体の自由がきかなくなってしまった主人公が思い悩む話

兎月悠

文字の大きさ
3 / 6

3

しおりを挟む
 昔のことを思い出していた。蒼太との出会いから想いが通じた日までのことを。
 考えてみたら、どうして蒼太は俺のことを好きになったのだろう。告白は自分からだしどこが好きなのかも聞いたことがなかった。
 自分の想いを受け入れてくれ、蒼太も俺を好きでいてくれたことがわかった瞬間は多幸感に溢れていた。それからの日々もただ一緒に居られるだけで幸せだった。でも、時々不安になる。
 ハイスペックで非の打ち所がない彼の周りには常に人がいる。男も、女も。付き合い始めてからも嫉妬をすることは少なくなかった。でも女々しいなんて思われたくないし、困らせたい訳でもない。
 俺には蒼太しかいない。蒼太がいなくなったらもう生きている意味もない。でも蒼太は違う。俺が居なくても生きていけるし、むしろその方が幸せになれる。こんなところに縛り付けていてはいけない人間だ。
 俺は今日、自ら命を絶つことに決めた。俺はこの先蒼太を不幸にすることは出来ても幸せにすることはできない。彼を解放する。それが蒼太のためにしてあげられる唯一のことなのだ。
 包丁を手に風呂場へと向かう。彼は今大学へ行っている。帰ってきたら風呂場が血だらけで、警察を呼んで、事情を聞かれて。迷惑にも程がある。しかしそんなことを考えて迷う余裕なんてなかった。もちろん死に対する恐怖が無いわけではない。でもこれでいいんだと言い聞かせ、震える手で包丁を握り直す。
「ばいばい、蒼太」


        ◇


「――蒼太?」
「あ、なんだっけ」
「だからこの後カラオケ行かないかって」
 授業が終わり、荷物をまとめる。金曜であるためいつもより盛り上がる周りの会話が、遠く感じた。
 急に陽向が恋しくなる。早く、今すぐに会いたい。毎日会っているし、そもそも一緒に住んでいるわけだが、何故か胸が騒いだ。
「ごめん、俺パス」
「蒼太はコイビトとお楽しみか」
 間髪入れずに翔が茶々を入れてくる。
「何かあった?」
 一方裕斗は心配そうに顔を覗き込んでくる。ぼーっとしているように見えたから気にかけてくれたのだろう。
 この二人とはゼミが一緒で仲良くなった。小さくて元気な方が翔、大きくて優しい方が裕斗だ。相手が男だとは言っていないが、恋人ができたことは伝えていた。
「何でもないよ」
「そっか、じゃあまた来週」
 二人とも良いやつだ。そういうことにもきっと偏見は持っていないだろう。タイミングがなかったただけで別に隠しているわけではない。いつか紹介して、陽向とも仲良くなって欲しいな。
 そんなことを考えながら歩いていると、ケーキ屋が目に入る。記念日でも何でもないけどたまには良いだろう。
 ショーケースには様々な種類のケーキが並ぶ。どれも美味しそうでしばらく迷った。やっとの思いで2つに絞り、会計を済ませる。外はもう日が沈みかけていた。
 ケーキの入った箱を片手に、愛しい人の顔を思い浮かべる。陽向、喜ぶかな。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される

水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。 絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。 長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。 「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」 有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。 追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

絶対に追放されたいオレと絶対に追放したくない男の攻防

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
世は、追放ブームである。 追放の波がついに我がパーティーにもやって来た。 きっと追放されるのはオレだろう。 ついにパーティーのリーダーであるゼルドに呼び出された。 仲が良かったわけじゃないが、悪くないパーティーだった。残念だ……。 って、アレ? なんか雲行きが怪しいんですけど……? 短編BLラブコメ。

ビッチです!誤解しないでください!

モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃 「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」 「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」 「大丈夫か?あんな噂気にするな」 「晃ほど清純な男はいないというのに」 「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」 噂じゃなくて事実ですけど!!!?? 俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生…… 魔性の男で申し訳ない笑 めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

BLゲームの悪役に転生したら攻略対象者が全員ヒロインに洗脳されてた

BL
主人公のレオンは、幼少期に前世の記憶を思い出し、この世界がBLゲームで、自身は断罪される悪役だと気づく。 断罪を回避するため、極力攻略対象者たちと関わらないように生きてきた。 ーーそれなのに。 婚約者に婚約は破棄され、 気づけば断罪寸前の立場に。 しかも理由もわからないまま、 何もしていないはずの攻略対象者達に嫌悪を向けられてーー。 ※最終的にハッピーエンド ※愛され悪役令息

最可愛天使は儚げ美少年を演じる@勘違いってマジ??

雨霧れいん
BL
《 男子校の華 》と呼ばれるほどにかわいく、美しい少年"依織のぞ"は社会に出てから厳しさを知る。 いままでかわいいと言われていた特徴も社会に出れば女々しいだとか、非力だとか、色々な言葉で貶された。いつまでもかわいいだけの僕でいたい!いつしか依織はネットにのめり込んだ。男の主人公がイケメンに言い寄られるゲーム、通称BLゲーム。こんな世界に生まれたかった、と悲しみに暮れ眠りについたが朝起きたらそこは大好きなBLゲームのなかに!? 可愛い可愛い僕でいるために儚げ男子(笑)を演じていたら色々勘違いされて...!?!?

処理中です...