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喫茶店で偶然会ったおじさんに事情を話すと苦笑された。
なんでもバスはついさっき出たばかりだという。俺が見たのはどうやら平日の時刻表で、今日は土曜。その横の欄を見なければならなかった。
間抜けな俺を憐れんだのか、そのおじさんは暇だからと車で猫神町まで送ると言ってくれた。
悪いとは思ったが次のバスは三時間後。待っているのもなんなので好意に甘えることにした。
「ありがとうございます」
軽トラの助手席でお礼を言うと頭にタオルを巻いた無精髭のおじさんは笑いながらかぶりを振った。
「いいよいいよ。気にしないで。それにねこにはよくしとくもんだ」
どうやら送ってくれるのはパパのおかげらしい。
「やっぱりさっきの町でもそういう信仰が?」
「いいや。あんなのは猫神町だけだ。普通の町でやったって誰もついてこないよ。ただあそこは町って名前だけど実際は村みたいなもんでね。全員知り合いの狭い社会だからあんなことができる。特に年寄りは猫神伝説を信じてる人が多いからな」
「猫神伝説?」
「よくある話さ。悪いことすると神様に罰を受ける。その神様があそこじゃねこなんだ。詳しいことは知らないけど町のどこかに伝説を解説した看板があるよ」
「ああ。観光地とかによくある」
「そうそう。知りたいならそれを読んだらいい」
行ったら見ておこう。資料になるかもしれないし、写真も撮っておいた方がいいな。
「変な町だよ。こっちの人であそこに住みたがる人はまずいない。町長がどんどん訳の分からん条例を作っていくしな」
「そんなに変なんですか?」
「まあ、行けば分かるよ。説明するより体験した方がいい」
おじさんはイタズラっぽく笑う。どうやら俺を驚かせたいらしい。
話をしていると前方に古いトンネルが見えてきた。たしかトンネルが通ってる山を越えれば猫神町だ。
「元は冬になると雪で閉ざされた村でねえ。あのトンネルができるまでは村と村の行き来も大変だったそうだ。でも角栄が日本列島改造論だかを言い出して、あそこにトンネルを作ったんだ。それで出入りが楽になった。でもうちのばあちゃんの話じゃあれができる前からあっちの住民は冬もこっちに来てたらしい。どうやってかは知らんが、きっと地元の人間だけが知ってる道があるんだろう」
「あの山を越えてたんですか? かなり険しそうですけど」
「昔だからねえ。それくらい普通だったのかもなあ。地元の人しか知らない山道もたくさんあるし、きっとそこを通ったんだろう。戦争の時もあっちの住人がこっちの町にあった軍需工場に駆り出されてたって話もある。けどこっちからはほとんど行かないせいで変な風習が知られないままでな。猫神町では温泉が出るんだが、トンネルが通って行ってみるとみんな驚いたらしい」
「それってねこを敬うからですか?」
「ありゃやりすぎだがね。あそこじゃねこが神様なんだ。尻尾でも踏んでみな。村八分にされるぞ」
「まさか」
俺は冗談だと思って笑っていたが、おじさんの顔は真面目だった。
「……本当なんですか?」
「最悪捕まるかもな。そうじゃなくても追い出される。だからそいつを大事にするんだ。でないとどうなっても知らないぜ」
おじさんの忠告は随分と真剣さがあった。
送ってくれたのもねこを連れて困っている俺を無視したなんてことが町の人に知られたら二度と猫神町に入れないと考えたからかもしれない。
この予想が合っていたならとんでもない町に向かっていることになる。
そんな後悔がよぎった時には車はトンネルへと入っていった。
なんでもバスはついさっき出たばかりだという。俺が見たのはどうやら平日の時刻表で、今日は土曜。その横の欄を見なければならなかった。
間抜けな俺を憐れんだのか、そのおじさんは暇だからと車で猫神町まで送ると言ってくれた。
悪いとは思ったが次のバスは三時間後。待っているのもなんなので好意に甘えることにした。
「ありがとうございます」
軽トラの助手席でお礼を言うと頭にタオルを巻いた無精髭のおじさんは笑いながらかぶりを振った。
「いいよいいよ。気にしないで。それにねこにはよくしとくもんだ」
どうやら送ってくれるのはパパのおかげらしい。
「やっぱりさっきの町でもそういう信仰が?」
「いいや。あんなのは猫神町だけだ。普通の町でやったって誰もついてこないよ。ただあそこは町って名前だけど実際は村みたいなもんでね。全員知り合いの狭い社会だからあんなことができる。特に年寄りは猫神伝説を信じてる人が多いからな」
「猫神伝説?」
「よくある話さ。悪いことすると神様に罰を受ける。その神様があそこじゃねこなんだ。詳しいことは知らないけど町のどこかに伝説を解説した看板があるよ」
「ああ。観光地とかによくある」
「そうそう。知りたいならそれを読んだらいい」
行ったら見ておこう。資料になるかもしれないし、写真も撮っておいた方がいいな。
「変な町だよ。こっちの人であそこに住みたがる人はまずいない。町長がどんどん訳の分からん条例を作っていくしな」
「そんなに変なんですか?」
「まあ、行けば分かるよ。説明するより体験した方がいい」
おじさんはイタズラっぽく笑う。どうやら俺を驚かせたいらしい。
話をしていると前方に古いトンネルが見えてきた。たしかトンネルが通ってる山を越えれば猫神町だ。
「元は冬になると雪で閉ざされた村でねえ。あのトンネルができるまでは村と村の行き来も大変だったそうだ。でも角栄が日本列島改造論だかを言い出して、あそこにトンネルを作ったんだ。それで出入りが楽になった。でもうちのばあちゃんの話じゃあれができる前からあっちの住民は冬もこっちに来てたらしい。どうやってかは知らんが、きっと地元の人間だけが知ってる道があるんだろう」
「あの山を越えてたんですか? かなり険しそうですけど」
「昔だからねえ。それくらい普通だったのかもなあ。地元の人しか知らない山道もたくさんあるし、きっとそこを通ったんだろう。戦争の時もあっちの住人がこっちの町にあった軍需工場に駆り出されてたって話もある。けどこっちからはほとんど行かないせいで変な風習が知られないままでな。猫神町では温泉が出るんだが、トンネルが通って行ってみるとみんな驚いたらしい」
「それってねこを敬うからですか?」
「ありゃやりすぎだがね。あそこじゃねこが神様なんだ。尻尾でも踏んでみな。村八分にされるぞ」
「まさか」
俺は冗談だと思って笑っていたが、おじさんの顔は真面目だった。
「……本当なんですか?」
「最悪捕まるかもな。そうじゃなくても追い出される。だからそいつを大事にするんだ。でないとどうなっても知らないぜ」
おじさんの忠告は随分と真剣さがあった。
送ってくれたのもねこを連れて困っている俺を無視したなんてことが町の人に知られたら二度と猫神町に入れないと考えたからかもしれない。
この予想が合っていたならとんでもない町に向かっていることになる。
そんな後悔がよぎった時には車はトンネルへと入っていった。
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