それは奇妙な町でした

ねこしゃけ日和

文字の大きさ
11 / 69

11

しおりを挟む
「ついてくるな」
 町の中心部に向かっている途中、俺は振り向いてそう言った。
 俺の後ろにはキャリーバッグをゴロゴロと引っ張る朝陽がいる。
「仕方ないじゃない。二人とも目的地は同じなんだから。大体女性が重い荷物に困ってるのよ。助けてあげようって思うのが普通じゃない?」
「こっちはねこ持ってるんだよ」
「じゃあ交換しましょうよ」
「断る。自分の荷物くらい自分で持て」
「ケチな男。というかなんでねこなんて連れてるの?」
「……そういう時もあるだろ」
「どんな時よ」
 朝陽は呆れながらキャリーバッグを持ち替えた。
「それにしても面倒よね。一度役場に行かないといけないなんて」
 そう。見落としていたが地図の端には注意事項として旅行者は必ず役場に向かうよう書かれていた。なんでも滞在許可証を発行するらしい。それがないと町に泊まることはできないそうだ。
 そう言えばホテルを予約した時も許可証がどうこう言ってた気がする。よく分からず適当に流したが。
 役場は町の中心部にあり、この道を行けば近くまで行けるはずだ。
 大きな建物みたいだし、ある程度歩いたら見つかるだろう。
 すると綺麗に整備された道の先に野菜と山菜の直販所が見えた。トタンの壁と屋根で作られた簡素なやつだ。
 その横の椅子で老婆が座っている。細かいことはあの人に聞こう。
 そう思って近づくと先に老婆がこちらに気付いた。なにに驚いたのか目を見開いている。
「あの、役場って――」
 どこにあるんですかと聞こうとした時、老婆は深々と頭を下げた。
 俺と朝陽は訳が分からず顔を見合わせる。
 しばらくすると老婆は顔を上げた。
「こんにちは。あんたら、外の人かい?」
「え? あ、はい」
 まるで地中深くから掘り起こされたような、なんとも雰囲気がある老婆だ。
 老婆は道の先を指差した。
「役場ならこの先にあるよ。運送業者を過ぎたところ」
「あ。そうですか。ありがとうございます」
 会釈すると老婆は俺を見つめ、椅子から降りた。
「ちょっと待ちな」
 老婆は直売所に入るとなにやらガサゴソ探し始めた。戻ってくると手にはビーフジャーキーの固そうな袋が持たれている。
「これを」
「え? いいんですか?」
 こういう物をくれるところは田舎だ。都会と違ってまだ人の温かみが残っている。
「ありがとうございます。ホテルでいただきます」
「阿呆。お前にじゃない。そちらの方にじゃ」
 後ろにいた朝陽は嬉しそうに「あたし?」と自分を指差す。
「ちがうわ。どうぞこれを」
 老婆が渡したのは俺でも朝陽でもなくパパにだった。パパは興味深そうに袋をクンクンと嗅いでいる。
「パパにですか……」
「黒ねこ様は猫神様の目として我らを見張っておる。悪行は許されん。よくしておくものじゃ」
「いや、さっき来たばかりなんですけど」
「関係ない。この町のねこは皆猫神様の使いじゃ。いいか? これは黒ねこ様への貢ぎ物。人間が食べるんじゃないぞ」
「……はあ」
 ビーフジャーキーを受け取るが、自分へじゃないと分かると少しガッカリした。そんな俺を見て老婆は嘆息する。
「仕方ない。お前にはこれをやろう」
 そう言って差し出されたのは見るからに手作りのお守りだった。
「これを持っておれば猫神様が守ってくれるじゃろうて」
「……ありがとうございます」
 これならビーフジャーキーの方がよかったな。そう思っていると老婆は手を開いてこちらに伸ばす。
「はい。五百円」
「え? お金取るんですか?」
「当たり前じゃ。ほれ」
「……しょうがないな」
 財布を取り出して中から百円玉を五枚摘まむと老婆に渡した。これじゃあビーフジャーキーとお守りを買ったのと同じだ。
「よいか。お守りは肌身離さず持ってるんじゃぞ。そしたら猫神様が守ってくれる」
 老婆は俺にそう言うとパパに頭を下げ、手を合わせた。
「黒ねこ様もどうかよい旅を」
 パパはなにも答えず、俺の持ったお守りを興味深そうに嗅いでいた。少しずつだが、変な町な気がしてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

処理中です...