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昔のことを思い出していた。蒼太との出会いから想いが通じた日までのことを。
考えてみたら、どうして蒼太は俺のことを好きになったのだろう。告白は自分からだしどこが好きなのかも聞いたことがなかった。
自分の想いを受け入れてくれ、蒼太も俺を好きでいてくれたことがわかった瞬間は多幸感に溢れていた。それからの日々もただ一緒に居られるだけで幸せだった。でも、時々不安になる。
ハイスペックで非の打ち所がない彼の周りには常に人がいる。男も、女も。付き合い始めてからも嫉妬をすることは少なくなかった。でも女々しいなんて思われたくないし、困らせたい訳でもない。
俺には蒼太しかいない。蒼太がいなくなったらもう生きている意味もない。でも蒼太は違う。俺が居なくても生きていけるし、むしろその方が幸せになれる。こんなところに縛り付けていてはいけない人間だ。
俺は今日、自ら命を絶つことに決めた。俺はこの先蒼太を不幸にすることは出来ても幸せにすることはできない。彼を解放する。それが蒼太のためにしてあげられる唯一のことなのだ。
包丁を手に風呂場へと向かう。彼は今大学へ行っている。帰ってきたら風呂場が血だらけで、警察を呼んで、事情を聞かれて。迷惑にも程がある。しかしそんなことを考えて迷う余裕なんてなかった。もちろん死に対する恐怖が無いわけではない。でもこれでいいんだと言い聞かせ、震える手で包丁を握り直す。
「ばいばい、蒼太」
◇
「――蒼太?」
「あ、なんだっけ」
「だからこの後カラオケ行かないかって」
授業が終わり、荷物をまとめる。金曜であるためいつもより盛り上がる周りの会話が、遠く感じた。
急に陽向が恋しくなる。早く、今すぐに会いたい。毎日会っているし、そもそも一緒に住んでいるわけだが、何故か胸が騒いだ。
「ごめん、俺パス」
「蒼太はコイビトとお楽しみか」
間髪入れずに翔が茶々を入れてくる。
「何かあった?」
一方裕斗は心配そうに顔を覗き込んでくる。ぼーっとしているように見えたから気にかけてくれたのだろう。
この二人とはゼミが一緒で仲良くなった。小さくて元気な方が翔、大きくて優しい方が裕斗だ。相手が男だとは言っていないが、恋人ができたことは伝えていた。
「何でもないよ」
「そっか、じゃあまた来週」
二人とも良いやつだ。そういうことにもきっと偏見は持っていないだろう。タイミングがなかったただけで別に隠しているわけではない。いつか紹介して、陽向とも仲良くなって欲しいな。
そんなことを考えながら歩いていると、ケーキ屋が目に入る。記念日でも何でもないけどたまには良いだろう。
ショーケースには様々な種類のケーキが並ぶ。どれも美味しそうでしばらく迷った。やっとの思いで2つに絞り、会計を済ませる。外はもう日が沈みかけていた。
ケーキの入った箱を片手に、愛しい人の顔を思い浮かべる。陽向、喜ぶかな。
考えてみたら、どうして蒼太は俺のことを好きになったのだろう。告白は自分からだしどこが好きなのかも聞いたことがなかった。
自分の想いを受け入れてくれ、蒼太も俺を好きでいてくれたことがわかった瞬間は多幸感に溢れていた。それからの日々もただ一緒に居られるだけで幸せだった。でも、時々不安になる。
ハイスペックで非の打ち所がない彼の周りには常に人がいる。男も、女も。付き合い始めてからも嫉妬をすることは少なくなかった。でも女々しいなんて思われたくないし、困らせたい訳でもない。
俺には蒼太しかいない。蒼太がいなくなったらもう生きている意味もない。でも蒼太は違う。俺が居なくても生きていけるし、むしろその方が幸せになれる。こんなところに縛り付けていてはいけない人間だ。
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包丁を手に風呂場へと向かう。彼は今大学へ行っている。帰ってきたら風呂場が血だらけで、警察を呼んで、事情を聞かれて。迷惑にも程がある。しかしそんなことを考えて迷う余裕なんてなかった。もちろん死に対する恐怖が無いわけではない。でもこれでいいんだと言い聞かせ、震える手で包丁を握り直す。
「ばいばい、蒼太」
◇
「――蒼太?」
「あ、なんだっけ」
「だからこの後カラオケ行かないかって」
授業が終わり、荷物をまとめる。金曜であるためいつもより盛り上がる周りの会話が、遠く感じた。
急に陽向が恋しくなる。早く、今すぐに会いたい。毎日会っているし、そもそも一緒に住んでいるわけだが、何故か胸が騒いだ。
「ごめん、俺パス」
「蒼太はコイビトとお楽しみか」
間髪入れずに翔が茶々を入れてくる。
「何かあった?」
一方裕斗は心配そうに顔を覗き込んでくる。ぼーっとしているように見えたから気にかけてくれたのだろう。
この二人とはゼミが一緒で仲良くなった。小さくて元気な方が翔、大きくて優しい方が裕斗だ。相手が男だとは言っていないが、恋人ができたことは伝えていた。
「何でもないよ」
「そっか、じゃあまた来週」
二人とも良いやつだ。そういうことにもきっと偏見は持っていないだろう。タイミングがなかったただけで別に隠しているわけではない。いつか紹介して、陽向とも仲良くなって欲しいな。
そんなことを考えながら歩いていると、ケーキ屋が目に入る。記念日でも何でもないけどたまには良いだろう。
ショーケースには様々な種類のケーキが並ぶ。どれも美味しそうでしばらく迷った。やっとの思いで2つに絞り、会計を済ませる。外はもう日が沈みかけていた。
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