それは奇妙な町でした

ねこしゃけ日和

文字の大きさ
7 / 69

7

しおりを挟む
 喫茶店で偶然会ったおじさんに事情を話すと苦笑された。
 なんでもバスはついさっき出たばかりだという。俺が見たのはどうやら平日の時刻表で、今日は土曜。その横の欄を見なければならなかった。
 間抜けな俺を憐れんだのか、そのおじさんは暇だからと車で猫神町まで送ると言ってくれた。
 悪いとは思ったが次のバスは三時間後。待っているのもなんなので好意に甘えることにした。
「ありがとうございます」
 軽トラの助手席でお礼を言うと頭にタオルを巻いた無精髭のおじさんは笑いながらかぶりを振った。
「いいよいいよ。気にしないで。それにねこにはよくしとくもんだ」
 どうやら送ってくれるのはパパのおかげらしい。
「やっぱりさっきの町でもそういう信仰が?」
「いいや。あんなのは猫神町だけだ。普通の町でやったって誰もついてこないよ。ただあそこは町って名前だけど実際は村みたいなもんでね。全員知り合いの狭い社会だからあんなことができる。特に年寄りは猫神伝説を信じてる人が多いからな」
「猫神伝説?」
「よくある話さ。悪いことすると神様に罰を受ける。その神様があそこじゃねこなんだ。詳しいことは知らないけど町のどこかに伝説を解説した看板があるよ」
「ああ。観光地とかによくある」
「そうそう。知りたいならそれを読んだらいい」
 行ったら見ておこう。資料になるかもしれないし、写真も撮っておいた方がいいな。
「変な町だよ。こっちの人であそこに住みたがる人はまずいない。町長がどんどん訳の分からん条例を作っていくしな」
「そんなに変なんですか?」
「まあ、行けば分かるよ。説明するより体験した方がいい」
 おじさんはイタズラっぽく笑う。どうやら俺を驚かせたいらしい。
 話をしていると前方に古いトンネルが見えてきた。たしかトンネルが通ってる山を越えれば猫神町だ。
「元は冬になると雪で閉ざされた村でねえ。あのトンネルができるまでは村と村の行き来も大変だったそうだ。でも角栄が日本列島改造論だかを言い出して、あそこにトンネルを作ったんだ。それで出入りが楽になった。でもうちのばあちゃんの話じゃあれができる前からあっちの住民は冬もこっちに来てたらしい。どうやってかは知らんが、きっと地元の人間だけが知ってる道があるんだろう」
「あの山を越えてたんですか? かなり険しそうですけど」
「昔だからねえ。それくらい普通だったのかもなあ。地元の人しか知らない山道もたくさんあるし、きっとそこを通ったんだろう。戦争の時もあっちの住人がこっちの町にあった軍需工場に駆り出されてたって話もある。けどこっちからはほとんど行かないせいで変な風習が知られないままでな。猫神町では温泉が出るんだが、トンネルが通って行ってみるとみんな驚いたらしい」
「それってねこを敬うからですか?」
「ありゃやりすぎだがね。あそこじゃねこが神様なんだ。尻尾でも踏んでみな。村八分にされるぞ」
「まさか」
 俺は冗談だと思って笑っていたが、おじさんの顔は真面目だった。
「……本当なんですか?」
「最悪捕まるかもな。そうじゃなくても追い出される。だからそいつを大事にするんだ。でないとどうなっても知らないぜ」
 おじさんの忠告は随分と真剣さがあった。
 送ってくれたのもねこを連れて困っている俺を無視したなんてことが町の人に知られたら二度と猫神町に入れないと考えたからかもしれない。
 この予想が合っていたならとんでもない町に向かっていることになる。
 そんな後悔がよぎった時には車はトンネルへと入っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

処理中です...