歴史を作るしかないのだ。

 しかし、今の森の状態はここ数百年くらいのもので徐々にまた魔素は増えていくものらしい。世界樹があるから魔素が増えるのであれば世界樹をなくしてしまえば魔素は沈下するのではないかと、言う国もあったと聞くが世界樹が世界中の森の魔素を吸収して安定させているのだ。魔素が増えていくのは自然の摂理なのだ。そもそも世界樹がなくなれば精霊王も消える、という事は精霊も消えるのである。精霊が消えても魔法は使えないことはないが、力が弱まるだろう。

 街道の魔石はそのまま状態で保存することになる。また数百年かしたら魔素が増えて森が危険になる。そのまま引き継がねばならない。

 世界樹は2000年に1度、伐採する方針で各国の重鎮が集まる世界会議で決まった。

 ルクセルボルン王国のマクシミリアン王は、各国に今回5000年も放置していた為、もうあと数十年ほどで世界樹は枯れ、朽ち果てる寸前までいったのだ。世界樹だって人による管理が必要になる。世界樹は朽ちる前に人の手に寄って伐ってもらわねば枯れる。人もまた世界樹が無くなれば精霊王が消え、精霊も消え、そして魔法が弱まる。
 持ちつ持たれつの関係なのだ。伐採する方法はバルがきちんと記載している。

 今回はたまたま魔力が多い者がいた為、伐採できたがその者も伐った後に倒れたのだと説明した。その者は今では魔力が3分の1に減っていると説明をする。

 樽10杯が樽3杯になっただけだが…安定したともいう

 各国の重鎮たちが世界樹を救ってくれた者を知りたがった。ルクセルボルン王国のマクシミリアン王ですら会えていないと言っても信用してもらえずにいる。
 知っているのはバルだけだ。

 ルクセルボルン王国のマクシミリアン王は、世界の救世主に対して本人が望んでいないことを押し通すのは如何なものか、として各国の重鎮たちを黙らせた。
 しかしながら、魔力を3分の1に減らしてまで救ってくれたことに対して何かしたいと各国から申し出があり援助金が送られることになった。それは断れずに納得するしかなかった。

 余談ではあるが、各国にも精霊なしが数十年に数人ほど産まれていることがわかった。バルが各国に問い合わせて調べてもらったのだ。リリスの命で。

 ジョセフの魔石。精霊なしの魔力が封じられている魔石。透明な魔石。神木を伐った時の、あの剣と同じ物だ。ただの魔石の剣ではなく精霊なしの魔石だった。
 王妃のティアラ・ネックレス・イヤリングの3点の大きなダイヤモンドを「エリクサー」に付けると精霊なしの魔石に戻る。今回マクシミリアン国王が、王妃のダイヤを使いあの剣に魔力を移したのだ。

 今は紛れもない空の魔石の剣だが、精霊なしの魔力を剣に封じ、「エリクサー」に付ければダイヤモンドに変わる。で、また「エリクサー」に浸ければ透明の魔石の剣に戻るのだ。ダイヤモンドになったのは偶然だったようで、魔力が消滅しないようにするために開発されたのが「エリクサー」だったのだ。

 3000年も前になると記載方法があまりなく劣化し「エリクサー」が何のために作られていたのか分からなくなり、不老不死などの創作話が作られたようだ。

 歴代の国王には、口頭で受け継がれていた。
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