体の自由がきかなくなってしまった主人公が思い悩む話

兎月悠

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5 (蒼太視点)

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 陽向が好きだ。そう自覚したのは季節が変わり始めた頃だった。一緒に過ごす時間が増え、彼の様々な表情を知っていく。その中でも時々向けられる屈託のない笑顔は、独り占めにしたいという欲を覚えさせた。
 しかし、もっと前から好きだったのかもしれない。入学して間もない頃、通学中に大荷物のおばあさんに手を貸している姿を見かけてから彼のことが気になっていた。それから一生懸命にノートをとる姿を視界の隅に捉えるようになったのだ。

「蒼太?どうした?」
「え?」
 後ろの席に座っていた陸に声をかけられる。授業後、席からしばらく動かない俺のことを不思議に思ったらしい。ついでに最近ぼーっとしていることが多いと指摘された。
「今日ひろたちと飯行くんじゃなかったの?」
 そうだった。早く片付けなければ。せっかく声をかけてくれたのだから一緒に来るかと尋ねる。
「お誘いありがと!でもこの後予定があるから」
「そっか、じゃあまた!」
「うん、何かあったら話聞くから」
 ヒラヒラと手を振って教室から出ていく。彼は翔の高校からの同級生で、同じ授業を取っていることもあり仲良くなった。深く詮索はしないが困っていると手を差し伸べてくれる善人だ。
 自分も行かなければ。時計を見ると約束の時間が迫っていた。
 大学から近く安いため結構な頻度で通うラーメン屋。暖簾をくぐると既に2人が座っていた。
「やっと来た!醤油でいい?」
 その問いかけに頷くと、大将!と、翔が3人分を注文してくれる。メニューにあるものはコンプリートしたが、やはり定番の醤油ラーメンが最も美味しかった。

「なぁなぁ陸、どう思うよ」
 先程まで一緒に居た人物の名前に視線を上げる。
「どうって?」
「あれ、恋人できたよな」
 翔曰く、放課後の誘いを断られることと携帯を見る頻度が増えたらしい。
「バイトとかじゃないの?」
「いや、あの目は恋してる目だね」
 …らしいが、どうなんだろうか。自分は陸と一緒にいる時間が長くないからわからない。でも、あの性格ならきっとモテるだろう。恋人がいてもおかしくはない。
「あいつ良い奴だからな~、幸せになって欲しいけどちょっと寂しい」
 嘘泣きをする翔を裕斗が慰めている。
 2人にもいつか恋人ができるだろう。そうしたらこうやって集まることも減るのだろうか。それはちょっと寂しいかもな。
「蒼太の好きな子は誰なの?」
「へ?」
 まるで好きな人が居る前提の質問に素っ頓狂な声が出る。
「最近ぼーっとしてることが多いけど、いつもちょっと幸せそうだから、居るのかなって」
「さすがにわかるよ。多分相手の予想も合ってると思う」
 裕斗が翔と俺の顔を交互に見る。俺の、好きな人。どう答えていいのか分からず黙っていると、自信ありげな表情と期待を込めた眼差しを向けられ困惑する。
「俺からは言えないよ」
 自分の方で止まった裕斗の顔を、こっち見るな、と翔が正面に向ける。両頬をつぶされたままの裕斗はいつか教えてねと笑う。
「蒼太も恋人ができちゃうかもなのかぁ」
「また寂しくなるな、もういっそ俺たちで付き合っちゃう?」
「まさか~」
 2人は楽しそうに談笑しているが、その内容はほとんど右から左へと流れていってしまった。
「何かあったら相談しろよ!ちょっとだけ力になってやるから!」
 気づいたら解散の流れになっていた。
 確かに気になっている人物は居る。でもそれは恋愛対象として見ているのだろうか。
 結局遅刻をしてきた初回授業で、彼はおばあさんの事を伝えなかった。教授にただの寝坊だと謝る姿が今でも鮮明に思い出される。そんな彼の自己犠牲的な優しさから目が離せなくなってしまった。
 たくさん会いたい。笑ってくれると嬉しい。他の人と楽しそうにしているのを見ると胸が苦しくなる。
 あぁ、俺は陽向の事が好きなんだ。思い返してみたら答えは簡単だった。こんなにも頭の中が彼ばっかりのくせして、どうして気づかなかったのだろうか。
 1度腑に落ちてしまえばそれからは早かった。たくさん遊びに誘って、自分をアピールして。少しでも意識してもらおうと必死だった。
 好きになってしまったらとことん好きだし、欲を言えば相手にも好きになってほしいと思う。もし上手くいったとして今後少なからず立ちはだかるであろう他者の目。しかし、その心配が二の次になるくらいには陽向に夢中だった。
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